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「僕の家族のすべて」が教えてくれる、グレーゾーンで幸せになるという希望

Twitterでも少し話題になっていた、Netflixで配信中のドキュメンタリー作品「僕の家族のすべて(All in My Family)」を観ました。

監督は、中国出身でアメリカ在住のハオ・ウー。自身の同性パートナーとの間に迎えた代理出産の子どもたちとともに、中国の家族に受け入れてもらうまでを追ったドキュメンタリーです。

少々重いテーマではありますが、ハオの率直ながら温かみのある語り口が、作品全体をリラックスした、爽やかな映画に仕上げています。

アジアの保守的な家庭に価値観を揺るがすリベラルな考えがぶっこまれたときに何が起こるのか、というストーリーの構造は、今のアメリカっぽいですよね。

今作では、ハオの家族に同性愛や代理出産がどう受け止められ、困惑を生み、理解されるのか。兄弟や両親、親戚へのインタビューを中心に描かれています。

そして物語の重要人物が、90歳を超えるハオの祖父。孫を待望する彼に、家族は真実を告げられるのか......結果はぜひ本編を見て確かめてください。

幸せへのプロセスは、無理して辿るものではない

親族の重圧という意味ではアジア人として共感できる点も多いだろうと思いきや、中国の家庭のプレッシャーってすごいですね。作中では、特に年配の親戚から「今度帰ってくる時は奥さんを連れてこい」「養子はだめ」「代理母は中国人で、純血が良い」と、無垢だからこそ重たい言葉が次々と飛び出し、観ているだけでドキっとします。

ハオの母親も例外ではありません。息子の同性パートナーについては受け入れた彼女も、代理出産には猛反対。「子供を作るなら私は離婚する」とまで言いだします。仕方なく子どもを迎えた後も、友人や親戚には真実を隠すべきだという立場を譲りません。一方ハオは、誰にでも事実をそのまま言えばいいだろうと、母親と対立します。

しかし、母親へのインタビューを繰り返す中で、ハオは彼女の胸の内の傷跡に気づきます。母親が、ハオのカミングアウトを受け入れるまでに苦しんだ数年間の傷跡です。

成績優秀で良い子だった息子が、急に自分がコントロールできないところに行ってしまった。息子の生き方を理解し受け入れるのは「正しい」けれど、その過程で彼女が彼女なりに傷つき、闘っていたのもまた事実です。

代理出産に反対し、それを隠すべきだと考えるのも、やはり愛する息子夫夫や孫、そしてハオの祖父を守りたいという思いがあるからでした。

ハオは改めて考えます。誰にでも真実をそのまま伝えて受け入れてもらうという、アメリカでは絶対的な正義に思えるこのプロセスは、本当に自分の家族にも通用するのか。無理してその道筋を辿ることで、大切な人を傷つけるのではないか

▲監督は本作が中国の家族、そして母親へのラブレターだと言っています。

グレーゾーンの中でも幸せを育めるという、当たり前

テレビやネット上のLGBT+の話題では「理解のある親やおばあちゃんがいて最高!」みたいな話をよく見ますし、感動的なカミングアウトの動画なんかもバズりますよね。そういう家族がいるのは間違いなく最高だし、希望をもらえます。すんなり受け入れることができたら、そして受け入れてもらえたら、お互いにとって理想的ですから。でも、現実は必ずしもそうではありません。

じゃあすぐに100%受け入れてもらえないと幸せになれないのかって言うと、そんなことはないんですよね。お互いがそれぞれの戦いをしながら、時間をかけて、バランスを取りながら。そんなふうに微妙なグレーゾーンの中で育んでいく幸せの形を、このドキュメンタリーは見せてくれます。

幸せへのプロセスとしてあまりにわかりやすいテンプレしか見えないのって、実は結構つらい(例えば、先述の感動的なカミングアウト動画とか)。幸せのロールモデルが多いほど良いというのは当たり前のことではあるんですが、特にLGBT+のカミングアウトに関しては陥りがちなトラップだと思うんですよね。

ということで、今はいろんな事情があってモヤモヤしている人も、グレーゾーンでバランスを取りながら、少しずつ幸せになろう。


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