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いんきのにじみ「画帳」

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インキの滲み。 拙い絵です。
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Inktober2021 day11-20

Inktober2021 day11-20

急に寒くなった。吐く息にまだ白さはないが、ここ数日雨が続いたこともあり、帰りの夜道では指先にかじかむ痛みを感じる。また一つ年が終わるのだ、いつのまにか。

一昨年から #インクトーバー  に参加して、3年続けて十月の間毎日絵を描いている。ほんとを言えばもちろん、毎日絵を描くのは難しいから、出来るだけ書き溜めを作って十月を迎えるが、それも中盤に差し掛かると無くなって、日々明日のための絵を描くことになる

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Inktober2021 day1-10

Inktober2021 day1-10

今年もインクトーバーをやっている。ただし、去年は文章も毎日書いていたから、ちょっと今年の方が手抜きだ。
思えば去年は、すさまじいバイタリティだった。noteを始めて、すぐだったということも関係しているのだろうか、2020年の10月は、毎日一時くらいまで起きて、明日の投稿のために絵を描き、仕事の行きと帰りの電車の中では、スマホの画面を見つめて文章を書いた。

認められたかったんだよな、私は。認められ

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Day31,「Crawling along」Inktober2020

Day31,「Crawling along」Inktober2020

 日々はゆっくりと過ぎる。這い回る蛇の様にいつのまにか、一日、一日と終わっていく。気付けば、ひと月など早いものだ。一日ずつ、雪山に蹴り込むアイゼンの様に楔を打ち込まなければ、ぬめりきった時間は逃げてしまう。Inktoberは私にとって、2020年の十月を繋ぎ止める、釘や楔の一本ずつの様だった。



 特別になりたい、何か誇れるものを、認められるものを、誰かをあっと驚かせられるものを。何か、何か

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Day30,「Ominous languor」Inktober2020

Day30,「Ominous languor」Inktober2020

 猛烈な怠さと眠気、異常な関節の痛み。インクトーバー終了を目前に控えて襲われたのは、不吉極まりない何かの前兆だった。オフィスデスクに向かっているのだが、体が動かない。ただただ異様な程に体が重い。肩と腰と膝と足首と首と手首と肘と肩甲骨が痛い。これまで手垢が付いた表現として笑っていたが、節々が痛くなるってこういうことか。

 とにかく早退することにして、ずるずる駅まで歩いていると、運の悪いことに(本当

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Day29,「Pair of shoes」Inktober2020

Day29,「Pair of shoes」Inktober2020

 2014年、僕はほぼ一年程、Hiro Yanagimachi Workshopという靴工房に通っていた。工房は原宿と千駄ヶ谷の間にあり、毎日同じ電車を乗り継いで行ったり来たりを繰り返した。あの頃の僕には靴以外に無くて、一つずつ増える黒くて鈍い工具や、木型や、革だけが、頭の中にぎっしり詰まっていた。靴は僕の、全てだった。

 インクトーバーはじき終わる。あと二日で、毎日絵を描く理由が無くなる。文章

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Day28,「Floated through」Inktober2020

Day28,「Floated through」Inktober2020

 自分で言うのはなんだかなぁ、と思うし、かっこつける気もなく、むしろ自虐に近いが、僕は随分、世間から浮いてしまっている所がある。気に入っている節も、気に入らなくて本当に嫌な事もある。浮いているせいで、心底楽しめない事が多いし、属した場所に上手く馴染めなかったりする。人との関わり方も下手くそで、多分人との縁では損をしている機会も多いのだろう。
人は多かれ少なかれ誰しも同じではないから、こんな悩みなん

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Day26,「Hideout」Inktober2020

Day26,「Hideout」Inktober2020

 昔から、屋根裏小屋、秘密基地、隠れ家、みたいなものが好きだった。多分男の子はみんな好きだ。女の子にとっての化粧品箱や、宝箱の様なものが、僕たちにとってのそういうものなんだと思う。大人になってもそういう憧れが消えず、むしろ女性の口紅が幾本も増える様に、家には無限に物が増えた。僕にとっての宝は靴や服、革細工の道具や妙な雑貨で、しかも仕事を始めて小金が入ったから、いちいち言い訳をしながら、取り留めなく

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Day25,「Buddy」Inktober2020

Day25,「Buddy」Inktober2020

 金曜日、前々から進めていた転職活動の最終面接が終わった。面接は呆気なく、10分程の社長面談で済んだ。持て余した時間を潰すために喫茶店にしけ込むと、知らない番号から着電し、内定です、との事だった。淡々とした一連の流れの中で、私も淡々と、そうですか、ありがとうございます、と返した。むしろ、面接後に携帯に入っていた現職の顧客からの発注連絡の方が、嬉しかった。

 今の会社は、新卒で4年半働いた。もとも

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Day24,「Dig up」Inktober2020

Day24,「Dig up」Inktober2020

 古本が好きだ。
角の擦れた手触りが好きだ。新本より安く買えるから好きだ。ぱらぱら捲ると甘い匂いがするから好きだ。赤っ茶けた紙の色が好きだ。知らないことが書いてあるから好きだ。時々、知ってたつもりの事を裏付けてくれるから好きだ。時々、前の持ち主の書き込みが見付かるから好きだ。
古本が好きだ。

街角の古本屋の店先に、100円本の棚やトロ箱があると、必ず覗いてしまう。たかが100円で、知らないことが

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Day23,「Ripped jeans」Inktober2020

Day23,「Ripped jeans」Inktober2020

 高校生の頃流行っていたのは、ELOやTokyo graffityなどの雑誌だった。今から思うと割とどうでもいいファッション誌やライフスタイル誌だったが、ネットもなく、テレビも漫画もゲームも禁止されているのだから、私が暮らした寮内では、エロ本と並んで読まれているのが雑誌だったと思う。
読者モデルが着ている、流行だという服は馬鹿みたいに高くて、少なくとも私には現実味がなかったが、ユニクロで買ったどう

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Day22,「Chef de cuisine」Inktober2020

Day22,「Chef de cuisine」Inktober2020

 大学時代、選択講義で仏語か中国語を取る必要があった。中国語はなんとなく分かる気でいたし、そもそもそそられなかったから、フランス語を選んだ。英語も頓珍漢のくせに、よくあんな難しい言語、選んだものだ。
仏語はまず、発音が難しい。同じラテン系言語でも、イタリア語の発音は分かりやすく、意味がわからないまでも、音は聞き取れ再現出来る。フランス語は、それすら難しかった。初見でどう音を出しているか分からないの

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Day21,「Sleep well」Inktober2020

Day21,「Sleep well」Inktober2020

 アマゾンプライムデーでベッドを買った。ダブルベッドだ。ついでにダブルのコイルマットレスも買った。流石に掛け布団は新調はしなかったが、布団カバーは新しくすることにした。
まず届いたのはマットレスで、圧縮されているのにその時点で、想像していた倍大きかった。ダブルなのだから当たり前である。当たり前であるけれども、古い家の異常に急な階段を持ち上げねばならないのだから、ふっと気が遠くなった。必死で持ち上げ

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Day20,「Coral sea」Inktober2020

Day20,「Coral sea」Inktober2020

 怖かったことを思い出そうとすると、意外にも旅先の出来事ではなく、幼少期の事に集中する。
祖母の家の、書架が何列も並んだ書斎は、昼でも薄暗く、廊下の一番奥に鎮座していた背の高いオーディオ機器は、オーディオリールをセットする二つの黒い出っ張りが目のように見えた。強烈に怖い記憶だ。そこだけぼんやりと窓の光が差し込むから、人の空気に舞い上がる埃に日が当たり、白い粉塵の中で打ち捨てられた、ロボットの様に見

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Day19,「Dizziness」Inktober2020

Day19,「Dizziness」Inktober2020

 19日目にして、書き溜めが尽きた。去年も中盤から書き溜めが無くなり、毎日いつやめるかのチキンレースの様になりながら、結局完走できた。Inktoberはやはり、みんなでやっている感覚が楽しくて、ついつい夢中になってしまう。それなのに10月はそもそも忙しいから、走る心についていけないよたよた歩きの体だ。

 私は、音楽もスポーツも、勉強もからっきしだった。文章と絵だけは得意だと思っていたこともある。

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