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霞を食う生活

子供のころ、私の父は口癖のように「霞(かすみ)を食って生きていきたい」と言っていました。
それを聞いて、「いったい何を言ってるんだ、このオヤジは…」とよく思ったものです。

霞を食うとは、深い山に住む仙人が山に漂う霞だけを食べて生きてることから、「浮世離れして、収入もなしに暮らすことのたとえ」として使われる言葉です。

私の実家は道路の舗装もされていないような山の中にあるため、父は山の中に住む自分自身を仙人にたとえてそのような言葉を言っていたのだと思います。

言うだけならまだ良かったのですが、父は私が高校生のころにほんとうに仕事をやめて無職になってしまいました。
しかし、人間は霞だけを食べて生きていくことはできませんし、姉はすでに働き始めていましたが、私と妹の二人の子供はまだ学生なのでお金もかかります。

結局、父はしばらく無職生活を楽しんだ(?)後に母の知り合いの会社でアルバイトとして働き始めました。

私は、高校3年生となりました。
父からは「うちはお金がないから高卒で働いてくれ」と頼まれましたが、私は「奨学金もらってアルバイトもして全部自分で払うから、大学に行かせてほしい」と答え、実際にそのとおりにしました。

その後、大学を卒業し、就職して結婚をしました。
父からは「うちはお金がないから、恥ずかしいけど結婚費用をだせない。申し訳ない」と言われ、結婚費用は私と妻ですべて出しました。

父が会社を辞めたことで、私は金銭的には多少の苦労をしましたが、父に対して恨みに思うようなことは全くありませんでした
むしろ、今ではその経験があったからこそ精神的にも自立し、自分の選んだ人生を生きているという自覚につながっていると考えています。

会社員をやっていたときにはいつもイライラしていた父が、アルバイトで生活し始めてからは憑き物が落ちたかのように落ち着いた表情に変わったこともみていました。

また、高校生・大学生のころは父に反発していましたが、大人になって父を客観的にみると、偏屈で不器用ですが、欲のないどちらかというと善人であり愛すべき人間だと感じるようになっていました。
(もちろん、その陰で母は大変な苦労をしたと思います。父が仕事をいきなり辞めたとき、よく離婚しなかったものだなぁと思っています。)

父は普通の社会の中では生きにくいタイプの人間だったのだろうと思います。
よくつぶやいていた「霞を食って生きていきたい」という言葉は心からの言葉だったのだと、今なら理解できます。

父はもう年金をもらう年になりましたが年金だけでは生活できないため、山の中で畑仕事をしつつ、今でもシニアの仕事を続けています。
残念ながら「霞を食って生きていきたい」という夢はいまだ叶えられていないようですが、体もまだまだ健康で貧しいながらも穏やかに暮らしています。

☆ ☆ ☆

さて、少し話は変わりますが、最近ポッドキャストという音声配信サービスで、音声配信を始めたことを前に記事にしました。

配信をはじめてすぐに、「シュウの放すラジオ」というポッドキャスト番組を配信されているシュウさんが感想をtwitterでつぶやいて下さいました。

音声配信を始めてすぐに感想をもらえるとは思っていなかったので、とても嬉しかったですね。

シュウさんは私の聞いているポッドキャスト番組でたまに取り上げられていた方だったため、私も知っていました。

取り上げられる理由は、シュウさんの生き方がとても独特だからです。

なるべくお金を使わない生活を目指して毎月5万円を稼いでいたアルバイトも辞め、自身の生き方や考え方をpodcastなどで配信されています。

お金を使わない生活の一環として、自分で編んだワラジをはいて生活しているそうなので驚きです。

twitterで感想をもらったあと、すぐにシュウさんのポッドキャスト番組を聞き始めました。
番組を聞いて感じたことは私の父とどこか似ているな、ということでした。

シュウさんはHSP(Highly Sensitibe Person)であること公表しており、自身のことを「ビビリ」だと称しています。
HSPの方は先天的な気質や性質であり、まわりに合わせようとして無理をして生きづらさを感じやすいと言われています。

私の父とおなじように、社会の中では生きにくいタイプだったのだろうことは、想像に難くありません。

そして、なるべくお金を使わない生活を目指す姿が、「霞を食って生きていきたい」とつぶやいていた父が重なったのです。

そこで、私はシュウさんの番組スポンサーとなって月額300円とわずかながらですが支援をすることを決めました。


ただ、月額の支援をしようと考えたのは、父に似ているからという理由だけではなく、番組で発せられるメッセージに共感したからでもあります。

シュウさんは今の社会を「滝つぼに向かう船」に例えていて、どんどんと逃げ場がなくなっていくことに危機感を覚えて、新しい生き方ができないかを考え実践し続けています。

私も今の社会の進む方向に少し危機感を覚えていて、お金では測ることのできない価値に目を向けることができる違う仕組みが必要ではないかと、強く感じていました。
(前に記事に書いたことがあるので、よければご覧ください)

シュウさんの番組スポンサーとなったのは、単純に生活を支援をしたいという気持ちもあります。

しかしそれだけではなく、お金を富の蓄積や物を手に入れるための流通手段としての従来の使い方ではなく、人の生き方や価値観に価値を感じてそこに何のリターンも求めずに使うという、自分自身にとって新しいお金との向き合い方をしたいと思ったのです。

それでなにかが変わるわけでもないかもしれませんが、少なくとも自分の中で何か変化が起こることに期待したのです。

その変化が、もしかしたらいつか社会になんらかの影響をもたらすこともあるかもしれません。

「霞を食って生きていきたい」とつぶやいて社会での生きづらさを抱えていた私の父のような人でも、その存在が認められるような社会になることを願っています。

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