神経科学者デイヴィッド・イーグルマン「私たちの脳の機能は“麻薬ディーラー”に似ている」【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.107】
脳とコンピュータを比較するのは、魅力的な方法のように感じられます。
脳にはそれぞれ1万もの接続部を持った860億のニューロンがあり、人が生きている毎秒ごとに再構成され続けています。あなたがこの段落を読み終わるときには、読み始めたときとはわずかに違う人物になっている、というわけです。
私たちの脳内で繰り広げられる「縄張り争い」
脳は、トップダウンの指示がなくても驚くべきことを成し遂げられるという点です。子供が手術で脳の半分を切除されても、脳の機能は残った部分をもとに配線し直され、存続します。これを私は麻薬の密売人にたとえているのです。
トップダウンの会議で縄張りが分配されるのではなく、それぞれの売人が隣り合う縄張りの持ち主と絶えず競争をしていて、縄張りにできそうな場所がある限りはそこをめぐって戦うからです。
脳の仕組みも、実はそうなっています。脳は何百億ものニューロンでできていますが、ひとつひとつのニューロンが、自分の縄張りをめぐって競争しているのです。
ひとつひとつのニューロンの競争、つまり、脳内の各細胞が隣の細胞に対抗して生き延びるための闘争は、つねに行われています。
だから、目が見えなくなったり、腕を失ったりするなど、脳に何か変化が起こると、脳内では急速に大規模な再編成がなされます。
夢を見ることで「アレ」が守られている
神経科学の研究における驚くべき成果の一つは、上で述べたような脳の内部での「領土の奪いあい」が、いかに急速に起こるかを解明したことです。
およそ90分ごとに、たくさんのランダムな活動が視覚系に叩き込まれます。そしてそれは視覚系で起こっているわけですから、私たちはそれを夢として、つまり映像として経験するのです。
まず、意識をどう定義するかで多くの議論がありますが、基本的には、朝起きたときに私たちの生命にパッと現れるもののことを言っていますね。しかし、なぜそれが起こるのかと問われると、以前よりも答えに近づいているかどうかはわかりません。
私たちがここで問うているのは、物理的な要素をどのようにしてプライベートな主観的体験、つまり赤い色が赤いという感覚とか、痛みが痛いという感覚とか、この香りはシナモンだという認識などに変換するか? ということで、その点がほかの科学的な難問と異なるところです。
そのため、理論がまだ存在しないだけではなく、そうやって私たちの体験を物理的、または数学的に説明するような理論がいったいどのようなものになりうるのかも、よくわかっていないのです。
コミュニケーションというのは、たくさんの段階からなるプロセスです。だから今、この質問に答えるにあたっても、私は本当にたくさんのことを考えています。そしてその思考を、自分の意図が明確に伝わるような言葉に落とし込んでいるわけです。
しかしもし、考えを読むだけの状態で「さあ、答えを教えて」と言われても、出てくるものは未完成な文や単語と、「あっコーヒーがこぼれている」というような、無関係の思考がごちゃまぜになったものでしょう。
何度も推敲されておらず、ただ頭のなかを垂れ流しただけの本を読みたくないのと同じでしょうね。
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