『コロナの現実とNext stepへのヒント』 夏野剛 x 中島聡 対談連載 5.日本の問題とこれからの会社のありかた
2021年8月24日に開催された夏野剛と中島聡氏が共同発起人を務める「一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ」の設立3周年を迎えました。それを記念し発起人のお二人が、コロナ禍による想定外の社会の非連続な変化と、それの影響による社会や働き方の未来について議論しています。
日本とは違うアメリカのロックダウンの現実やビジネスの変化。コロナ禍を経てこれからのKADOKAWAの”働き方・方針、社長のあるべき姿とは!”をトップ自らが語っています。
『コロナの現実とNextstepへのヒント』
1.アメリカでのコロナ禍の現実
2.KADOKAWAの大ヒットに依存しない経営
3.努力を努力と思わない仕事をみつける!
4.終身雇用の終わり!働き方をアップデートする
5.日本の問題とこれからの会社のありかた
政治家の難しさ
夏野:政治家はリーダーではないので、面白いです。そのような政治家、例えば、大臣等になった時にどっちのタイプかが見えます。大臣になった時に得体のしれない政治家がいる一方で、大臣になった時に得体の知れる政治家もいます。例えば、河野さんは得体の知れる政治家のパターンです。
中島:僕は河野さん、好きです。とても分かりやすいと思います。河野さんを総理にしましょうよ。
夏野:ただ政治家として、旗色鮮明というのは、700人、800人いる国会議員の中で互選で選ばれるのが総理なので。また、国会議員はそれなりに選挙区で選ばれてきているので、皆が対等だと思っている。これはきついので、僕は政治家になれないと思います。
中島:やらない方が良いと思います。例えば菅さんは典型的で、ほんとに何考えているのかわからない人でしょ。
夏野:それが、面白いのですが、官僚に対しては何を考えているのか明確なのです。だから、内閣府の人間や官僚は結構、菅さんはやりやすいそうです。むしろ、安倍さんの方が何を考えているのかわからないそうです。だから、官僚が把握できているのは確かにそうで、明確なのです。政治家の場合、どうしても国民に対するメッセージ性で見られてしまうので、もう一方の側面で官僚組織の親玉なので、そのような意味では、官僚の使い方を良く分かっている。
中島:二面あるから難しいですね。
夏野:二面あるから難しいんですよ。
中島:最近、夏野さんは日本政府絡みの仕事をやられているじゃないですか。
夏野:そうですね。前から日本政府絡みの仕事をやっていますが、政権側の仕事と言うよりは、規制改革をやっていて、規制改革は独立委員会になります。だから、規制改革推進会議というのは二年単位の任期なので、政権が変わっても、野党になっても二年任期は一緒になります。独立しているので、よくネットでは政権寄りになっていると言われるが、決してそのようなことは無いです。規制改革は、どちらかと言えば官僚は嫌がる仕事ですから、このような役回りが来たら、やらなければいけないなと思う仕事だと思っています。
中島:そうですか。僕の場合は会議が長そうで嫌だなと思ってしまいます。
夏野:そうですね、会議は頻繁に開催しますし、本当にのらりくらりで、面従腹背とはこういうことかと思うことがたくさん起きますが、今回のコロナ禍で日本もドキュサイン(*1)の話も1年間で一気に進みました。これは規制改革で「はんこ撲滅運動」をやり始めて、これがコロナで結構効いています。そういう意味では、緊急時ということに託けて前に進んでいるのは事実です。
(*)ドキュサイン(DocuSign)・・・180ヶ国以上で使われている電子署名サービス
日本は法律に沿ったビジネス(既得権益)ができる
中島:なんで日本は官僚が法律を作ってしまうのでしょうか。
夏野:議員でも作れるのですが、問題は官僚が正しく作る法律はあまり問題が無くて、問題は、一回作った法律を見直さない事なのです。だから時限立法がアメリカではよくあるのですが、5年で必ず見直すみたいな条項付きの法案が結構あるじゃないですか。本来なら、日本の法律はすべて時限立法すべきだと思っていて、5年間経ったら全面的に見直しみたいな条件をつけて通さないと、一回通った法律はその周りに色々な制度や外注先が付いてきますので、いじれなくなります。そっちが問題だと思います。
中島:日本は法律ができると必ず最適化されて企業、ビジネスが生まれるじゃないですか。
夏野:そうなんです。それが既得権益になってしまうので、動かしたくなくなるので、時限立法みたいにして、5年間で必ず見直しますとか、5年間経ったらもう一回法案通します。みたいにしておくと、だいぶ話が変わると思います。
中島:僕のところは親が結構な年なので、いわゆる老人ホームに入っているのですが、そこで学んだことは老人ホームのビジネスモデルが、介護保険のシステムに特化されているということです。あれは法律を変えない限り、今は10兆円くらいですが、どんどん増えて、とんでもない額になっていきます。あれは老人一人当たりをいかに介護保険の適用者にして、そのお金を吸い取るかという部分に特化されているではないですか?!
夏野:まさにその通りだと思います。
中島:あれは危ないですよ。冗談抜きで、10兆円が20兆円になり、40兆円になり、特に高齢化が進んでいくと、まずいと思います。
夏野:これは、厚生労働省が今までやってきたことは、まさに民間を活用して高齢者の介護を充実させることを実現させるために作ってきたわけで、それに特化するのが出てくるように設計されている訳です。
中島:でも彼らは、お金が欲しいがコストを掛けたくないので、介護保険から10万円位でるみたいですが、週に3回お風呂に入れてくれるという感じなのです。とんでもない税金の無駄使いをしているのです。
夏野:これはどうしようも無いです。そもそも最初に設計した時に、老人の比率が現在の状況になることは推測できても良いはずなのに推測していない。今の有権者を見ると、60代、70代、80代の投票率が異常に高いし、人口構成も多いので、そこに手をつけられない感じなのだと思います。
中島:破綻の道を歩んでいると思います。
経済学の実験
夏野:ただこれは恐ろしいことが起こっているのですが、マクロで見ると、60歳以上の個人金融資産が1,200兆円くらいあるのです。日本政府の公債、負債を全て含めると1,200兆円くらいあるので、そこでバランスが取れているのでそこまでは良いのですが、恐ろしいことが起こっています。今、企業の内部留保が460兆円くらいあるのですが、民間がお金を回せていない状態なので、マクロ経済で見ると政府がお金を回している状態になっています。政府がお金を回すためには、国債を発行しなければいけないので、国債を発行すると、民間がお金を回さない、個人が貯めているお金が国債を買っているので、日本経済全体で見ると、お金が回っている。しかし、民間企業経由ではなく、政府経由で回っているという状態なのです。なので恐ろしい形で、日本経済は破綻していないのです。
中島:そうですね。辻褄は合っていると思います。
夏野:だから、壮大な社会実験をやっている感じなのです。
中島:そうですね。普通だったら、ハイパーインフレになってもいいはずなのに、ならないと。
夏野:多少のインフレを目指しているのです。そうすると、国債の価値が相対的に下がるので、国民の老人たちが持っている金融資産も価値が減るので、皆がハッピーになるという考えです。言ってみれば、自然的に発生する徳政令みたいなことを狙っているわけです。2%のインフレ率を目指すというのは、まさにこういう事です。ところが民間でお金が回っていないので、物価が上がらないから、なかなかインフレにならない。なので、経済学の実験としては極めて面白いことが起こっています。
中島:アメリカでも最近は、デモクラット側の人が、日本の国債発行の仕方を見て、アメリカも真似しようという事を言い出している。
夏野:アメリカは貯蓄率が低いので、結局は国債を発行すると、買うのが日本と中国になってしまうのです。そうするとこれは、経済の危機に繋がるわけです。
中島:やめて欲しいですね。
夏野:国内で消化できないので、やはりこのパターンは取れないと思います。本当は辻褄を合わせるのであれば、相続税をものすごく高くすると、辻褄が合うのです。
中島:そうですね。みんな召し上げてしまえばですね。
夏野:ただその時に面白いのは、一億円位までは控除額にすると、8割、9割の人は、今までと同じように大して相続税を払わなくて良くて済むのですが、1割、2割の人がものすごい額を払うことになる。だから1億円の控除額にするといけると思います。
中島:日本は富裕層が最近はシンガポールに行ってしまっていませんか。
夏野:一昨年(2019年)の7月1日以降は、出国する時に課税されることになっているので、今はもうできないです。2019年6月末で出国ラッシュは終わりました。それ以降は出国して移す時点でその時の資産に課税されるようになりました。
中島:それはいい事ですね。出国となると悲しいですから。
集まった時は、仕事をせずに遊ぶ!
司会:今回の対談を視聴している方からの質問を頂いているので、そちらについても答えて頂きたいと思います。
夏野さんへの質問で、リモートワークでの新人採用は難しくないですか?
夏野:リモートワークでの採用は普通に行っております。唯一、びっくりするのは、リアルに会ってみたら、すごく背が高いことに驚いた。それがわからないことくらいです。背が高かろうが低かろうが、あまり影響がないので、新人採用は全てオンラインで完結しています。4月1日の入社式の時に初めてリアルに会うので、そういう時に意外にでかいと驚くことはあります。
中島:その後はリモートで働いてもらうのですか。
夏野:結局、リモートで働いてもらうことになるので、背が高かろうが、低かろうが関係無いです。
中島:うちの会社は基本すべてリモートなので、仕事はリモートとなるので、個人的には全然会わない訳です。なので、時々集まるのですが、集まったときは仕事をせずに遊び、せっかく一緒に過ごせるので、雑談して、食事して、ゲームして、家に帰ってから仕事をします。逆になりました。
社長の考え・発言が大切 社長の考えをよく聞く
司会:続いて頂いている質問です。
リーダーやトップはわかりやすいのがいいという話があったと思うのですが、今の会社の社長が去年変わったのですが、何をしたいのかがわかりません。その他、トップの気持ちが解るようになるには、どのようにしたら良いのでしょうか。経験を積むことでしょうか。
以上の様な質問が来ております。いかがでしょうか。
夏野:まず、何をしているのか解らないというのはどのようなレベルで言っているのか判らないので何とも言えないのですが、社長が何を考えているのかわからないというのは、どういう価値観を持っているのかわからないと言うこと、その下の人達は皆、疑心暗鬼になってくるのです。もしかしたらこのように思っているのかもしれない。いや、違うのかもしれない。それはものすごくコミュニケーション・ロスを生むので、あまり効果的に人を動かせていないという事になると思います。それから、トップのことが理解できるようになるにはどうしたらよいですか。という質問ですが、それが伝わっていない時点でトップが悪いので、下が何かする必要は無いと思います。
中島:大切なことはトップが言っていることを聞くことです。意外と頭の悪い人は、間にいっぱい居るので、上司と上司の上司が違うことを言うことがしばしばありますが、表向きは「はいはい」と言っておけば良くて、聞かなくて大丈夫です。トップの言うことだけ聞いていれば大丈夫です。マイクロソフトでもそのような経験を何度もしています。最悪の場合は、上の人をクビにしたことがあります。あまりにも変なことを言い出したら、上司の上司に、上司が言っていることがビルゲイツの言っている事と違うよと言えばしっかりと聞いてくれるので大丈夫です。それを聞かないような会社であれば、その会社を辞めた方が良いですが、変な人は飛ばして、トップの言うことを聞きましょう。
司会:夏野さんがあるあると頷いていましたが、実際に経験があるのでしょうか。
夏野:やっぱりあります。本当に面倒くさいですね。
終わり
『創造的でなければ死んでるのと同じ』 夏野剛✖️松本徹三 対談連載1〜7
1. 地獄を知っている二人!?
2. 迷った時は遠を見ろ
3. 海外から見た日本
4. AIの未来、人類を救うのは!?
5. 知識の幅を広げよう
6. 日本の市場と会社の限界
7. 若者よ、会社や社会をハックせよ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?