黄昏に咲く虚ろな青春(仮)
以前にも増して情熱が溢れてくる。
すぐにでも練習をしたい気持ちに駆られながら、
もう一通来ていた手紙のことを思い出す。
封を開けると同時に吉報が目を開かせた。
「おめでとうございます。一次審査通過いたしました。」
少し前まで絶望していた自分が嘘のように、心は踊る。
こんなに上手くいっていいのか。
このチャンスを逃すものかと、拳に力が入る。
実際に、どれほどの人数が合格しているかはわからなかったが、
そんなことを考える暇もなく、ただただ嬉しかった。
音楽をやっていると感情の起伏に少し疲れることがある。
もちろんどの世界でもそうなのだろうが、
感情や感性がそのまま直結のは、芸術の類には典型的だ。
感情が大きく動いた時は、曲が書ける。
オーディションが終わってから、沈んだ気持ちの時は、
マイナー調の曲が面白いくらいに溢れてくる。
合格通知が来れば、それはメジャー調に変わり、
アップテンポな曲が、頭を駆け巡る。
こうやって生きていく音楽家は、感情を餌にして己を磨くのだ。
二次審査はどちらも1ヶ月ほど準備期間があり、
その間に作曲と練習を積み重ねた。
東京で出会った人達には、応援してもらい、
ますます気持ちは昂ぶった。
ひなさんには言おうか。
いや、結果を出して、びっくりさせてやろう。
東京に出てきて、まだ一度も会ってない彼女には、
成長した自分を大きく見せたかった。
ーーーー
長くも短くもあった1ヶ月が過ぎ、まず臨むのは特別選考会。
一次審査の時とは違い、人数はかなり抑えられ30人ほどが集められていた。
本選に進んだのが何人いたのか見当もつかないが、
相当数落とされているのはなんとなく想像がついて、
ここに残れていることだけでも、名誉あることなのかなと
自分を少し誇らしく思えた。
今回の審査員は、音楽部門を総括するお偉いさん。
前回よりも全員に緊張感が走る。
「俺たちは遊びでやっているわけではない。
世に即戦力で出せるミュージシャンを探しているんです。
自分を偽らず、全力で向かってきなさい。」
熱い言葉が会場内に響き渡り、芸能界の温度感が背筋を冷やす。
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