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身体の延長としての集落ーオストゥーニ ー【名のない空間について】

有名建築のレビューは然るべき書き手に任せて、日常の中で、あるいは旅先でふと目にした、名のない空間について、そして、その背後にある人々の営みについて書いてみたい。
誰にも記述されずに、いつまでも放っておかれるであろう空間。そんな空間に興味がある。今回はその第二話。

今回紹介したいのは、南イタリアのオストゥーニという街だ。様々なところで紹介されている有名な街であるけれど、有名建築家など特定の作者がデザインした空間ではなく、作者不明のいわゆるアノニマスな空間であるから、ここで「名のない空間」として紹介したいと思う。

オストゥーニは、ブーツの形をしたイタリアのちょうど踵の位置にある、人口およそ3万人ほどの小さな都市だ。

都市化が進んだ北イタリアとは違い、南イタリアはオリーブ畑の長閑な風景が広がる。中継するバーリから、バスに乗り、オリーブ畑がどこまでも続くような風景を行くと、忽然と姿を現す白い要塞がこのオストゥーニという街である。

訪問者を拒絶するようなこの佇まいは、長い歴史のなかで、他国からの侵攻を何度も受けたことによるもので、外部の敵が容易に近づけないようにするのだという。

街の中へと足を踏み入れると、街は真っ白く塗られた迷路のようで、人とやっとすれ違うことができるほどの狭い路地が続いている。

なんだかいつまでも歩きたいような感じがして、僕はこの街をずっと歩き続けた。
進むにつれて、空間が広がり、狭まり、暗くなり、そして明るくなる。色を排したこの空間は、その抑揚を強調するのだ。

現実とは思えないような真っ白い世界にいると、どこか浮遊感のようなものを感じると同時に羊水に浸かっているような心地良さを感じはじめる。この街の空間が身体に寄り添い、優しく包み込まれるような感覚で、やがて、この空間を、自分の身体の延長のように感じるのだ。
フンデルトヴァッサーは住まいを第三の皮膚と表現したけれど、この街で得た感覚ほどこの言葉をしっくりこさせるものはない。白い迷路から、不意に外へ出ると、衣を剥ぎ取られるような不安をさえ感じたのだ。


こちらでこの街についていますので、お聞きいただければ嬉しいです。


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