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日本のクマを撮る、ということ。 #22

大変ご無沙汰しております。自然写真家のnote、ようやく更新です。
気が付けば今月(2022年8月)で野生動物の撮影を始めて、ちょうど10年になっていました。と、いうことはクマを本格的に追い始めて10年。
ちょっと感慨深い出来事もあったので、今日はその時の気持ちを書いています。是非ご一読ください。

先日のこと。
その日こなさなければいけないデスクワークを終えて、
撮影に出ようと思った。しかし、もう半日ちょっとしか時間がない。
迷ったけど高速に乗って、日帰りを強行した。
現地にわずか3時間ほどの滞在だったが、幸運にも被写体に出会えた。
この植生の風景の中に出会えることが、僕にとって大きな意味がある。

今年は、久しぶりに「夏のヒグマ」に挑戦するつもりだった。
標高の高い植生の中でのヒグマをもう一度撮りたい。
なんども歩いてきた山域の中で、場所も決めてあった。
色んな理由が重なって諦めざるを得なかったけど、
代わりに夏のツキノワグマに出会えた。
人生、塞翁が馬だ。

僕は、ツキノワグマを撮るのが下手だ。

ヒグマはそれなりにやってきた。
限られた特殊なスポットに集まったり、入り込んだりして撮った
同じような絵でなくて、
森を歩き、海辺をさまよい、山に登って
違った環境の中のヒグマを自らの足で追い、
その表情を含めて切り取ってきた。
『標高差1500mを越える旅』、である。

ヒグマはまだまだ掘り下げたいものや撮りたいシーンがあったけど
何年か前から、その力をツキノワグマに転じた。
僕が自分なりに培ってきたヒグマへのアプローチ法は、
ツキノワグマの撮影においても活かされるはずだった。

ところが、うまくいかない。
驚くほど撮れなかった。

何年も苦しんで、今も戸惑い続けている。
撮り方も間合いも、ズレがあって、
僕の中のヒグマへの強いこだわりが、
その齟齬を大きくしたのかもしれない。
まったくのビギナーだったなら、僕は今頃、
もう少しツキノワグマが撮れていただろう。
苦戦は続く。

今の僕はヒグマが「5」くらいだったら、
ツキノワグマは「2」くらいだろう。
僕の持ち点は「7」だ。
もしヒグマに専念していたら
ヒグマ「9」くらいにはなっていたかもしれない。

でも、僕のこの7点には、ヒグマ9点にはない意味がある。
それは「日本のクマ」という言葉に帰結する。
この国に棲む二種類のクマを表面上ではなく
時間をかけて追っていくことに意味がある。
本州の森を歩いてヒグマを思い、
北海道の森でツキノワグマを想像するのは、とても幸せなことだ。
その理由を適切に表現する言葉は僕の中でまだ見つかっていない。
ぼんやりと、太古の昔に本州の森を歩いていたであろうヒグマの姿と、
ブナの森が脳裏に浮かぶ。
あと1000kmくらい日本の森を歩いたら、
それは明瞭な言葉として、僕の中に出てくるのかもしれない。

ヒグマ9点か、日本のクマ7点か。
どちらも良いなぁと思うけど。
僕の人生は後者を選んだ。

しかしこの両輪を続けるのは難しい。
いつまで出来るかな?そろそろ止めざるを得ないかな?
などと考えている自分がいる。

両種ともに、クマをしっかりと追うことは大仕事だ。非常に難しい被写体だと思っている。大型動物故の危険もあるが、何より、食性が多岐にわたり、行動範囲が非常に広い。草・芽・実・虫・獣、それに場合によっては魚…。それら全ての食物に年毎の豊凶があり、それによってクマは行動を変える。
海辺から山稜まで、食性を知ったうえで、被写体の行動を予測しながら様々な手段でアプローチする。そして私の経験不足もあるが、予測通りに行くことはあまりない。

標高の高い岩場を歩くツキワグマをファインダーにのぞいた時、イメージが、北海道の山で撮ったヒグマの写真と重なった。
まだしっかりと確認はしていないけど、構図まで
ほとんど同じような写真になっているような気がする。
両種の違いを刻み込む様に感じながら、それがふと重なる瞬間に出会う。
日本のクマを追い続けてきた者にとって、それは幸せな瞬間だった。
その写真達は、いずれ何らかの形で公開したい。


「日本のクマを撮る」。
途方もなく長い途だ。ひょっとすると、前人未踏なのかもしれない。
野生動物の撮影を始めて、つまりヒグマを本格的に撮ろうと思い立って、今月でちょうど10年。被写体にツキノワグマを加えてから数えても、随分と長い時間が過ぎた。ずっと険しい壁だったが、ようやく、少しずつ、すこしずつ前に進んでいるような気がする。

お金も体力も時間もかかる撮影だ。危険もある。
いつまで続けられるかわからない。が、これはライフワークだ。
わずかずつでも、続けていけたらと思っている。


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