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総括!東京国際映画祭&東京フィルメックス2022

みなさんこんばんは。
この2週間第35回東京国際映画祭と第23回東京フィルメックスに参加していましたので、その総括とオススメ作品を書いていこうと思います。

総括

東京国際映画祭

鑑賞作品
・コンペティション部門
ザ・ビースト、テルアビブ・ベイルート、マンティコア、アシュカル、カイマック、第三次世界大戦、ファビュラスな人たち、孔雀の嘆き、エゴイスト

・アジアの未来部門
へその緒、蝶の命は一日限り、クローブとカーネーション、アヘン

・ワールド・フォーカス部門
鬼火、波が来るとき、スパルタ

・ガラ・セレクション
フェアリーテイル

・TIFFシリーズ
イルマ・ヴェップ

ザ・ビースト

結果
★コンペティション部門
グランプリ : ザ・ビースト
審査委員特別賞 : 第三次世界大戦
監督賞 : ザ・ビースト
男優賞 : ザ・ビースト
女優賞 : 1976
芸術貢献賞 : 孔雀の嘆き
観客賞 : 窓辺にて
★アジアの未来部門
作品賞 : 蝶の命は一日限り

 コンペは15作品中、9作品鑑賞しました。受賞作品のうち観られなかったのは女優賞の『1976』でした。
 前評判としては、ヴェネツィア映画祭最高賞『ビフォア・ザ・レイン』のミルチョ・マンチェフスキ監督新作『カイマック』、ベルリン映画祭コンペ出品作『ハーモニー・レッスン』のエミール・バイガジン監督新作『ライフ』、来年のアカデミー国際長編映画賞イラン代表作『第三次世界大戦』の3作品の期待値が高かったように思います。
 実際上映が始まって一番に盛り上がったのは『おもかげ』のロドリゴ・ソロゴイェン監督新作『ザ・ビースト』でした。緊張感のある物語とドゥニ・メノーシェの演技が評判でした。次に『マジカル・ガール』のカルロス・ベルムト監督新作『マンティコア』『カイマック』だったと思います。『マンティコア』は予測不能のストーリーと男優の怪演、『カイマック』は軽快なストーリーテリングが評判になっていました。『第三次世界大戦』は猛烈に推す人、嫌う人とパックリ割れた印象です。日本映画三本は、『山女』はコンペの中では印象が薄いという感想が目立ち、あまり注目されていなかったですが、『窓辺にて』『エゴイスト』は出演俳優のファンを中心にではありますが好評でした。
 受賞結果を見てみると、やはり第一に言えるのは『ザ・ビースト』に賞を与えすぎです。僕はあまり評価していないですが、評判がいいのは分かります。でもグランプリ、監督賞、男優賞の三冠はやりすぎです。アカデミー賞など投票の結果、というのならいいのですが、審査員が決める映画祭なんですからより多くの映画に賞を与えるべきではないんですか?『マンティコア』はペドフィリアというリスキーな題材なのでムリかな、とは思っていましたが、『カイマック』が無冠というのが納得できません。
 まあこればかりは審査員の好みなので仕方ないですが…せめて監督賞は別の作品にするとかできなかったんですかね。男優賞はともかく、グランプリと監督賞が同じ作品ってすごくつまらなくないですか…?
 女優賞の『1976』は観ていないのでなんとも言えませんが、そもそも女性単独主演作が『1976』『山女』しかないですからね。妥当じゃないでしょうか。
 芸術貢献賞の『孔雀の嘆き』はかなり意外でしたね。予想している人はいなかったんじゃないですか?僕も『カイマック』『ライフ』あたりかなと思っていたので意外でした。ただ、『孔雀の嘆き』は東京国際映画祭生え抜きの監督作品ですし、出来はイマイチですが伝えてくるメッセージは真っ直ぐで爽やかでした。新人賞という意味でこれは納得ですね。
 個人的には『カイマック』『マンティコア』『エゴイスト』が無冠なのが非常に残念でした。
 アジアの未来部門に関しては、一際評判が良く、「コンペティション部門でも遜色ない」とまで言われていたのがイラン映画『蝶の命は一日限り』でした。実際アジアの未来部門作品賞を受賞し、観た人なら誰もが納得の結果ではないでしょうか。

東京フィルメックス

鑑賞作品
・コンペティション部門
同じ下着を着るふたりの女、自叙伝、ソウルに帰る

・特別招待作品
ホテル、すべては大丈夫、ナナ、ノー・ベアーズ

自叙伝

結果
作品賞 : 自叙伝
審査員特別賞 : ソウルに帰る、Next Sohee
スペシャル・メンション : ダム
観客賞 : 遠いところ
学生審査員賞 : 地中海熱

 まず言いたいんですが、同時開催やめてもらえないですかねぇ…
 いや、微妙にズレてはいるんです。でも重なっているものもかなりあって、実際そのせいでコンペティション部門の作品あんまり観られなかったんですよ。
 フィルメックスはそもそも世界の映画祭で既にプレミアされていて、好評のものを持ってきているので、前評判もクソもないというか。レベルが高いのは当たり前なんですよね。
 その中で観客の支持を感じたのは、『私の少女』チョン・ジュリ新作『Next Sohee』、カンヌ映画祭ある視点部門出品作『ソウルに帰る』だったと思います。奇しくもどちらも韓国を舞台にした映画(『ソウルに帰る』ダヴィ・シュー監督はフランス人)であり、韓国の文化事業に対する支援が実った結果のように思います。
 受賞結果は妥当だと思います。『自叙伝』は飛び抜けて評価が高いわけではなかったですが、概ね好評でした。フィルメックスの作品賞は静かなアート映画がとるイメージなのでまさしく、という感じです。審査員特別賞に評判の良かった2作品が入りました。スペシャル・メンションの『ダム』と学生審査員賞の『地中海熱』は少し意外ですかね。『同じ下着を着るふたりの女』には何かあげてもいいんじゃないかとは思いました。

オススメ作品ベスト5

東京国際映画祭ベスト5

🥇『イルマ・ヴェップ』(TIFFシリーズ)
🥈『マンティコア』(コンペティション)
🥉『エゴイスト』(コンペティション)
④『カイマック』(コンペティション)
⑤『フェアリーテイル』(ガラ・セレクション)

 『イルマ・ヴェップ』は現在U-NEXTで配信中のドラマです。元々1995年に制作された同名映画があり、それのリメイクです。ただ、監督のオリヴィエ・アサイヤスはドラマではなく、連続映画として観てほしいとビデオメッセージで語っていました。また家ではなく、映画館で観てほしいとも言っていました。本当に映画館で観られて良かった。1995年版を踏襲しつつも今の時代にふさわしい新しい語り口に満ち、メタ的な視点も非常に優れていました。「極上」という言葉が相応しい作品でした。アリシア・ヴィキャンデルはこれが新たな代表作になるでしょう。

 『マンティコア』は前述の通り、『マジカル・ガール』で知られるスペインの鬼才、カルロス・ベルムト監督作品です。前作『シークレット・ヴォイス』が人生ベストに入るくらい大好きで、今回最も期待していました。その期待に負けない素晴らしい作品でした。ペドフィリアというリスキーな題材に果敢に挑み、勝利してみせました。予測不能のストーリー、含蓄のある細部の描写、男優女優の怪演、美しく奇妙な撮影と美術とカルロス・ベルムトにしか撮れない作品です。日本公開、ムリかなあ…

 『カイマック』はあまり期待していませんでしたが、想像以上に面白かったです。『ビフォア・ザ・レイン』自体そんなに好きでもないのですが、本作はすごかった。『パラサイト』×『テルマ&ルイーズ』のようなぶっ飛んだ脚本は非常によく練り込まれていて素直に面白かったですね。貧富の差、ジェンダー、セクシャルと現代的なテーマを扱ったブラックコメディで、最後にひっくり返してくる展開は見事でした。美術も素晴らしかったですね。これは日本公開期待できるんじゃないでしょうか。

 『エゴイスト』もそんなに期待はしていませんでした。僕自身セクマイ当事者なので、他の人より厳しく見てしまいます。しかし、僕の目からみても文句のつけようがない見事な作品でした。やはり鈴木亮平ですよね。上手すぎる…なんなんだこの人。阿川佐和子、『来る』の柴田理恵と同じ驚きがありました。こんな使い方ができるのか!という。「ね!こんなに差別されて辛いよね!」という話から先へ進んだ脚本が素晴らしく、ラストの着地も見事でした。細部の描写、伏線、小道具の使い方、音楽の使い方もまあ見事。一般公開されたら絶対評判になる。鈴木亮平のファンでも宮沢氷魚のファンでもないですがそう言い切ってしまいます。はっきり言って今年の日本映画ベストに決定です。

 『フェアリーテイル』はまあヘンな映画でしたね~ソクーロフだから予想はしていましたが。ヒトラー、チャーチル、スターリンなど歴史上のワンマン政治家があの世の門で語り合うという、どういう生き方をしたらこんな映画つくれるんだという…まさしくソクーロフにしかできない作品ですよね。まるで絵本の中にいるような幻想的で悪夢的な世界観に浸っているだけで幸せでした。ソクーロフの頭の中を彷徨っているような。これは配給が決まっているということなので観られます。ぜひ観て訳の分からない世界に誘われてください。

フィルメックス

🥇『ノー・ベアーズ』(特別招待)
🥈『ソウルに帰る』(コンペティション)
🥉『ホテル』(特別招待)
④『自叙伝』(コンペティション)
⑤『同じ下着を着るふたりの女』(コンペティション)

 ジャファル・パナヒ監督新作『ノー・ベアーズ』、これがまあ傑作でした。今のところの今年ベストかもしれません。現在拘束状態にあるパナヒ監督、このときは軟禁だったのかな?そうした逆境に負けず、というかその状況を120%生かして作品を撮ってしまう、そしてそれがめちゃくちゃ面白いというのは本当に天才なんだと思います。多層的な構造、スリリングな展開力、挿入されるユーモアと全てが絶品。「イラン映画人に捧ぐ」という字幕で拍手喝采でした。一日も早く解放されて、その才能を惜しみなく発揮してほしいですね。

 『ソウルに帰る』はかなりの異色作でした。すごいフランス映画っぽいんですよ。オシャレな編集、ジェンダーレスな女主人公がポップに繋がれていきます。主人公のとる行動はかなりエキセントリック、アンダーグラウンドな文化も前面に出てきています。「故郷」という名の呪いが強くのしかかり、エキセントリックな仮面に隠れたヒロインが本当の感情を吐露するところは感動しましたね。これは商業映画としても十分面白いはずなので日本公開期待しています。

 『ホテル』は『北京の自転車』などのワン・シャオシュアイ監督の新作です。『在りし日の歌』だけ観ていたのですが、全く違う作風で驚きでした。巨匠が重い作品の間に軽く撮った、という感じで、軽妙なコメディ映画として大いに楽しめました。ただやはりシャオシュアイの美意識も健在で、一つ一つのシーンが美しかったです。ギョッとするようなシーンもあり、そのバランスが流石巨匠!という感じです。

 『自叙伝』はヴェネツィア映画祭オリゾンティ部門国際映画批評家連盟賞を受賞しており、その名に恥じない秀作でした。展開自体は予想ができます。しかししっかりと最後まで緊張感を持続させ、全くダレずに最後まで持って行きます。家の美術や室内撮影がとんでもなく美しく、キャスティングも見事でした。疑似家族ものではあるのですが、そこを超えてしまっているように見える危うい描写も素晴らしかったですね。

 『同じ下着を着るふたりの女』の監督は商業映画デビュー作とのこと。末恐ろしい。的確な描写で複雑に拗れた母と娘の関係をじっくり描いていきます。韓国では無条件にいい関係として描かれる母と娘という関係を、リアルではこういう関係かもしれないというのを描きたかったと監督は言っていた。少し長すぎ、メリハリがつけばもっと良くなると思いますが、キャラクターの描き込みは濃厚で力強い脚本が強みだと思うので、これからますます伸びると思いますね。とにかくこれが商業映画デビューとは信じられない才能の持ち主です。

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