Aの私とライフイベントの話
ご挨拶
こんにちは、秒針です。
プロフィールなどにも書いてある通り、アロマンティック・アセクシャルを自認しています。
今回はアルバイト先でのとある出来事の話です。忘れないうちに形にしておこうと思いました。
さて皆さんは、ライフイベントと言われたら何を思い浮かべますか?結婚?出産?その他の何か?
なんとなく、今回の記事の概要を察していただけたでしょうか。それでは書き綴ってまいります。
どうぞお付き合いください。
人生のプラン
本題の前に、ちょっとした回想です。
「この用紙を空欄のないよう全て埋めて、来週中に提出してください。私が読むだけなので、自由に書いてもらって構いません」
高校1年生のある日、担任の先生にそう言われてある紙を渡されました。
【自分の将来について考えよう】
・大学はどこに通っているか
・どんな学部で何の勉強をしているか
・どんな職場で働いているか
・仕事はうまくいっているか
・結婚は何歳くらいでするか
・子供は何人いるか
・新しい家族とはどのように暮らしているか
・退職後は何をしているか
確かこのような質問が並んでいたように思います。
大学進学以外の選択肢があったかどうかも記憶が朧げなくらい、進学にうるさい高校でした。
そしてお気づきの通り、とにかく結婚と出産が大前提だったことに私は驚きました。
ない。書くことがない。
当時の私は、結婚はおろか進学さえまともに考えていない、16歳になりたての高校1年生でした。
絶対に枠を埋められないと確信した私は先生に相談します。
「進学の面は頑張って埋めるので、なんとか空欄があっても許してもらえませんか」
すでに初老を迎えた、どこか紳士風の担任の答えはこうでした。
「認められません。」
こうして、提出期限を無視した私はきっちりお叱りを受けたのでした。
結局、担任をどう説得したのか記憶が曖昧です。
結婚も出産もいずれするでしょう、仕事だって持つでしょう。それを想像すればいいと言われた記憶だけは残っています。
しかし私は、あの拷問に近い用紙をどうにかして提出せずに逃げ切りました。
そしてなんとなくこの手の話題から無事に逃げおおせた、これからもどうにか誤魔化せる、そう思っていたのです。
数年後、アルバイト先で例のあれを味わうまで。
閉店後のお喋り
大学生になった私はとある飲食店でアルバイトを始めました。
店員は学生バイトと主婦の方が多め。芸能関係の事務所に所属しているような方が1名だけいます。
ともかく、夜の閉店時のメンバーは全員大学生か専門学生。
そして私がシフトインするのは夕方や夜のみなので、学生の先輩や後輩・同期たちと閉店作業完了後に軽くお喋りをしてから解散する、これがいつもの流れなのです。
もう十二分にご想像いただけたのではないでしょうか。
私が大学3年生のある日、後輩のOくん(大学2年)とIちゃん(大学1年)と締め作業をしました。Iちゃんが私に、こんな話を振りました。
「秒針さんは、何歳くらいで結婚したいとかありますか?」
「え?」
「結婚ですよー!結婚!」
まずい。
そう思いました。この手の話題は答えられないから全力で避けてバイト先で生きてきたのに。
また昔みたいに、場をしらけさせてしまったらどうしよう。
昔というのは、この記事のことです。
でも、この時と違って今回の相手は後輩です。しかも少人数。
しほちゃんよりはまだ私の話を書いてくれる可能性がありました。
私は慎重に慎重にこう答えます。
「私は特に結婚願望とかないかな」
拙いコミュニケーション能力で誤魔化すために、相手に質問を返すことを選びました。この手の話題がもうトラウマレベルになっているのかもしれない、頭の片隅にそんな考えがちらりとよぎります。
「Iちゃんは?」
きっぱりと、きらきらした瞳でIちゃんはこう答えました。
「私は、絶対に早く結婚したいんです!25歳とかで!」
結婚という概念と私
驚愕の返答でした。
その場にいたメンバーは全員現役で進学した子たちと私です。つまりIちゃんはまだ18歳〜19歳。
え、は、早くない…?25歳って、7年後くらい?えっなんで?ていうか結婚したいってそもそも何?
私の頭の中は乱雑になっていきました。しかしそこで、あるひとつの考えが浮かんできます。
「あ、もしかして今もう彼氏とかが居て、その人と結婚したいとか…?」
可能性としては充分にあり得ます。私は恐る恐る訪ねました。
現在パートナーがいて、その人と結ばれることを望んでいる。それならまだ納得がいきます。またしてもIちゃんは、いつもの如く明朗快活な様子で答えてくれました。
「彼氏はいません!でも私、とにかく早く結婚したいんです」
とにかく早く。25歳で。当時21歳だった私にはあまりにも近すぎる将来の話でした。
4年後も私は絶対結婚していない。そう確信している自分はおかしいのか?
そう思った頃、Oくんがくすくすと笑いを含みつつ口を開きました。
「俺も結婚はしたいけど、25歳は流石に早いんじゃない?」
「えー!何でですか?!早ければ早いほどいいじゃないですか!」
大事な後輩2人がそんな会話を繰り広げていきます。話の流れでOくんも結婚願望があること、Iちゃんはさらに結婚願望が強く、若くして結婚したがっていることがわかりました。
まだ相手もいないのにそんなに結婚がしたいという気持ち、私には理解ができない。強くそう感じました。
でも人間同士、理解し合えない部分があるのは当然です。
私はしほちゃんの一件で学んだのです。
他人の思想を変えようとするのは無意味だから、せめて意見だけでも聞いて、独りよがりにならないようにしよう。
そしてなるたけ柔らかく質問します。
「2人はさ、どうしてそんなに結婚したいの?」
私の素朴な疑問は、またしても楽しげな笑みの籠ったOくんのひとことにばっさりと斬られました。
「むしろ、彼氏もいなければ結婚もしたくない秒針さんの方がおかしいですよ」
結婚願望について
私は結婚にも、それに伴う指輪やドレスといったモチーフにも憧れたことがありません。
そんなにおかしいの?おかしいって言われるほど、私って特殊なの?変なの?何でそんなこと言われなくちゃならないの?
怒りと疑問がふつふつと込み上げてきます。
Iちゃんの方が結婚願望が強そうだったので、2人になったときに彼女に聞いてみました。
「どうして25歳なんて若さで結婚したいの?」
「だって、そのくらいの年齢になったら周りがどんどん結婚していくじゃないですか。そしたら私、どうすればいいんですか」
「どうもこうも、保育士さんになるんでしょ?今みたいに実家暮らししながら働くとか、職場の近くで働きながらたまにお友達と会えばいいじゃん」
Iちゃんからの返答は衝撃的でした。
「でも、子育てとかで友達にも会ってもらえなくなるかもしれないし。それに、自分だけ売れ残りって恥ずかしいじゃないですか」
私は部屋の中にいるのに、一気に身体が冷たくなっていくのがわかりました。
この子は自分の寂しさを紛らわせるために結婚を望んでいるのか。そう思うと結婚という儀式が単なる莫大な時間の暇潰しの行為に思えてなりませんでした。
それなら、してもしなくても、いつしても、思い描いてなくても、よくない?
そこまで思ったあたりで、Oくんも加わったので意見を聞いてみました。すると彼は人を食ったようにこう言いました。
「そこはだって、秒針さんが特殊だから」
反論
できませんでした。
というか、する気力も湧いてこなかったです。
普通って何だろう。結婚したがること?異性を求めること?
高校時代の質問用紙がフラッシュバックします。
結婚する・したがるのが当たり前。子供を持つ・持ちたがるのが当たり前。そんな世の中の空気を二度味わって、私は世間に反発したまま生きていくことになるんだろうか。
そんな一抹の不安を抱え、まだアロマンティックもアセクシャルの人口もよく知らない私は急激に1人取り残されたような感覚になったのでした。
この後暫くしてから私は秒針という名のアカウントでアロマンティックやアセクシャルの仲間を見つけ、最近ようやく交流を深めつつあります。
交流してくださってる皆さん、記事を読んでくださった皆さん、本当に感謝しています。
お別れのご挨拶
ここまで読んでくださりありがとうございました。
孤独感を覚えつつも、私はそのままアルバイトを続けて他の学生たちと何とかうまくやっています。
みなさんもこうした体験に心当たりがあるのではないでしょうか。良ければ私にも聞かせてくださいな。
では、今回はこの辺で。
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