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ヒグマを追って、海に出る理由。ノルマを捨てて視点を育てる。動物写真への取り組み方 #07

ご無沙汰しております…。自然写真家のnote、更新が遅れてしまいました。
すみません…!記事を書くべき8月の下旬、実は東京にいなかったのです。
そう、僕はこんなことをしておりました…。

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一年ぶりとなる北海道、知床への遠征。
半島先端部へカヤックで。ちょっとした冒険です。
知人であるガイドに特別にお願いして、二人で一艇に乗り込み、
数日をかけて知床半島を羅臼からウトロまで漕ぐという長丁場のエクスペディション。

このマガジン"自然写真家のnote"には、次に書こうと思っている主題もあるのですが、せっかくですから、今回は行ってきたばかりの遠征の写真を交えながら、撮影活動について思うことをお話ししてみたいと思います。

■ "撮影"と"発表"のバランスを意識する。

春先から、8月の下旬は知床に行くと決めていました。
知人のガイドのスケジュールを押さえて、フェリーも予約済み。
早くからそうした手配をしたのには、一つの理由がありました。

今年の春から初夏は、本州での撮影に取り組んでいて、血眼になって東北や信州の森や林道、山を歩いていたのですが、狙うカットは非常に難しい一発勝負で、どうしても思うような撮影をすることができません。
長い時間をかけて取り組む以上、写真家として、撮影活動にかかるコストと成果の兼ね合いを、考えないわけにはいきません。
8月の下旬、もう少し頑張れば…と足掻きながら、焦りばかりが募り、身体も精神も疲弊していきます。しかし、撮らなければ始まらない。

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一方で発表(展示や掲載等)のことも、常に念頭に置いておかねばなりません。撮るだけでは、誰にも何も伝えることはできないからです。
残念ながら僕の場合、本州での撮影成果は、まとめて発表するにはまだ少し遠い。しかし北海道での撮影は一定の成果を得ており、そこを肉付けして発表活動に移る方が、より具体的であるという考えがあります。

本州の撮影に没頭したい。もっと挑戦したい。
しかし北海道の、もっと見たい景色もある…。
残念ながらこの二つを同時に追うことはできません。
本州での撮影にこだわり過ぎれば、僕は北海道に足を向けないまま、
発表の機会を失い続けることになるのではないか…。
という懸念がありました。二足のわらじは難しい。

本州での撮影に固執して、視野の狭くなった自分を、そこから無理やり引き剥がす。自分の性格上、そんな対策が必要だと考え、春先に先手を打って予約を入れていたのです。それがこのカヤック行に取り組んだ、大きな理由の一つと言えるのかもしれません。

■「撮れなくてもいい」遠征が必要だった。

カヤックでの知床半島周回は、今年で2回目になります。
できれば毎年の恒例にできればなんて考えているのですが、
このカヤック行には、ちょっとした一つのこだわりがあります。
それは「ヒグマの撮影を第一の目的にしない」ということでした。

自らの足で被写体を探す、野生動物撮影。
被写体との出会いは、どんな形であれ貴重な体験になります。
特にヒグマは僕にとって出会うのが難しい動物で、
「会いたい」という思いが強い分、出会うと必ずシャッターを切ってしまう。そこに撮り手としての取捨選択の視点は無かった。
要するに「見たら必ず撮る」といった感じになっていたわけです。
ある時、ふと気づきます…。ちょっと待てよと。「撮らされてるな」と。
それって、写真を撮る人間としてどうなの?と…。

フィールドを歩き、ヒグマに出会えるようになってきた頃、「撮りたいヒグマ」は何なのか、と改めて考えるようになってきました。
草・果物・木の実・虫・魚…。ヒグマは、本当に様々なものを食べます。
そしてその時の食べ物に合わせて山から森、河岸へと移動する…。
そういったことがわかってくると、徐々にヒグマのいる情景を意識して撮影に臨むようになっていきます。時々noteでもご紹介していますが「森のヒグマ」「山のヒグマ」「雪の中のヒグマ」そして「海のヒグマ」…。

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そしてヒグマを追ってフィールドをひたすらに歩くうちに、そこからヒグマの存在そのものが抜け落ちていきます。否、反対に身近になったが故に彼らの棲む世界の風景そのものが見たい、と感じるようになってきたのです。

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いくつかある僕の北海道のフィールドの中でも、最も足繁く通ってきた知床半島。たくさんのヒグマたちが暮らす場所でもあります。その象徴的な風景を、人力でアプローチして、海からの視線で眺めてみたいというのが、このカヤック行の一番大切な目的。
知床の自然を純粋に楽しむ。撮れ高(撮影効率)は気にしない。
そういった旅を一年に一度していれば、「撮らなきゃ」「撮れない」と呪文のように呟いて凝り固まった僕の精神と撮影者の視点を、良い形でほぐして広げてくれるのではないかと考えています。ある意味、撮影者の心の洗濯ですね。

■ 遠回りが視点を育て、効率が写真を平均化する。

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