清水博之

訪問ライター。著書に『韓国タワー探究生活』(韓国語、ユアマインド)、訳書に『古本屋は奇…

清水博之

訪問ライター。著書に『韓国タワー探究生活』(韓国語、ユアマインド)、訳書に『古本屋は奇談蒐集家』(ユン・ソングン著、河出書房新社)、『最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集』(共訳、河出書房新社)、連載に北陸中日新聞『雨乃日珈琲店だより』ほか。ソウルにて雨乃日珈琲店を運営。

最近の記事

自営業派非営業日記 240207-240314

240207湿気 ルルララの社長に教えてもらった、阿峴に最近できたばかりの「沈黙」というカフェに行く。注文する以外はどんな小さな声でも発してはいけないらしい。静まり返った店内は良い音でクラシックが流れており、スピーカーの前にも一人用の特等席がある。レコードではなくCDというのもこだわりを感じる。  雑音の全くない環境が非常に快適で、既に店をやっている私もこんな店をやりたいと思ってしまった。とはいえ、もし遠方から友達がやってきたら一体どうするのだろう。NEWJEANSがやってき

    • 2023年9月、モンゴル2泊3日紀行~ウランバーとる場合ですよ

       まだ見ぬ異国を見たくてモンゴルを訪れた。  私が住む韓国からLCCで往復2~3万円台。2泊3日で現実逃避・異国体験するにはちょうどいい国と言える。もちろん草原やゲルを見るには短すぎる日程だが、私はとにかく首都ウランバートルを歩いてみたかった。  改めて、モンゴルには私なりに勝手なイメージや憧れを抱いていたように思う。かつての社会主義国。異国感ある言葉や文字、民俗衣装から食文化まで、個性の強いモンゴル文化。今ヒップホップが流行ってるとか? 人々は相撲に親近感があり、街には寿司

      • 鎮安、世界一大きいハサミと恋人たちと将軍(2023年5月)

         数年ぶりに全州国際映画祭を訪れた。遠い国の最新映画を朝から3本連続で観て大満足の私。このインフレ時代に2万Wという地方ならではの激安モーテルに泊まり、明日もいっぱい映画を観るぞと意気込んでいたものの、ふと明日の予定が埋まっていることに嫌気がさし、日付が変わる前に全てのチケットをキャンセルしたのだった。前日までキャンセル無料というのが、韓国映画祭の良いところであり悪いところでもある。  朝起きて、さあ何をしようとネットで地図を広げる。わくわくするとともに、私は一体何をしている

        • 弘大ロックバンド追憶#2

          Fiddle Bambi『ママ、トイレ』(2005)  2005年、アジア旅行から帰った私は東京にいたが、旅しなかった韓国のことが気になりだしていた。教材を買って韓国語を勉強しはじめ、新大久保の言語交換サークルや、高円寺にあった韓国音楽を流すバー「アジール」に顔を出しながら、韓国のバンドを探っていた。韓国の音楽にはまったというよりは、韓国と繋がるための手段としてロック音楽を選んだといえる。  今ならユーチューブで何でも聴けるが、当時の私はわざわざ韓国からネットショップでC

        自営業派非営業日記 240207-240314

          弘大ロックバンド追憶#1

          紫雨林『乞食』  2005年に会社を辞めて3か月ほどアジア旅行をした。神戸港から中国・天津に上陸、長距離バスに乗ってひたすら西へと向かいながら、それぞれの町でCDをジャケ買いして歩いたものだが、北京で手に入れたのが韓国の4人組ロックバンド・紫雨林(チャウリム)の5集アルバム『All you need is love』(2004年)だ。  そのころは韓国に対し特別な思い入れはなく、彼らについて知っていることは何もなかったが(当時の旅はまだガイドブックと口コミだよりで、旅をしな

          弘大ロックバンド追憶#1

          生きてる人はフグを食べる

          2018年11月9日に発生した、鍾路(チョンノ)考試院(コシウォン)火災事件のことを記憶している人はいるだろうか。 考試院とは、ひどい場合にはベッドと机しかない2~3畳ほどの狭い賃貸物件のこと。事件のあった物件は家賃月4万W(約4000円)という安さから低所得者の住まいとなっていたが、防災対策が十分でなく、火災から逃げ遅れた7人が亡くなる事態となった。 被害者の中には日本語教師をしていたという50代日本人男性もいて(どんなビザだったのだろう?)、何か他人ごとではない気がし

          生きてる人はフグを食べる

          私たちのコロナ禍は3月9日から始まった

          3月1日、私と妻は小松空港に降り立った。感染者数が3000人と世界で2番目に多い国(当時)となった韓国からの入国だ。厳密な防疫検査が行われるかと思いきや、いつも通り熱感知カメラの前をさっと移動するのみ。違うことといえば滞在日程を書いた紙きれ1枚を提出するだけで、しかも係員は目も通さない。思わず拍子抜けするばかりだった。 当時、感染への緊張感が最高潮に達し、フェイスマスクや手袋までして電車に乗る人もいた韓国に比べたら、日本の雰囲気は良くも悪くも穏やかだった。飲食店の店員がマス

          私たちのコロナ禍は3月9日から始まった

          芸術よゴメン『We are little zombies』雑感(でもない)

          2月下旬、日本映画『We are little zombies』を鑑賞した。両親を亡くした4人のクールな中学生が仲間となり、生活したり旅に出たりバンドしたりする物語。終始無表情な女子中学生(中島セナ)のセリフ「絶望、だっさ」にぐっとくる、かっこいい映画です。 2019年の富川ファンタスティック国際映画祭で見逃し、いつか観たいと思っていたところ、今年になってようやく韓国で封切られた。上映館のある聖水(ソンス)の「ダラクスペース」は、展示やライブも行う、最近できたばかりの複合文

          芸術よゴメン『We are little zombies』雑感(でもない)

          ガラスの破片

          朝、出勤すると、ガラスの扉が粉々に割れていた。 幸い当店の入口ではなく、上の階の住人が使用している別の扉だ。もともと観音開きの扉の片方があった空間が、ぽっかり無になっており、床には青いガラスの破片が大量に飛び散っていた。車がつっこんだのだろうか? 酔っ払いが割ったのだろうか? 夜中にここで起きた事件を想像し、私たちはぞっとするばかりだった。 やがてビルを管理するおばさんがやってきて、粉々になったガラスをホウキで掃きだしたので、「ここで何が起こったんですか?」と恐る恐る聞い

          ガラスの破片