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高度外国人人材採用とジョブ型とは?

先日とあるパネルディスカッションに参加する機会がありました。単独講演やゲストスピーカーが自分だけの場合と違い、パネリストの一人として参加したので、時間の制約もあり自分が伝えたい事が十分にお話できなかったと感じたので、ここに私が感じたことをまとめておこうと思います。

自分は”地球人”という感覚を持つ

どうしても日本は島国なので、日本人 vs 外国人という捉え方をしてしまうのですよね。もう私は、「高度外国人材」という名前からして、最初から違和感を感じてしまうわけです。グローバルなビジネスの世界においては本来、「どういう専門性があって何ができる人なのか」だけが重要なファクターであるはずで、何人とかいう国籍は関係ないはずです。そして実はここはダイバーシティの観点からも大切なポイントで、職務上に求められる知識や経験、職務遂行能力以外の要素(性別、性的志向、人種、国籍等々)を考慮に入れる事自体が時代遅れと言えます。そもそも「外国人」と区別してしまっている時点で、無意識に「異質の何か」という考え方が頭の片隅にあるので、この考え方自体を忘れる事が大切ではないかと思います。

「そもそもなぜ外国人を採用するのか」という事を聞かれる場合があるのですが、そもそもの質問が違うのですよね。これって、「そもそもなぜ女性を採用しないといけないのか」という質問と同じ類であると筆者には聞こえるわけです。要するに仕事に関係ない属性は、ビジネスにおいて忘れる事がグローバルな知識社会においてより一層重要になってくるという事であり、この点は何度強調しても足りないくらいです。

私は、米国で、周りは上も下も横もほぼ100%Non Japaneseという環境で働いています。よく日本人として成功する、と言っている人がいますが、私はちょっと違和感があります。少なくともビジネス上は、日本人であること自体に意味があるわけではなくて、それは不利にも有利にもなりません。みんな地球人、ってだけです。

大雑把にくくりすぎ

そもそも「外国人(日本人以外)」とかなり大雑把に括ってしまっている点も問題です。今回の議論でも思いましたが、実際には、大きく3つグループがあって、それぞれごとに採用しようと思ったらアプローチが違うはずです(まだかなり大雑把ですが)。

(1)所得水準が日本より高い国々(欧米諸国など)(2)日本と同水準の国々  (3)日本より所得水準の低い国々

本当にもっと仕事の戦力になれる人材を採用しようと思ったら、そのターゲットとなる戦力に求められる専門性をあきらかにし、そういう専門性を持った人がどのマーケットにいるのか、そして、そのマーケットが上記の3つのうちどの状況に当てはまるのかによって、アプローチが異なってきます。今のところ、日本における報酬水準はさほど高くないため、日本より所得が低い国(主に、上記3のグループにあたる、東南アジアからのしかも新卒採用のみ)に偏った採用となっているのが現実です。

グローバル企業として目指すべき究極のありたい姿

あるべき姿からまず考えて、現状とのGAPを認識し、そしてあるべき姿に行くためにはどうすればよいか、という順番で考えるのは定番のframeworkですが、究極あるべき姿(理想像)とはどういうものでしょうか。

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一つの回答は、「グローバル人材市場全体から人を採る能力がある」ことかなと思います。世界の人口何人か知ってますか? --- 78億。一昔前のブルゾンちえみっていう芸人がよく、「あんた、地球上に男が何人いると思ってんの? 35億」っていうのが流行りましたけど、78億人。実際には赤ちゃんとか含まれてますので極端な数値ですが、とにかくグローバル人材市場にアクセスできて、そこからビジネス上必要な専門家を取ることで、ビジネスを拡大していく。というマインドセットを持ちたいですよね。あとで話しますが、正確にいうと、人を採る能力があると言うことは、そういうトップタレントに選ばれるだけの魅力があり、機会と報酬を用意できる力があると言い換える事ができます。

高度外国人材をもっと採用したいが、どうしたらよいか?

という質問が良くあります。この質問は、僕には、「お金が欲しいけどどうしたらよいか」という質問に聞こえます。お金が欲しいって言ってもお金は増えません。向こうから飛び込んでは来ません。じゃあどうするか?経営者や自営業者の方なら、自分の会社にはどういうサービスや商品が提供できて、何に対してお客さんはお金を払ってくれるのだろうか?と考えるのではないかと思います。同様に、すごく好きな相手ができて、相手に付き合って欲しいと思ったら、どうしたら自分がもっと相手に好かれるかを考えますよね。

そう考えると、もし高度外国人材を雇いたいと思うのであれば、自社はそういった人材に何を提供できるのだろうか?という視点で考えるべきなのではないかと思います。勿論こちらも選ぶ立場ですが、どうしたら選ばれるかという考え方は、特に国内の人材についても同様ですね。

ちなみに、グローバル市場におけるキャリアを築く場としての魅力を高める努力を続けないと、日本人高度人材すら頭脳流出してしまう可能性があります(というよりすでに起こっていますので、よりその傾向が加速する可能性があります、といった方が正確)。

Non-Japaneseの立場に立って考えよう

そもそも、なぜわざわざ住み慣れた自国を離れて、日本で働く必要があるのか?日本の会社として、彼らに提供できるものは何なのか?を考えてみましょう。例えば、日本に住むあなたが、わざわざ住み慣れた国を離れて、他国でキャリアを積もうと思うとすると、なぜですか?給与水準が低いとしたら、ありえなくないですか?そのデメリットを上回る何かがあるとしたら、それは何でしょう?-こういった視点で考えてみたいです。

恐らくですが、考えられる動機は3つです。

(1)お金を稼ぎたい:これについては、日本より給与水準が低い国からじゃないと採用が難しいですね。ジョブ型になっていれば、ある特定の専門性・スキルの人にはダイナミックに差をつける事も可能になり、水準によっては採用マーケットの可能性が広がるのではないかと思います。

(2)専門性を磨きたい:採用した後、専門性を磨く事はできますか?会社に忠誠心を求め、長期に渡ってコミットしろといわれると、それはつらいです。ジョブ型になっていないと難しいですね。

(3)日本という国に住む事自体がメリットがある:これには二つあって、一つは、日本よりも生活水準が低い国からの移住です。この場合は、家族が居てもお子さんが居ても、総合的に生活水準や教育レベルがあがるので恩恵があると思われます。もう一つは、処遇の水準に関わらず、日本の文化そのものに惹かれる人材が、実際に日本に住むという経験をしてみたい、という欲求を満たしたい場合です。各国の処遇格差は、ポジションが上がるにつれて拡大しますので、まだまだジュニア層であれば、比較的日本より処遇水準の高い欧米からも、「日本文化に興味がある」という人材は採用できる可能性があります。あとは、日本語を学びたいと思っているケースもこれにあてはまります。

上記3つが満たせれば理想的ですよね。お金も稼げるし、専門家としての経験も積める。日本という独自の文化をもつ国での異国体験もできる-もし本当に叶うのなら、悪くないですね。ですが、これが満たせないとわかると、結局、欧米へのステップとして使われてしまいます(特に東南アジアからの新卒採用の場合)。稀に日本において配偶者やパートナーを見つけて長く働くケースもありますが、そういう事は結果として起こる事なので、前提にはできないですよね。

日本企業で働く事のハードシップとは

グローバルタレントを採用する際に、不利な点も把握しておく必要があります。日本企業で働く事のハードシップとは何でしょうか。

まずは、外資系等一部を除き、やはりメンバーシップ制という閉鎖的な仕組みでしょう。長期に渡り会社に忠誠心を求められ、あまり文句やプライベートな事情は言わずに会社から言われることには従う事が期待され、かつ、専門性を磨きたいのに色々な仕事にローテーションされるというのは、異国の方からは馴染むのが難しい点の一つと言えます。

日本の「一を聞いて十を知る」ハイコンテクストカルチャーでは、指示があいまいになったり、阿吽の呼吸があったり、そもそもメンバーシップ制なので役割も曖昧だったりします。そうです、曖昧文化なのです。さらにその上に、言語の壁があります。英語人口は全世界の約3割程度と言われています。日本語人口は、その1/10以下の2%程度です。(別記事ー「なぜグローバルなフィールドで活躍できるようになった方がいいのか」参照)

他にも、欧米諸国からみたときの低い処遇水準。これはネックです。カリフォルニアのベイエリアでは、新卒でも1,200-1,500万円程度というのは普通です。また、Non-Japaneseの社員の子供たちが通える教育インフラが弱いというのも難しいですね。インターナショナルスクールの学費はかなり高いので、海外から日本への赴任者待遇で来ている人じゃないと通わせるのは難しいです。

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そもそも「日本に来てもらって日本で働いてもらわないといけないのか?」

そのように考えると、文化や言語の壁がある日本にそもそも呼び寄せる必要があるのか、というところから考え直してもよいのではないでしょうか。職種にもよるため、もし可能である限りは、という但し書きがつきますが、コロナの影響で、リモートワークも浸透し、フィジカルに特定のロケーションにいながら仕事をする事の意義が見直されています。日本の少子高齢化により、確かに日本という場所における労働力はどんどん少なくなっていきます。ですが本当にコアな役割だけを日本において、あとはオフショアでマネージするという選択肢も常に持っておいたほうがよいのではないかと思います。

まとめ

移民国家であるアメリカでは、常に世界中からタレントを採用しています。専門家として一流のキャリアを築けることに加え、処遇水準、生活水準、教育水準、文化、言語、ダイバーシティ、といったこれまで議論した事が見事に満たされているからです。結果、世界中から頭脳が集まり、それがまた世界最先端の研究であったり、イノベーションに繋がっていくというポジティブサイクルになっています。

以下、これまでの論点のまとめです。

・究極のありたい姿:グローバル人材市場全体にアクセスし、トップタレントを取る能力がある

・前提としてのダイバーシティ。仕事能力以外の要素は忘れ、みんな地球人というマインド

・そもそも外国人高度人材がなぜわざわざ日本でキャリアを積みたいのかという視点。日本企業は彼らに何を提供できるのか?どうしたら魅力的になれるのか?

・下手したら、外国人高度人材に来てもらえない上に、日本人高度人材が海外に流出してしまう

・日本に居住しながら日本でキャリアを積む事のハードシップとは?

・そもそも日本に呼び寄せないといけないのかという発想




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