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【文章作成の基本】「かっこいい」は、使わない方が無難。

 「小論文や志望理由書など、大人に提出するような『しっかりした』文章を書くときには、『話し言葉』は禁物である。正しい表記、表現である『書き言葉』で書くべきである。」ということは、ほぼ全国の「国語の先生」が生徒に指導で言うことですが、それでも後を絶たない「かっこいい」。添削や採点指導をしていると、ほぼ毎日そうした答案を見ます。

   もちろんこれは、「かっこいい」に限ったことではないのですが、答案を見ていて「また出たぁー!『かっこいい』」という心の叫びを発して「赤」を入れているのは、きっと私だけではないですよね、全国の「国語の先生」。

   でも、使う学生の皆さんの気持ちもわかります。とにかく使い勝手がいい言葉なんですよね、「かっこいい」。思わず使ってしまうその気持ち、理解できます。

 しかし、正しい文章作成となると、「かっこいい」などの「話し言葉」はダメです。正しい表記、表現ではないからです。話し言葉は日常的にはよく使われるものの、「日本語として正しくない」と判断されます。

 ちょっと手元の三省堂の国語辞典を引いてみましょう。かっこ【格好】(名)〔俗〕の項目に、複合語の一つとして出てますね。ちなみに(名)は名詞、〔俗〕は俗語=話し言葉ということ。

―いい【格好いい】(形)〔俗〕外見がととのっていたり、言動や趣味がすぐれていたりして、人をひきつける感じだ。

三省堂国語辞典 第七版

 なるほど。辞書には掲載されていますが、やはり〔俗〕なんですね。ちなみに辞書は掲載語句を定期的に見直し、版を重ねます。そこで近年使われるようになった語句は新しく掲載され、使われなくなった語句(いわゆる死語)は掲載から外されます。その中で〔俗〕から「正しい日本語」にランクアップするものもあるのです。見直した結果、もはや世間ではその〔俗〕の方を「正しい日本語」と認知していると判断した場合、そうなります。この辺の話も面白いのですが、その話はまたの機会として…。とにかく、いずれは「かっこいい」も「正しい日本語」に昇格するかもしれませんが、今のところは「かっこいい」は話し言葉であり正しくないというのが、この辞書の判断です。

 おっ、別に掲載されていますね。かっこう【格好・(恰好)】(名)の項目です。

―よい【格好よい】(形)人や、ものの、形や動きが、洗練されていて美しい。… ⇒:かっこいい

三省堂国語辞典 第七版

 「正しくは『かっこうよい』と言いますよ、一般的には「かっこいい」と言い換えられますけどね。」というのがこの辞書の判断だ、ということがわかります。

 ここで、「『かっこうよい』と書くのは小論文・作文では認められるの?だって、それが正しい言い方なんでしょ?」という声が、学生さんから出てきそうですが、それでもこの言葉は使わない方が無難です。それは今までの「話し言葉だからいけない」というのとは、別の話です。

 もう一度、「かっこいい=かっこうよい」の意味や定義を見てください。何て書いてありますか。

 「外見」や「かたち」が美しい、人をひきつけるとありますよね。この言葉、たしかに肯定的な意味ではあるのですが、それは外見など、つまり「表面的」なよさに対して用いる言葉なのです。そもそも「かっこう(格好)」がいいわけですから、その人の顔や見た目、ファッションや立ち居振る舞いがなんとなく雰囲気的にいい、というような意味になります。

 「そのとき医師の姿が『かっこいい』と思ったため、医師になりたいと思いました。」

 たとえば、こういう文があったとして、皆さんはどう感じますか。「この書いている人、医師の実際の仕事の大変さとかやりがいをしっかり理解して、医師を志しているのかな?」と少し不安になりませんか。この書き手がドラマでイケメンの俳優が演じる医師などを見て、「うわぁ!かっけーー!」って言っている情景が浮かびそうですよね。

 表面的にイメージ的に、中身を見ずに「かっこいい」と思っていると見るため、その人がその実際や本質を理解しているかどうかが疑わしいと、読み手が思うからです。読み手からマイナスの評価をされかねない表現です。これは、「かっこうよい」と「正しく」言い換えても同じことです。ですから、「かっこいい」は使わない方が無難です。別の表現に置き換えた方がよいでしょう。

 中高生の皆さん、全国の「国語の先生」が「かっこいい」を「赤」で正してくる理由、わかりましたか。

参考図書:三省堂国語辞典 第七版 2014年1月10日 第一刷

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