見出し画像

小論文・志望理由書の「型(構成)」は何でもいいが……。

更新日:2024/09/17

 小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、文章作成における基本事項を紹介するのが、このシリーズ【文章作成の基本】。

(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)


小論文の「型(構成)」は何を選んでもよい

 受験小論文の参考書やビジネス文章作成のハウツー本など、文章作成術の本では、文章の「型」が紹介され、それに沿って構成していくように指導しているものが大半です。そのためか、どの文章の「型」が一番有用かということが、時折、議論の的になるようです。

 たとえば、「noteの記事を『PREP法』で書くこと」の是非を論じたnoteの記事を以前見かけ、興味深く読みました。たしかに文章の構成や「型」はとても重要であり、同じ内容であっても、文章構成によって読み手に与える効果や説得力は変わってくるので、それは至極当然な疑問だと思います。そこで思い出したのは、過去に生徒から度々「どの参考書の小論文の『型』や書き方がよいか」と聞かれたことでした。もちろん、それに対して最初は、その都度、各々の「型」の優劣を論じていたと思います。しかし、最近の私の見解としては「どちらでもいい」、「『型』はなんでもいい」です。

PREP法とは、結論(Point)、理由(Reason)、具体例(Example)、結論(Point)の頭文字であり、それに従った文章構成である。

 こう言うと、あなたには文章作成の指導者としてのプライドはないのか、と言われそうですが、私にはプライドもありますしそう言う論拠もあります。まあ、続きを聞いてください。

 そもそも「型」というのは、「文章作成においてなければならないもの」ではありません。「あったら助かるもの」です。文章作成が苦手な人が文章を作成するに当たって、「型」があるとその学習も捗ります。「何でも自由に書いていいよ」と言われても、苦手な人はどうやって書いていいかわからないわけですから、困ります。だから、「型」を提示することで、それが手本や指針となり、「どうやって書くのか」ということが視覚化され学習しやすいわけです。

 しかし、文章が書けるようになるとは、「型」通りに忠実に書けるようになることなのでしょうか。それをまず、考えてみてはどうでしょう。

 この場合、「型」とは、いわば自転車の「補助輪」です。最初は、自転車をどうこいでいいかわからない、「とにかく走れ!」と言われて走ったところでバランスを失って倒れてしまいます。そこで、それでは「補助輪」を付けましょう、という話になります。すると、それをバランサーにして、走る感覚を学ぶことができます。やがて徐々に慣れてきたら片側だけ外してみよう、もう十分に慣れたから全部外そうとなって、こうして最終的には補助輪なしで自転車に乗れるようになるはずです。

 「型」によって、論の構成の組み立てられ方やバランスやその重要性を理解してくれればいい、と私は思っています。小論文や志望理由書はこうやって書くのだという手ごたえや体感を得てくれればよいと思っています。そして何回か書いて慣れた後に、それらを十分会得してくれたなら、そこから先は「型」にとらわれずに自由に書いて欲しいし、それが、本来の「文章が書けること」だと、私は思うのです。ですから、その手段である「型」、たとえばそれが大学受験小論文の「型」であるなら、東進の○○先生流でも駿台の△△師流でも何でも構いません。また、どの先生の参考書や小論文の書き方本は生徒には違ってみえるでしょうが、(私が見るところでは)そう大きく違いはありません。言っている表現や文言が違うだけで、本質的には同じです。したがって、「どちらでもいい」のです。

「型(構成)」の使い方

 とはいえ、型について「どうでもいい」とは思っていません。何の「型」を選んでもいい、とは言いましたが、「『型』なんてどうでもいい」とは言っていません。むしろ、どうでもよくはありません。「型」を使うからには、「ルール」に従ってもらう必要があります。そして、こちらの方が、「どの『型』を選ぶか」よりはるかに重要なことです。「型」を用いて文章の作成について学ぶのなら、以下の三つのことを守っていただきたいです。

1.「型(構成)」の意味や機能を理解し、用途に応じて選ぶこと

 その「型」の本来を意味や機能を十分に理解して、どういう文章に対して用いるのか考え、その用途に応じて「型」を適切に選んでください。

 先ほど、どの先生のどの参考書の小論文の「型」もほとんど同じという話をしました。それはいずれも「小論文の構成」に対するものだからに他なりません。各々の先生において「小論文の書き方」の説は異なるように見えますが、「大学入試の小論文試験の攻略」という同じ目的に対してのものなので、細部は異なれど、究極的には変わらないのです。A先生の薦める「型」でもB先生の薦める「型」でも、山をどこから登るかが違うだけで、正しく学習していれば、やがて同じ頂上にたどり着きます。だから、どの「型」で学習しても構わないのです。

 しかし、文章作成において、いわゆる「起承転結」を小論文構成の「型」として扱っている本や言動がありますが、これは厳密には誤っています。その人は「起承転結」とは何かが十分に理解できておらず、たぶんざっくりと「文章や作文の四段構成」くらいに思っているのでしょう。起承転結は、論理的文章の構成ではなく、本来漢詩の基本構成です。「起」で始まった主題(テーマ)を「承」で受け継ぎますが、「転」はその主題ごと変える展開なので、これは今政治の世界で話題になっているような「論点ずらし」や「論理の飛躍」にもなりかねないわけで、論理的文章の「型」となりにくいです(論旨が一貫しない文章となる可能性があるわけです)。そして、安易に「起承転結」を論理的文章の構成の「型」に使えると考えている人は、前述した「転」の本来的な意味など、その「型」の本来の意味や機能を十分に理解していない可能性があります。

起承転結とは、4行から成る漢詩の絶句の構成を指す。1行目から順に起句、承句、転句、結句と呼ぶ。もとの中国語では、起承轉合である。日本の初等・中等教育においては、本来の意味から転じて、文章の構成として一般的に教授されている。起承転結による文章は論理的ではないとの指摘がある。

wikipedia「起承転結」


 したがって諸説あるものの(その諸説は先のwikipediaの記事などで確認してください)、始まりが漢詩の構成でありその「型」の本来的用途が異なる以上、小論文の「型」としてふさわしいかどうかには大変疑義があるわけです。また、先に例に挙げた「PREP法」は、主にビジネス文章やマーケティング文章の作成法として紹介されています。ですから、上司への業務報告やクライアントへのプレゼンには合っているでしょうが、当然小説や随筆を書く時には不向きなことが多いでしょう。先に結論を言われたら、話は簡潔に伝わりますが、文芸的文章としては大変情緒を欠き面白みに欠ける文章となる場合があるわけです。このように、その「型」の本来の意味や機能を十分に理解した上で、その「型」がその用途にあった「型」であるかどうかを考えて、適した「型」を選んで文章作成に臨むのが大事だと言えます。

2.「型(構成)」が身につくまで、その「型」に合わせてくり返し書くこと

 その文章作成に適した「型」を選んだら、次は、「その『型』が身につくまで、それに従ってくり返し書く」ようにしましょう。このプロセスを経ないと、「型」学習の意味は全くありません。

 「型」学習の極み、それは「道」です。剣道、柔道、空手道などの武道、書道、歌道、香道、茶道などの芸道は、いずれも型の理解と鍛錬を十分に極め(守)、その上でその型を自分流にアレンジし(破)、やがてその型を自分のものにして型をオリジナルなものにアップデートすることで型から離れる(離)といった「守・破・離」のプロセスを踏むことが要求されます。

 小論文の「型」学習は、さしずめ「小論文道」でしょうか。もっともそんな言葉はありませんが、しかし「型」を用いて文章作成を学ぶのであれば、他の「道」と同じようにくり返し書いて、その「型」が身につくまで学習するべきです。「いいやオレは『型』には縛られねえ!」というワイルドな方は、「型」で学習するのには向いていません。我流でどうぞ。余りおすすめできませんが、コケの一念でやっていたらいつしかあなたの文章の才能が急に開花するかもしれません。そのときは、小論文界の「雲のジュウザ」として、ラオウやケンシロウみたいな北斗神拳の先生に「我流ゆえに読めぬ!」とか言っちゃってください(笑)。まあ、それ読めなかったら文章として成立していないんですけどね(笑)。

 冗談はさておき、そうした、つまり「型稽古」を十分にしないと効果がないわけで、「雲のジュウザ」は言い過ぎだとしても、型が十分に身についていないのに自分流の書き方をやり始めるのは完全に時期尚早であり、そうなると「型」で学ぶ意味がないわけです。もちろん、前述した通り、型にとらわれずに自分なりに書けるようになることが最終形ではありますが、この段階はまだその段階ではなく、「じっと我慢の子」でひたすら「型稽古」を勤しむべきです。全く「ローマは一日にして成らず」なのです。

3.「型(構成)」にとらわれないこと

 こうして、来る日も来る日も、映画『ベストキッド』のように、パット・モリタ(小論文の先生)の下で「型稽古」をくり返し励むあなたにも、そのうち転機を迎えるときがやってきます。そうです。実戦です!コブラ会と戦うのです!……ではなかった、受験本番です(笑)。

 「型」が身についているあなたは、基本がしっかり身についているということです。そして基本が身についているからこそ、どんな変化球が来ても打ち返すことができます。

 たとえば、設問構成や制限字数は、同じ小論文の問題でも、大学によって異なっています。ですから、これらに対してその「型」を、マニュアル通りにしゃくし定規に用いて書くわけにはいきません。通例、受験小論文の「型」は、制限字数800字の問題を想定しています。これは、制限字数800字の小論文が一番多いからですが、全ての大学がそうとは限らないのです。したがって「応用」が求められてきます。

 ここでは、もっとも一般的な小論文の「型」、「序論―本論―結論」という三段構成に従って、ある課題文型小論文の問題を想定して考えてみましょう。

「序論―本論―結論」の三段構成
「序論」……定義づけや問題提起
「本論」……論理展開の中心部分
      ・自分の意見の明示
      ・具体例など、根拠の提示
「結論」……自分の意見のまとめ

『常用国語便覧』新訂版


 この型に沿って、「800字以内で、課題文型小論文の問題に対する文章答案の作成する場合」を想定してみます。

 まず「序論」では、論じる前にテーマ(主題)や論点(何について論じるか)を整理する場であるため、課題文を簡潔に要約する必要があります。そのため、「筆者は○○について××と述べている。」と課題文の主題・論点と筆者の意見をまずまとめ、確認します。その上で、「○○について、私は△△と考える。」と自分の意見(や筆者の意見に対する「賛成」か「反対」かの立場)を述べます。なお、ここまで160字以内(目安)でまとめこれを一つの段落とします(序論・本論・結論の理想的な比率は、1:3:1であるため)。

 次に「本論」。ここでは、自分の意見を改めて提示した上で、具体例などの根拠を提示します。なお、ここは480字以内(目安)でまとめます。この「本論のパート」は、英語圏では「body」と呼ばれ、論証や論展開の中心となるため、一番多く字数を割きます。するとここのパートは、2~3段落の構成(目安)になると想定されます(理想的な一文の長さが60字以内とすると、一段落が3~4文で構成されると考えられ、一段落は大体180~240字位となる)。したがって、本論の構成は、「(自分の)意見の提示」・「(対する)理由(根拠1)」・「(対する)具体例(根拠2)」となると想定できます。

 最後に「結論」。ここは自分の意見のまとめです。「したがって~」や「このように~」と始め、先に示した自分の意見をもう一度提示します。注意点は、最初に提示した自分の意見内容を繰り返すことです(ただし、冗長な文章にならないように、表現や言葉は変える必要がある)。それによって、論旨の一貫した文章となります。ここは序論と同じく160字以内(目安)でまとめます。以上です。

 さて、ここで察しのいい方はお気づきかと思いますが、これ、PREP法と全く同じ構成なのです。ただ、序論が「P」、本論が「P」、「R」、「E」の組み合わせ、結論が「P」。さしずめPPREP法ですね。Pが一つ多いです。ね!だから言ったでしょ!どの構成も、本質的には同じなんですよ!だから、どの文章の「型」がいいか、なんて大した問題ではないのです。

 しかし、重要なことは、「序論―本論―結論」でも、「PREP」法でも何でもいいのですが、この「P(結論=自分の意見)」が繰り返されていることです。実はこれが今回のお話しの一番の「キモ」なのですが、これは、「自分の意見を読み手に伝えること」が論文にとって最も重要なことだからです。ここはいわゆる、学校の先生が言うところの「大事なことなので二度言いました」ってやつです。これらの「型」の違いは、それを、二回言うのか(PREP法)、三回言うのか(序論―本論―結論)だけの違いなのです。

 これに気付くと、(小)論文がどのようにできているか、もうわかりますよね。たとえば、800字より長く書くとしたら、どうしたらいいでしょう。PPREPERP……と字数に合わせて組み合わせて、続けていけばいいのです。で、最後は必ずPでしめます。たったこれだけのことです。

 では、逆に制限字数が800字よりも少ない場合は、どうでしょう。

設問Ⅰ この文章を三二〇字以上四〇〇字以内で要約しなさい。
設問Ⅱ (略)、この文章をふまえて、あなたの考えを三二〇字以上四〇〇字以内で述べなさい。

2023年度 慶應義塾大学(文) 小論文


 たとえば、こういう問題があったとしたら、あなたはどう対応しますか。

 一番やってはいけない悪手は、「序論―本論―結論」の構成を、そのまま400字以内に圧縮して詰め込み、縮刷版やダイジェスト版のような、コンパクトな「小」小論文を作ることです。これはダメです。話のすじしかわからない、中身がスカスカの説得力のない小論文になってしまいます。

 さきほどの話を思い出してください。Pは重要だから何回も繰り返しましたよね。しかし、今回は字数が少なく限られています。そうしたら、逆にPを削ればいいのです。同じことをくり返し言っているのだから、Pは最低一回でも済むわけです。

 設問Ⅰで要約が求められています。ということは、設問Ⅰで要約する(※要約の仕方はまた別の記事でふれます)わけですから、設問Ⅱで、「序論パート」を構成し課題文の要約を改めてする必要はありません。ていうか、「序論」を設ける余裕などありませんから、「序論パート」はいりません。また、「結論パート」もいりません。そもそも「結論」は「大事なことだから最後にもう一回言うよ!」という、「念のためのダメ押し」のものなので、今回のように字数が限られているときは、「結論パート」も余計です。とすると、設問Ⅱは「本論パート」だけでいい、つまり、ここは「PRE」だけでいいということになります。

 幸い800字の小論文を想定した場合の本論パートの目安は、480字。今回の設問Ⅱの制限字数の400字に近いです。だとしたら、本論パートだけなら無理なく小論文としてまとめることができるわけです。

 「型」にとらわれないということは、こういうことです。400字だろうが1200字だろうがどんな問題だろうが、一律に何でもかんでもその「型」にマニュアル通りにあてはめるのではありません。その出題される設問の内容や条件に合わせて、「型」を分解したり結合したりして、柔軟につかいこなすのです。そして、この分解と結合による組み合わせを必要に応じて臨機応変にできるということが、本当に「文章が書ける」ということの扉に立つことと言えます。

まとめ ~「型」を使った小論文学習とは~

 ただし、いまさら言うまでもありませんが、これができるようになるためには、どんな文章の「型」でもよいですが、その「型」の内容や機能をしっかり理解し、何度もその「型」に合わせて文章を書き、十分にその「型」を文字通り身になじませることが大事です。どんな参考書のどこの予備校の先生のどんな文章の「型」でも結構ですが、ここまで申し上げたことを十分に守って、「型」の学習に努めれば、受験小論文はしっかりと書けるようになると思いますし、また、全ての文章作成術を極めようとする方々にもこれは十分に当てはまることだと、私は思います。

 なお、同じ構成のことについては、こちらの段落の記事も確認しましょう。

〈参考図書と資料〉

wikipedia「起承転結」の記事

『新訂版 常用国語便覧』(2021年10月5日新訂版発行)
浜島書店 刊 加藤 道理 他 編著


「志望理由書の書き方」にお悩みの方には、こちらの「〆野式テンプレ志望理由書作成法」がオススメ!


「記事が参考になった!」と思われる方がいましたら、サポートしていただけると幸いです。いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!