清水博之

訪問ライター。著書に『韓国タワー探究生活』(韓国語、ユアマインド)、訳書に『古本屋は奇…

清水博之

訪問ライター。著書に『韓国タワー探究生活』(韓国語、ユアマインド)、訳書に『古本屋は奇談蒐集家』(ユン・ソングン著、河出書房新社)、『最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集』(共訳、河出書房新社)、連載に北陸中日新聞『雨乃日珈琲店だより』ほか。ソウルにて雨乃日珈琲店を運営。

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鎮安、世界一大きいハサミと恋人たちと将軍(2023年5月)

 数年ぶりに全州国際映画祭を訪れた。遠い国の最新映画を朝から3本連続で観て大満足の私。このインフレ時代に2万Wという地方ならではの激安モーテルに泊まり、明日もいっぱい映画を観るぞと意気込んでいたものの、ふと明日の予定が埋まっていることに嫌気がさし、日付が変わる前に全てのチケットをキャンセルしたのだった。前日までキャンセル無料というのが、韓国映画祭の良いところであり悪いところでもある。  朝起きて、さあ何をしようとネットで地図を広げる。わくわくするとともに、私は一体何をしている

    • 240314現場

       所用で乙支路を歩いていたら、駐車場管理のおじさんが周囲の人々にご立腹の様子で「ジョッカットゥン■ッキドゥラ!」と、いい声で怒鳴っていた。これは韓国語で言うところのヨク=罵詈雑言であり、とてつもなく汚い言葉である。どのくらい汚いかといえば、もし私が友達に言ったら絶交されるレベル、公の場で言ったら炎上するレベル、録音されたら侮辱罪で訴えられるレベルである(お子様がうっかり真似しないように一字伏せました)。  とはいえ日本人/日本語話者の私には、その言葉の汚さが肌感覚では分から

      • 240310比喩

         妻がテニスをしたいというので、初めて無人テニス場とやらに行ってみる。近所のビルの地下1階にそれはあった。採光は全くなく、天井高も普通のオフィスと変わらない倉庫のような空間に、アクリル板とネットで区切られた半分の大きさのコートが3つ。係の人は誰もおらず、勝手にコートに入ってタブレットを操作すると、ボールがぽこぽこ飛んでくる。  30分間もくもくとボールを打ち返す妻を眺めながら、ここは私の知らない韓国だと思った。前から知っていたビルの一階に、こんな空間があったなんて。20年近い

        • 240228三大

          3週前に閉店したトムズピザが、看板も内装もそのままで別の人(トムでもない若い韓国人)が運営している。こんな裏道にあるピザ屋なんて常連客のおかげで成り立っていたはずなのに、全く関係ない人がそのままやって(しかも高い権利金払って)どんなメリットがあるんだ……。わからない。韓国三大七不思議のひとつである。 

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        鎮安、世界一大きいハサミと恋人たちと将軍(2023年5月)

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        • 自営業派非営業日記
          21本

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          240226更新

           ビザの更新がストレスのあまり出入国管理事務所に行くたび必ず下痢をする体質なのだが、今日は別の要件で出入国管理事務所のサイトを開いただけなのに、いきなり下痢に襲われた。呪いのホームページか。  以前(240207)も書いた「沈黙」という名の私語禁止カフェで、2日間限定の「私語可能」イベントをやっている。それって普通のカフェではないか。  夕方はライブを観に乙支路へ。地下鉄周辺は混雑しており、日本人の姿も驚くほど多い。コロナ前とは比較にならない。  昔は町工場だらけだった薄

          240224職人

           店で使用している共同トイレ、普通の洋便器なのだが、よく見ると便座のすぐ下にあたる便器、陶器でできた楕円のようなホームベースのような部分がありますよね、それがよく見ると左右対称ではなく不自然に右側にふくらんでいるのである。設置の際にずれたのではなく、陶器自体がぐいんと歪んでいる。  用を足すのに困ることはないのだが、これって工場で同じ型を用いて大量生産するものではないのだろうか? ひとつひとつ職人の手作り?

          240223禁断

           L韓医院の先生は肉を食うなと言うが、旧正月のお歳暮で友達にいただいた済州産の牛肉の塊が冷凍庫にあったので、焼いて食うことにした。生焼きで血の滴る高級肉を、ご飯など挟まずサラダだけでもりもり口に入れる。正直、めちゃくちゃうまくて力が湧く気がした。翌日には口内炎も直るほど。  禁断の食は罪悪感を抱えて食うからうまいのだ。これからもどしどし隠れて食べていきたい所存である。

          240222状態

           珍しく積雪。韓医院の後、買い物をして店に行き仕込み。昼は近所の日本食材屋で蕎麦を買って蕎麦。夜は望遠に向かい、友人と豆腐のちバー。  返品しなければならない商品があるのだが、宅配会社からは昨日の何時に取りに来ると連絡があったのに、以降全く音沙汰がなく既に二日目。その間ずっとは玄関の前に置きっぱなし。腹が立って当然である。  どうなっているのかと問い合わせたいが、届いているメッセージには連絡先は一切書いておらず、詳細はアプリをダウンロードしろとだけある。非常にめんどくさいが

          240221評価

           大使館に用があり、タクシーで「日本大使館」と言ったら、また慰安婦像の前で降ろされた(240213の続き)。しかも今回はタクシーアプリを使って降りる場所を指定したのにカーナビは到着前に消され、別ルートを通って慰安婦像の前で降ろされた。ここから大使館の正門までは、建物の脇をぐるっと回って行かねばならず非常にめんどくさいのだが、タクシーが臭いので一刻も早く下車。アプリに運転手の評価を聞かれたが、もちろん星ひとつだ。  みぞれが降る久しぶりの寒い日。中古書店(大型チェーン店)のJ

          240220川魚

           L韓医院5日目。肩と腰の痛みについて先生は「そろそろ治っていいはず」と言うので、負担に感じながらほぼ毎日通っている。正直、どのタイミングでやめようかと思っていたが、先生の「食べ物に気をつけて早く寝れば治る。鍼は助けるだけ」という他の病院にはなかった主張が興味深く、もうちょっと行ってみようかという気になっている。なぜ川魚はだめで海魚はいいのか質問したら、またはぐらかされた。  ハンドミキサーの羽が壊れたので大手メーカーに問い合わせたら、現在工場から取り寄せているところで一か

          240219冒険

           さすがに原稿を書く時間がなく店を休む。収入は減るが、仕方ない。  夜、突然カーッとなってグーグルマップに星ひとつのレビューを書いた。   先月ひとりで青森に行った際、ちょっと冒険がしたくなり、ネットで調べず自分の勘だけで裏道の居酒屋に入ってみた。そこはいかにも昭和という寂れた雰囲気で、店を切り盛りするのは優しそうな東北のおばあちゃんふたり。通されたカウンターには醤油や七味と並んで、ペンやホチキスが入った実家箱が置かれている。これは名店かも?  先客もいるので安心したのだが

          240218要素

           夜、友達の家でホームパーティー的な集まり。コルベンイムッチム(ツブ貝と素麺をコチュジャンで和えた料理)が配達で登場すると、友達の韓国人男子が透明なビニール手袋を右手にしゅっとはめた。慣れた感じで料理をぐちゃぐちゃ混ぜたかと思えば、そのままお皿に盛り分ける。辛そうな部分と、そうでない部分を均等に配分する気の遣いようだ。  その間、使われていない左手はもちろん背中にあった。そのジェントルな左手に、韓国を構成する大切な要素があるように思った。

          240216体質

           L韓医院、通院3日目。先生は丁寧で熱心だし、治療費は一回700円と安いが、予約して毎日行かなければならないのが面倒で、昨日食べた物のチェックもある。もっと気軽に行ける雰囲気なら最高なのだが、ここ最近の韓医院ソムリエの旅で会ったことのないタイプの病院だったので少し付きあってみることにした。正直、肩や腰が劇的に良くなっている気はしないのだが。  今回は鍼治療の最後に、あなたの体質はこれですとカードを見せられた。人の体質を八つに分類すれば(韓医学の宗派によって様々な分類がある)、

          240215宅配

           いつも歩く道に「BAPLIX」という宅配弁当屋がある。バップリックス。前を通るたびにいつも違和感を感じていたのだが、今日その正体が分かった。店名ロゴが「NETFLIX」のオマージュなのである。店名も、ごはんを意味する韓国語「BAP」を人気のネットフリックスにかけたのだろう。  しかし、いくらなんでも「NET」と「BAP」は違い過ぎるのでは? そこは百歩譲っても、そうであるなら「BAPFLIX」とFを入れるべきなのでは? バップフリックス、でいいじゃないか。  考えれば考える

          240214逡巡

           最低気温7度という、ぬるい気候。半袖の人もいる。  韓医院ソムリエはまたもや違う韓医院に行ってみた。ネットでの評価は高そうなL医院。待ち時間にさっそく体重や体脂肪や血圧、ストレス数値などを図ってくれる。丁寧なのはいいが、正直「疲れてますね」と言われても……である。疲れてるからここに来てるわけだし、初診料が心配。しかも先生が書いた韓医学の本もくれて、勝手に治療費に入っていないか心配。  先生の施術は丁寧で良かった。どこが悪いと説明してくれ、鍼も出し惜しみすることなく広範囲に

          240213手紙

           大使館に用があり、タクシーで「日本大使館」と言ったら、慰安婦像の前で降ろされた。像の周りには多くの警備員がいて、運転手は「大使館は像のあるビル」と言うものだから、私もそうだろうと思いビルに入ったところ、全然違かった。それで思い出したのだが、像は大使館を見つめる場所に立っており、つまり道路の向こうの1ブロック先に見えるビルが日本大使館というわけだ。市井の運転手が「慰安婦像=日本大使館」と信じていることが、雑で面白いと思った。  家に帰るとドイツから手紙が来ていた。  10月