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フードエッセイ『アイスクリームが溶けぬ前に』 #18 十勝や(掛川)


カスタードの鯛焼きで「注文を受けてから焼いてくれるお店」に、とうとう出会ってしまった。

一匹ずつ焼き上げる"一丁焼き"の「天然モノ」と、焼き型に流し入れて複数焼き上げる「養殖モノ」。さらには、"あんこ派"か"カスタード派"か。あんこ派でも、"こしあん"か"つぶあん"なのか。鯛が荒波に負けずに育つように、鯛焼きにはさまざまな論争が渦巻いている。


鯛焼きや大判焼き(今川焼き)といった小麦系和菓子を、無性に食べたくなるときがある。そんなとき、さらに嬉しいのが、本当の焼き立てに出会えることだ。


ホットコーナーで温められている鯛焼きも美味しいが、焼きたては格別だ。アツアツのあんこやカスタードクリーム、焼き型からはみ出たパリッとした皮。焼き上がってすぐであるほど、はみ出た皮が甘い煎餅のようで、食べすすめていくと溢れるあんこやカスタードも温かくて気持ちいい。


鯛焼きは、ひとりでもよし、2人で来たら"はんぶんこ"できる。
喧嘩したとき、嬉しいとき、悲しそうな相方を見たとき、「勇気出せよ」というメッセージや「嬉しさのお裾分け」の象徴だ。


カスタードの鯛焼きが焼きたての状態で食べたいと思いつつ、ほぼ諦めかけてたときに出会えたお店を、忘れることはないだろう。トイレに行きたいと思い続けた中で見つけた公園だったり、長く歩き続けてお腹が減りすぎてもう限界…という状況で見つけたお店のように。


焼き型から溢れた皮目をそのまま残してくれる優しさ。
焼きたてだけど暑すぎないよう、少しだけ時間を置いてから渡してくれる心配り。店員さんの粋(いき)を感じた瞬間だった。


アツアツの冷めないうちに、この言葉を贈りたい。

カスタード鯛焼きとの忘れられない出会いと、出来立てほやほやの鯛焼きを、ごちそうさまでした。

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