琉球の天の川はずっと高いところで笑ってる(Dr.コトー編)
最西端の風の音を聴きながら、国境の地にいる自分を感じる。容赦なく吹き付ける風は、ここから先へは行かさないと警告を発しているようだ。
昨日まで降っていた雨はもうすっかり上がり、緑の草花が生い茂った地面は、うっすらと南国独特の心地良い匂いがする。
展望台から今し方登ってきた坂道を見下ろすと、先ほど追い抜いたアライグマ男が歩いてくるのが見える。アライグマ男というのは、同じゲストハウスに宿泊しているお客で、僕と同じく原付バイクを借りて島を探索している男性です。容姿は良く言えばアライグマのように可愛らしく見えるが、暗くてオタクっぽいと言えば合点がいく。
「遅かったですね」と声をかけてみた。
「はい、お借りしたバイクが遅くて、ははは」
やはりあの年季の入ったバイク(パッソル)は遅いんだ。無理もない。初めて会話しましたが、思っていた以上に明るい。話を伺うと、普段は千葉県で普通の会社員をしており、今回はひとりで旅を満喫しているのだという。
数年前流行っていたテレビドラマ「Dr.コトー診療所」が大好きで、ロケ場所を訪れる目的で与那国島まで来たのだと言う。
「Dr.コトー診療所」かぁ、、、面白かったなぁ。都会の医師が突然、離島で診療をはじめるドラマだったかな。離島での過酷な医療状況とともに、島のゆったりした時間の流れや人間模様が情緒あふれるタッチで描かれている。忘れてしまっていた大事なものに気付かされる印象的な作品でしたね。
よし、僕も行ってみよう。
思い立ったらいち早く西崎を後にした。
「アライグマ男さん、またね!」
西崎から湾岸道路を只管まっすぐ進む。看板もなければ信号もない。僕の原付はフルスロットで風を切って走る。気持ち良すぎて涙が出そう。
確かにドラマのままだった。
放送から既に20年くらいが経過している。
僕が訪れた時は誰の姿もなかった。
拝観料はたったの¥300。入口のトレイに置いておくだけの自由度は離島流なのだろう。都会では考えられないシステムだ。
アライグマはこちらに向かっているのだろうか。
それでも30分くらいは滞在しただろうか、待てど暮らせどアライグマがやってくる気配はない。西崎に彼を放ったらかして来てしまったことに些か申し訳なさを感じましたが、まさか二人乗りで来るわけにもいかず、深く考えないことにしました。
しかし、これが後になって後悔することになります。
アライグマの到着を待たず、僕は診療所を離れることにしました。
次の目的地は、島の真逆に位置する東崎。太陽が昇る東だから、アガリと読むのだという。ここからはまだまだかなりの距離がある。
ジョグをかっ飛ばして東崎に向かう途中、立神岩なる島のシンボルがありました。たまたま居合わせた方に島に伝わる伝説を教えていただいたのですが、これがまた信じられない。
なんでもその昔、海鳥の卵を取ろうとこの岩に登った二人の輩がいたそうで、一人は足を滑らせて転落死、もう一人は恐怖に怯え降りられなくなったという。そこで、自分の行動を詫びて眠りについたところ、目を覚ました時に無事に戻れたという伝説です。
そもそもこんな所にどうやったら登れるんだ。果たして卵欲しさにこんなところまで登る気になるのだろうか。まぁ、伝説なんだろうが、だいぶ端折っている気がしてならない。本当はもっと大事な理由があるのだろうと、勝手ながらに想像してしまいます。
東崎についた時、見覚えのある車がポツンと停まっている。
カマキリ男が借りた車だ。カマキリ男とは、アライグマ男と同様に同じゲストハウスに宿泊している長身の男性です。
でも、周りを見渡しても彼の姿が見えない。
どうしたんだろう。
立神岩に登ったのか。まさか、、、もしかして卵が欲しいのか。
今回はここまで。
最後まで読み進めて頂きありがとうございました。🌿
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