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コロナ中の最新トレンド~加速するリモートワークとそれに追いつかない各法律や制度について。企業が個人が注意すべきこととは?

あまり深く考えず、「自分もノマドワーカーの仲間入り♪」なんてノリで、好きな場所で中長期に働いてしまった結果、企業的にも、または個人としても、とんでもないことになってしまった、なんてことにならないよう、現代におけるナレッジワーカーとして最低限知っておかなくてはならない注意点をまとめてみました。

今日これから述べる事は、私がはたらくシリコンバレーにおいても、大きな課題となっており、コロナ禍における企業が考えるべき、優先課題の一つとなっています。国、地域にかかわらず、ナレッジワーカーを多く抱える企業においては、かなりホットなトレンド/トピクスの一つと言えるでしょう。

日本とて例外ではありません。例えば若手社員が物価の低いタイなど東南アジアの国に移って、そこから働きたいというケースはあるかもしれませんし、親戚や兄弟の住む海外の家に部屋を借りてそこから働きたいというケースもあり得ます。また、日本の社員だけでなく、海外のオフィスの社員の対応を考えねばならない立場の方もおられると思います。

私も現在進行形でこれらの問題について検討しています。すでに多くの時間を、税務、法務、各弁護士等の専門家やコンサルとかなりの時間を費やして議論してきたことを踏まえて以下述べていきます。ちなみに、精神論として気を付けるべきような事を述べるつもりはありません(オンオフの切り替えをうまくやりましょうとか、健康管理に気を付けましょうとか)。あくまで、法的な落とし穴について、特に企業として気を付けるべき事にフォーカスして以下述べていきます

今起きていること

コロナにより、在宅勤務がどんどん一般化する中で、個人がどこでどのように働くか、という事について、急激なパラダイムシフトが起きつつあります。特定の場所の警備の仕事や、工場の勤務など、そこにいて特定の業務をする場合などを除き、在宅勤務に適したナレッジワーカーの仕事については、リモートワークを容易にするZoomやマイクロソフトのTeamsのようなツールが普及してきたこともあり、「意外とリモートでたいがいのことができる」という事が分かってきてしまいました。比較的大きな企業のM&Aだって、すべて実際に顔をあわすことなく成立したという話まで聞きます。

企業の反応

これらの背景を受けて、企業によっては、オフィススペースを減らし、在宅勤務をデフォルトの働き方にする、など、大胆な方針を打ち出している大手企業がいくつかあります。

私の会社でも、将来の働き方については鋭意議論中です。マーケットデータなどを取ってみても、80%ほどの会社が、"future of work" について議論中であり、まだ決定的にこうする、という方針を出すには至っていませんが、在宅勤務期間を延長しながら(例えばグーグル本社では、2021年6月まで在宅勤務と発表しています)、手探りで検討している状況です。

これに対する社員の反応

あなたなら、来年6月まではオフィスに来なくていい、基本的にはリモートワークでOKです、と言われたらどう考えますか?

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特に家賃が超絶高いサンフランシスコなどの地域では、家賃や税金、物価が安い地域に一時的に移ってそこから働きたいという事をよく聞くようになりました。

私のように子供がその地域でもう学校に通っていたりすると、授業はオンラインであるものの、いつ対面での授業が再開するか分かりませんし、簡単に引っ越しなどはできないので、そういうことはできないのですが、もし自分が独身で、荷物も少なく、来月賃貸契約更新するかどうか、という状況に直面したら、考えてしまうかもしれません。

また、動機が必ずしも経済的な損得に基づくものとは限りません。とくにシングルの方の場合、ずっと一人で在宅勤務が半年近く続き、精神的につらいため、実家に戻って働きたいというケースや、遠くに離れた両親が病気がち、体調が心配でそこに戻りたいが、クリティカルなプロジェクトがあるため、完全に休みを取っていくのではなく、働きながら看病したい、というケースもあり、さまざまです。

ではどういう影響があるのか?

最初に行ってしまうと、日本人が、日本国内で地方に移動してそこから働いても、日本は小さな島国で時差もなく、国に納める税制も同じなので、法的に問題があるという話はこれまで聞いていません(住民票の場所によって住民税は若干異なると思いますが)。

問題は、企業に属する社員が、海外に渡った時に発生します。具体的に一つ一つ見ていきましょう。

移民法的観点(合法的にそこで働けるのか)

例えば、社員の日本人社員が、VISA免除プログラムを使用して(ESTAを取得するという手続きは必要)、米国のハワイにきて、そこからリモートワークをしたとします(現在は、コロナ陰性のテストを事前に受ければ、到着後2週間の検疫期間も免除されますし、知り合いがいればそこに泊めてもらうなどが可能です)。

そもそも、ビザ免除で渡航して出来るのは、観光と、ビジネスミーティングの出席くらいです(ビザ関連については、別の記事にまとめていますのでそちらをご参考)。滞在日数は90日が最大です。

なのに、そこから業務を行ってしまったことがばれてしまえば、今後その社員は米国に入国が出来なくなってしまう可能性があります(この社員がアメリカ国籍を有する場合は勿論移民法的な問題はありません)。

それどころか、もしこの社員の所属する会社が、違法に米国で働くことをサポートしたと見做されてしまいます。これは、米国でビジネスを展開していて、赴任者などを送り込んでいる場合はかなり深刻です。その会社の米国移民局からの信頼が落ちて、最悪のケースでは米国VISAが一切その会社の社員には出なくなる恐れがあります(特にLビザなど)。現在赴任者がいる場合は更新不可能になるかもしれませんし、即刻無効になる可能性もあります。つまりすべての米国移民法プログラムがたった一人の社員の問題のせいで、台無しになるリスクがあります。これはビジネス上大きな影響を及ぼす可能性があります。

米国にかぎらず、社員が海外で短期間でもいいから働きたいと言ってきたとき、その国で合法的に働くことのできるワークパミットを持っているかどうかが重要になってきます。タイにしろ、シンガポールにしろ、オーストラリアにしろ、すべての国に当てはまることといってよいでしょう。

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どうせばれないとか思うかもしれませんが、旅行先の海外で、ちょっと緊急事態に対応すべく電話で会話したり、メールに少し返答するのとは異なり、そこで一週間の大半を働く、となると、まったく事情が異なりますし、万一発覚したときのリスクが前述のとおり大きすぎますので、要注意です。

個人の医療保険や税務の問題は?

合法的にその社員がその国で働けるのであれば、何も問題がないのか?と言われれば、そんなに単純な問題ではありません。例えば、日本で働くアメリカ国籍の社員(かつ、アメリカからの赴任者ではなく、日本現地雇用)が、母国である米国に戻って勤務をしたい、と申し出てきたら、どうしますか?

米国で仕事をしている時に、急激な腹痛に襲われて、救急車で運ばれたときに、日本と違って、国民皆保険というような制度はないので、医療保険がないという問題があります。日本と違って救急車は無料ではありません。ERなどを利用して救急車に乗ったら、医療費が異常に高い米国では、7-8万ドル近い請求が来てしまいます(700-800万円)。自分で旅行保険に入ってもらうなどの対策をきちんと講じる必要があります。それこそ、コロナにかかってしまう事だってあり得ます。

また、この例でいうと、米国民は、日本で働き、米国が非居住者であったとしても、連邦税は支払う必要があります(米国には、国の連邦税と、住んでいる州の州税の2つがあります)。よって、いかなるステータスであれ、米国に収めるべき連邦税は収める必要がありますが、戻る州によっては、1日目から収税への納税義務が発生する可能性があります。州によって90日以上とか、183日以上とか、色々あるのですが、これも個人が負う可能性のある追加の税金です。

海外に行って一時的に働きたい日本国籍の社員も同じです。行先の医療事情、医療保険はどうするのか(会社は責任を持てない)、場合によっては納税義務が発生する、という事は念頭におくべきでしょう。

会社としての法人税問題

これが、非常にやっかいです。ある日本企業で働く日本人の社員が、アメリカのカリフォルニアで働く兄弟の家にステイさせてもらいながら働くというシナリオで考えます。前述の通り、ビザなしという時点でそもそもこのオプションは許可できないのですが、会社が払う法人税という観点からもやっかいです。

その日本企業が、米国カリフォルニア州にまったく事務所がない場合、法的なおよび、税務的なcorporate presenceがない、という事になります。事務所が法的にも税務的にも登録されていないので存在していない、という事です。そんな中で、カリフォルニア州で社員を勤務させてしまった場合、会社としてカリフォルニア州税に税金を納める必要が出てくる可能性があります。その会社が特に、インターネットを駆使してなんらかのデジタルサービスを提供していた場合、カリフォルニアからの売上に対して消費税を払う必要があるかもしれません。また、社員の給与に対して、源泉徴収を行う義務も生じる可能性があります。

その他の問題ー労災や、輸出管理

他にも企業として考えるべき課題はあります。仕事中に椅子から落ちて怪我をした場合の取り扱いはどうなるのか。また、そもそも、仕事内容が詰まったパソコンを海外に持ち出すのは、Export Control(輸出管理)上の問題点はないのか。行先にもよりますが、個別状況に応じて検討すべきでしょう。

米国の場合は特に、移民国家という性格もあり、二重国籍の方も珍しくありません。そのような方が、母国に戻りたいという要求は非常に多いのですが、戻り先がイランといった、輸出管理上の禁止国にある場合は難しいでしょう。これらは通商の専門家による個別レビューが必要です。

問題点まとめ

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以上みてきたように、個人の問題としては、その国で合法的に働ける資格があるのか(労働許可)、個人所得税の問題、医療保険の問題などが挙げられますが、これは言ってしまえば個人の問題です。

会社としての問題があるかもしれない、という事は盲点になっていて、移民法上の問題、法人税の問題、給与税の問題、労災、輸出管理上の問題など、多岐に渡ります。

これらを知らず、安易に認めてしまって、後々問題になるようなことは避けなければなりません。

これだけ自由に国境を越えて個人がリモートに働ける環境になっているのに、各種法律はまだまだ地域別になっているので、整理されていない事やグレーゾーンも多いのです。

では、どうすればよいのか

基本的には、国をまたぐケースはつくらない(許可しない)のが望ましいのですが、日本においても外国籍社員の方など、それぞれの事由がある場合もあるでしょう。その事由が、両親の病気などになってくると、なかなかNoとはいい難いです。その場合は休暇を取ってもらうのが望ましいのですが、クリティカルなプロジェクトなどがあって会社としてリモートで働いてもらいたい場合は、個別状況をフルにレビューし、例外として認めるかどうかだと思います。そして個別状況をフルにレビューするためには、移民法弁護士、国際税務専門家、通商専門家などにお金を払ってレビューして、その上で法務部、人事部と確認をしていく必要があります。個別にそれぞれ状況が異なるため、私がこの記事で出来るのは、気を付けるべき観点を提供する事だけです。

さらに厄介なのが、会社が知らないだけで、実は社員がいろいろなところに勝手に行って働いているケースがあるかもしれないという点です。会社は言われなければ確かにわかりません。まじめに会社に相談してきた社員は、それは難しいと言われてしまう点です。

これは例えていえば、道で歩いていたら、1万円札を拾った。誰にも見られていなくて、そのままポケットに入れてしまったというケース(何も言わない)と、それをまじめに税務署に「どうしたらいいでしょうか」と聞いて、警察に届け出るか、雑所得として申告せよと言われるような感じで、正直者がバカを見るような状況かもしれません。

最後に

上記は日本にある、日本企業の方が読む前提で述べてきましたが、私のいる米国ではもっと複雑です。それは州別に法律が異なるからです。ニューヨーク州にいる候補者を採用したが、本来働いてもらうカリフォルニア州にしばらく引っ越さずにNYから働くケースや、H-1Bといった特定のVISA所有者はさらに注意が必要だったりします。

ここまで述べて、疲れるのは、税務の専門家は税務の事だけ、移民法の専門家は移民法の事しかわからないという事です。人間の体に例えていえば、眼科は目の事だけ、内科は内科、という感じで、結局体全体のどこがどう悪いのかを全体的にわかっているお医者さんなどいないという事によく似ています。今回の件に関して言えば、各専門家からのアドバイスをもとに、各企業の人事部や法務部が判断して進めていく事になるのだと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。今からまた1年経てば、もっと多くの参考事例が出てくると思いますので、引き続きウォッチしていきたいと思っています。今後も優良な記事を書き続けていきたいと考えていますので、ご賛同いただける方は是非フォロー、スキ!またサポートいただけると励みになりますので、どうぞよろしくお願い致します。(シェアももちろん大歓迎です♪)



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