フードエッセイ「アイスクリームが溶けぬ前に」 #27 PATH(代々木八幡)
ここに行きたいではなく、このお店でこの料理を食べたいという“叶えたい夢“をもってお店にたどり着いたのは、いつ以来だろう。おそらく、食べたいものが決まっているお店ほど、待つことに抵抗は薄らぎ、待ち時間さえも空腹のスパイスに変わる。
代々木上原の線路と並行した通りにある、PATH。友人が予約してくれたことで、この行列の絶えないお店と出会えた。知らないお店との出会いは、いつになってもドキドキとワクワクの連続だ。
オープンキッチン、カウンターの縁に並べられた食器たち、レコード、蓄音機、冷やされたワイン。落ち着いた雰囲気を作り出しているものたちに囲まれながらメニューをながめていると、友人が「ここに来た目的は、生ハムがのったダッチパンケーキを食べたくてね」と伝えてくれた。
ダッチパンケーキ…??と思いながら、舌センサーが近しい友人の言葉に不安な気持ちは一切ない。ダッチパンケーキと、トレビス・キヌア・ぶどうのサラダをチョイス。食べたことのないトレビスに一抹の不安をおぼえながらも、向かい合わせに座る友人との忘れられない時間になる予感しかない。
ダッチパンケーキは30分ほどかかると聞いていたので、先にトレビスのサラダがリングインしてきた。
紫系メインの中にキヌアが散りばめられていて、酸味の効いたドレッシングの匂いが心地よくなる。トレビスは加熱すると苦くなると聞いていたので、これは生でも少し苦いかな…?と予想しながら口にいれる。少し苦味を感じたが、食べられない味ではなく、ブドウやキヌアと食べると調和されて「美味しい」に変わる。
料理って食材単体で勝負ありって一皿もあれば、すべて一緒に食べるからこそ美味しい料理もあって、すごく奥が深い。料理人が食べる人にどう感じてほしいかを考えに考えた様子が目に浮かぶと、将棋やオセロで何手先を読む姿に重ねていた。
苦い、甘い、組み合わせると馴染んでいくなぁと感じていると、いよいよ真打ち登場。生ハムが真ん中にのった、ベーグルのようなフレンチトーストにも似ているダッチパンケーキさん。
外はカリッとした見た目、中はもっちりしてそうな姿。メイプルシロップがかかっているが、追いシロップも準備万端。さて、フォークとナイフを構えていざ実食。
メイプルシロップが染みたパンケーキの甘さ、生ハムの塩気。スイカに塩をふると絶品になるようなハマる味。はじめて食べたはずなのに、これは正解パターンの味だと思い、不思議な感覚に浸っていた。
足を運んだことのない街の、知らなかったお店での食体験。知ってるからこその安心感とは真逆の状況だったからこそ、美味しかった料理は忘れられない料理へと変わっていく。
そんなことを思いながら、今日もお店の方へ「ごちこうさま」を届ける。
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