読書の記録・2月
2月もまだ折り返したところだが1月後半から今日までに読んだ本について、簡単な紹介、振り返りと感想をいくつか。
※コンビニ人間だけややネタバレを含む量を書いてあるので注意。3500字程度。
タイトルを見出しにしているので興味のある本のある方、時間のある方は是非。目的を持って書かれたわけではないため何かを与えることはできないと思うが。
十分私のために使ったからってべつにあなたの人生の致命的な損失ってわけじゃないでしょ?
舞姫通信/重松清
重松清さんの本は随分前にきよしこを読んで以来の2冊目。
国語の教科書でお馴染み(?)、森鴎外の舞姫に関係があるのだろうかと選んでみたが、その通りだった。
主人公が赴任した私立の女子校には不定期で『舞姫通信』というものが配布される。
10年前に自殺した女子生徒をもじった悪い冗談のような都市伝説として生徒たちには軽く受け入れられてきた。
自殺志願者として突如現れた若手俳優の影響も後押しし、自殺問題が取り上げられた中で翻弄される人々。
一線を踏み越えた者と踏み越えなかった者の違いは何か考えさせられる。
「死なないでくれ、とした言えないんですよね、人は人に」―p. 338
このような紹介を書くと随分重い小説のように思われそうだが、読みやすい物語だった。
特に議論もないが色々な人の受け止め方を聞いてみたい一冊。
熱帯/森見登美彦
読み終えた者がいないという幻の小説『熱帯』を巡る小説。
熱帯の不思議な世界にぐいぐいと引きこまれ、複雑な物語の入れ子構造が加速していく。
500ページを超える大作で物語の舞台も広がりがあり、読み応えが抜群な一方、森見登美彦の登場人物らしいアホっぽさも失われていない(失礼)。
そして世間の人々もまた同じように忘れられていくし、近代文明は暴走の挙げ句に壊滅するし、いずれ人類は宇宙の藻屑と消える。だとすれば目先の締切に何の意味がある?―p. 11
小説にまつわる小説ということで、登場人物らの読書論も中々ステキ。
本棚というものは、自分が読んだ本、読んでいる本、近いうちに読む本、いつの日か読む本、いつの日か読めるようになることを信じたい本、いつの日か読めるようになるなら「我が人生に悔いなし」といえる本・・・・・・そういった本の集合体であって、そこには過去と未来、夢と希望、ささやかな見栄が混じり合っている。―p. 14
私は小さな本棚しか持っておらず、大きな本棚には憧れる。過去と未来、夢と希望、ささやかな見栄と共に不思議な世界への冒険の扉としていつでも手に取ることができるように、本書を並べておきたい。
ねじまき鳥クロニクル/村上春樹
上・中・下の三巻構成。10日で完走。※一日中読んでいた日は少ない。
ある夫婦の周りで起こる次々に不思議な出来事。
ひとりの人間が、他のひとりの人間について十分に理解するというのは果たして可能なことなのだろうか。(中略)我々は我々がよく知っていると思い込んでいる相手について、本当に何か大事なことを知っているのだろうか。―上 p.53
主人公の前には次々に年齢も職業もまちまちの不思議な女性が現れる。この記事の冒頭に抜粋した言葉もその台詞の一つだ。(ねじまき鳥クロニクル・上 p.24)
その中でも高校を休学中のちょっと不良な少女が紡ぐ素朴な言葉がいい。私もまだ未熟だからそれくらいの軽い言葉に共感を寄せてしまうのだろうか。
主人公と不思議に繋がる満州国での出来事のパートが臨場感に溢れ面白くありつつ、かなり怖かった。
科学の名著50冊がざっと1冊で学べる/西村能一
図書館のオススメコーナーに並んでおり目を止めた。
著者は化学専攻の予備校講師で、各本の紹介や魅力と共に文字量と難易度が3段階で評価してあった。
既に名前を知っている書籍も含め、興味を持った本がいくつかあるので今後手に取ってみようと思う。
私が読みたいと思った本のリストはこんな感じ。
・フェルマーの最終定理/サイモン・シン, 1997
・利己的な遺伝子/リチャード・ドーキンス, 1976
・ケプラーの夢/ヨハネス・ケプラー, 1634
・沈黙の春/レイチェル・カーソン, 1962
・種の起源/チャールズ・ダーウィン, 1859
・レオナルド・ダヴィンチの手記/ダヴィンチ, 15~16世紀
特に興味を持ったのがフェルマーの最終定理。フェルマーの最終定理に挑んだ数学者たちの挑戦の歴史がわかるらしい。
私自身数学にはあまり興味がなかったが、この定理の証明に成功したワイルズさんの系譜が本書で軽く紹介されており数学者の研究プロセスが面白そうだな、と感じた。
彼はフェルマーの最終定理への挑戦を決めてまず、学会などへの参加をやめて独学で数学の技術を磨く勉強期間を設けたという。その後も段階を追って技術習得、応用と証明を進めていった。
化学、生物のウェットな実験系はとにかく手を動かしサンプル数をこなし結果を出す印象が強い。
数学では定理などを学び、自分のものにしていくというのが奥深そうだと思った。
コンビニ人間/村田沙耶香
直木賞作品。1日読み切りサイズ。
ちょっと変わった女の子だった主人公は、トラブルを起こすのを避けるため言葉少なく成長していく。やがてコンビニのアルバイトを始め店員として生き始め、就職も結婚もせず自然にコンビニ人間を続けることになる。
制服に着替え、店員の表情を身に着けることでコンビニの一部になっていく。店員を正しく演じきれない人間、不適切な行動をとる迷惑客はコンビニという世界に紛れ込んだ異物として排除される。ピークの時間を過ぎ、乱雑さを増した棚はすぐに店員により秩序を取り戻され、コンビニの恒常性は保たれる。
社会というより広いシステムの中でも同様に、働く者、結婚する者など男女それぞれに適切な役割が与えられ普通でないものは排除されるという。
人物描写など小説の世界の作り込みが浅かったが、そのことが一層主人公が生きて見ている世界を如実に現している気がした。上手く言えないが感情が欠落しており出来事を出来事として以上に認識できないような。
恒常性とまでは書かれていなかったが「異物排除」や「細胞」という、コンビニあるいは社会を一つの生き物とした見方は筆者により実際に書かれていた。
これに関しては店員経験のある身としてかなり共感した。というか、私自身店員として働いているときには自分がただの酵素のようだと考えて言葉にしたことがある。
マニュアル対応の是非は様々あるが、コンビニにおいて画一的な店員像があり客があるのは私にとって正しく自然なことに感じられる。より少ない努力で双方の衝突を減らすことができるからだ。
一方、より広い社会全体ではこの考え方は不適切だと捉えられることが多い。そのため「普通」でない主人公はどう生きるべきか迷い、苦しむことになる。(彼女が感情としての苦しさを抱えているかは判断できないが)。
浅い感想だが私は「普通でない」「三重苦」と称された主人公の生き方でも生きていけるなぁ、と思う。思って生きてきた。
この感覚は、多様性を受け入れられていると評価されることがかもしれない。一方、単にあなたも普通じゃないのね、と切り捨てられるかもしれない。
こう考えると怖くなった。
上述の通りかなりサラッとしていたが、印象に残った。また時代が移り変わっても読み続けられそうな名作感があった。急な批評家目線で申し訳ないが埋もれない面白さがあった。笑
話題作に手を伸ばすことが少ないながら、読んでよかったと感じる。
サロメ/原田マハ
オスカー・ワイルドの小説(戯曲?)サロメの成立に関する物語。1日サイズ。
芸術家の多い登場人物はみな魅力的に見えた。徐々に個人的・社会的な視点での承認欲求、自己顕示欲が明らかにされそれぞれの中に潜む狂気が抉り出される。
出来事に目を奪われて読み進めるうちに、気づいたらそれぞれ怖い人に変貌していたのが圧巻だった。
単に私が読み急いだために鈍感になっていたのかもしれないが。笑
私は読んだ本の感想文などをすぐに検索してしまうのだが、その中で「冒頭、締めのシーン(現代)は必要だったのか?」というコメントには同意してしまった。
フィクションであることを認識させるのには必要なのかもしれないが、全く予備情報のない状態で読み始めた分始めのシーンに引っ張られ、本論(?)部分に感情移入するのに時間がかかった。笑
しかし、示唆に富んでいたりある意味では鬱陶しい描写のある小説も多い中サロメにはそれがなくシンプルに人物間の物語を楽しめた。
どれくらい楽しんだかというと、今日この『サロメ』を読み終え、すぐに図書館に行ってオスカー・ワイルドオリジナルの『サロメ』を借りてきたくらいだ。
サポートは不要ですのでスキ・コメントをいただけると嬉しいです!✌️😎✌️