240314現場

 所用で乙支路を歩いていたら、駐車場管理のおじさんが周囲の人々にご立腹の様子で「ジョッカットゥン■ッキドゥラ!」と、いい声で怒鳴っていた。これは韓国語で言うところのヨク=罵詈雑言であり、とてつもなく汚い言葉である。どのくらい汚いかといえば、もし私が友達に言ったら絶交されるレベル、公の場で言ったら炎上するレベル、録音されたら侮辱罪で訴えられるレベルである(お子様がうっかり真似しないように一字伏せました)。

 とはいえ日本人/日本語話者の私には、その言葉の汚さが肌感覚では分からないのも事実。直訳すれば「ちんちんみたいな小僧ども」となり、私にはちょっとユニークにすら思える反面、意味以上の忌々しさを韓国の人たちは感じるようだ。
 ヨクには他にも驚くほど多彩な表現がある。映画などの日本語字幕ではどれも「馬鹿野郎」ぐらいに訳されてしまうことが多いが、韓国の人の反応を見ると「馬鹿野郎」という表現では全然生ぬるい気がする。正直そこまで嫌がらなくてもいいのではと外国人は思ってしまうほど、韓国の人たちはヨクを嫌悪している。なので映画ではないリアルな世界でヨクを聞く機会はほとんどない……こともなく、ある年代の男たちが激高してヨクを使用する現場に、意外と頻繁に遭遇するのだった。

 言ってはいけないことを知識では知っているが、感覚的には理解できない私にとって、ヨクは思わず口にしたくなる禁断の呪文である。
 駐車場を通り過ぎ、周囲に誰もいないことを確認したところで、マスクの中で小さく呟いてみた。「ジョッカットゥン■ッキドゥラ」。舌の上を跳ねるリズムが胸をくすぐる。もう一度言ってみたくなったが、別のタイミングで思わず口から出てしまったらと想像し、恐ろしくなってやめた。

 その言葉を公衆の面前で叫べるおじさんの、自由な魂についてしばらく思いを馳せた。

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