物語『スター』

題名
『スター』
(裏テーマ・風に身をまかせ)

(約1382文字)



 あれは何年前だろう。

 私はまだ高校生だった。

 友達がアイドルに憧れていて、あるグループのオーディションを受けるのに不安だから一緒に受けて欲しいと懇願された。

 私は歌も下手だし踊れないしリズム感も無いから恥はかきたくないと固く断った。なのに勝手に私の分も応募してて、オーディションの日になかば強制的に付き添わされて参加した。


 あれだけ憧れて毎日のように練習して努力してた友達は早々とあっけなく落ちたのに、私はなぜか残っていった。

 顔もスタイルも友達の方が綺麗なのにドブスの寸胴のペチャパイの私を運命はもてあそんでいるようだった。


 そして研究生として合格した。

「君はやる気がないところか面白い。でも、本気になったらもっと面白そうだから残した」

 審査員のどこかで見たような顔の人がそんたことを言っていた。


 そして練習の日々が始まった。

 私は基本やる気のないグータラが幸せの人だけど、負けず嫌いは筋金入りだった。ライバルに勝ちたいわけじゃなかったけど、負けて見下す目で彼女たちに見られるのが腹が立って本気になっていった。


 そしたら、グループに入ってデビューすることが決まった。いつの間にか同期で最初のデビューだった。

 

 ドブスだとコンプレックスを抱いていた顔も、メイクさんに言わせると化粧映えする顔だそうだ。本当かよって思ったけれど、プロのメイクさんの技術はすごい。私が完全にニセモノに変身していた。少し自分が好きになった。


 デビューするとSNSで少し話題になった。でも私は目も耳もふさいだ。どうせ悪口だ。わかってる。見たら傷つく。


 ある日、グループのプロデューサーに呼び出され、怒られるのかとドキドキして会いに行ったら、

「今度の新曲のセンター、お願いね」

 そう言われた。

 私は理解できずに返事もしないで立ちすくんでいた。ポカリと口を開けたまま。


 それからは記憶が曖昧だ。

 あまりに凄まじかった。歌は記録的な大ヒットになった。

 私はめちゃくちゃテレビに呼ばれるようになり、いつしかグループの顔のように言われていた。


 やったことのないドラマの仕事も頼まれた。映画にも出演したら話題となり女優としていろんな賞ももらった。


 グループとしてもヒットを連発して、下手だった歌もファンの中では歌も踊りも上手な子だと言われていた。


 人生は不思議だ。

 あの日、オーディションの日、友達を失いたくないから私は風に身をまかせる覚悟をした。

 なのに、その友達とは仕事が忙しくてあまり付き合えなくなっていた。たまにメールのやり取りはあるけど、めっちゃ気を遣われていることが伝わるから、私も気を遣うようになった。

 

 恋人は欲しいし、実は有名なタレントさんからもアプローチはあるけど、みんな断っている。

 私は私を応援してくれる人が一番大切だから裏切りたくなかった。風に身をまかせてって言ったけど、その風はファンの人が作ってくれた風だから。


 今、ギターの練習も始めた。

 作詞作曲をして、いつか私の想いを歌にして届けたい。


 女優も続けたい。

 演技も面白いけど、一番はいろんな人と会えることが嬉しい。

 協力して、作品を作り上げるプロセスが楽しいし感動する。


 風が止んで、ズッコケて?落ちるまで飛び続ける。

 本気の私を私が、見たいから。 



【終わり】





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