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守りの対話~人生が豊かになる『畑』の可能性~オープンダイアローグから創造する新しい医療(4)

 こんにちは。将棋が一向に上達しない研修医ShunIshikawaです。
でも藤森哲也5段のYOTUBEチャンネルで勉強して最近ちょっと強くなりました。

 さて、オープンダイアローグに関する連載も第4回となりました。

 第一回はオープンダイアローグとはそもそも何かというお話でした。

 第二回は、救急科での経験からオープンダイアローグのニーズは救急医療においてもありそうだというお話をしました。

 第三回は、また基本に戻って、そもそも対話ってなんだろうという話を深めていきました。

 そして第四回の今回は、対話の場、対話が出来るコミュニティはたくさんあった方が良い。その対話の場として畑、寺、カフェがコミュニティとして魅力的であるというお話を続けていこうと思います。

 既に問題が生じていて追い込まれてしまった方に積極的アプローチする攻めの対話に対して、問題が生じないように、また豊かに生きる土壌としての守りの対話の場をつくろう、そんなお話です。


こんな人に読んでほしい


 ★オープンダイアローグの実践の事例について一緒に考えてくれる人
 ★これからコミュニティ形成や居場所づくりをしようと考えている人
 ★コミュニティ形成などの企画を行っているが運営に悩んでいる人
 ★自分らしくあれる場所、いいコミュニティを未だ知らない人
 


守りの対話~畑、寺、カフェ~

 前回、職場や家庭で対話が出来る環境の人も、ネットワークは蜜である必要はなくむしろ数が多い方が良いという観点から複数のコミュニティを持っている方が良さそうであると話しました。

 現在、地域での居場所づくり、コミュニティ形成といった動きは様々な文脈で行われており、面白い活動をされている方が全国各地にいらっしゃいます。そんな第三の居場所、対話の場として畑やお寺、カフェなどが今後活躍していくことが考えられます。というか、既に活躍しています
 (以前アップした寺社仏閣のポテンシャルという話に重複します。こちら小難しく書かれているので、もし興味があったら。)



春日部発サブスク農園が熱い

  まず紹介したいのが、春日部にあるサブスク農園Coltivateです。

※はじめに注意書きですが、僕が実際にColtivateに体験に行き、オーナーや会員の方とお話しをして感じた事を主観的にまとめたものです。畑がオープンダイアローグ的な場として機能しているなどの考察は僕が訪れてそう感じたという点であることはご了承ください。


 定額制(サブスクリプション)農園という聞き慣れない農園の立ち上げ人は梶直輝さん。金融機関勤務から退職し全国を自転車で一周、その後複数の仕事を掛け持つパラレルワーカーとなり、フリーランスでフォトグラファー、ライター、ツリーハウス製作などを行い、現在はプロフォトグラファー主体として、様々コミュニティ形成や人材紹介など行う自然人です。

(梶アニキとの出会いは、僕がDJをやっていた頃イベントに来たお姉さんに逆ナンされご飯に行った結果、変なやつだと思われ、お姉さんとお姉さんの友達がお互いの変な知り合いを持ち寄って飲もうと企画した際に紹介されたのがきっかけでした。我ながら意味がわかりませんが事実ママです。)

 サブスク農園は、会員がそれぞれ自由な時間に農作業を行い、収穫もそれぞれ自分で行うといったものです。

 共同農園としてはそういう場所もあるのかな…くらいに思われるかもしれませんが、Coltivateには特徴的なグラウンドルールがあります。

サブスク農園Coltivateの参加にあたっての条件

・失敗から学べる人
・変化に対応できる人
・多様性を受け入れ、否定しない人
・継続的に関われる人

一部改変、梶直輝さんのブログより

 ここまで連載を読んでくださっている方はお気づきですね。オープンダイアローグの7つの条件、ポリフォニーの思想と共通するような条件になっています

サブスク農園を支える哲学は多様性=ポリフォニー


 サブスク農園は、畑としての作業はもちろんのこと、上記の条件を守ればどう関わっても、何をしてもいい自由な場、試行錯誤の場です。

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『農作業の合間、畑でハンドパンを演奏する筆者』

 僕が体験に行った際は、しばらく草刈りした後休憩がてらハンドパンの演奏を農作業に来ていた方々に贈りました。その他にも、七輪でバーベキューをしたり、ハンモックで昼寝したり、トゥクトゥクがやってきたり。梶さんが全国各地を旅して築いてきた職種もスキルも様々な仲間たちが春日部を訪れては、畑でもてなしていただいたお礼に自分が出来るスキルを提供していきます。

 他者の在り方を否定しない(面白がる)、多様に生きる様々な人が出入りするので、新たな刺激に満ちています。この土壌があってか、自然と会員の方々のスキルも多種多様です。

主なスキルとして
カメラ、DIY、フリーランス、筋トレ、溶接、幼児教育、カービング、養蜂、漢方、和菓子、フードコーディネーター、デザイナー、アドレスホッパー、多拠点生活、イベンター、整体師、外構、トゥクトゥク、本屋、異文化交流…

プロでやっている人もいれば趣味の人、色々な形がある。みんなそれぞれの道を突き進んでいる。

引用:梶直輝さんのブログ記事より(http://natural-naoki.com/2021/04/26/1st-anniversary/

 多様に生きる人達が集うためそれぞれの自己紹介だけでも興味深い話が尽きません。また、畑には主婦の方々がお子さんを連れてやってくることも多いです。上記のような多種多様な大人達、それぞれの道を歩みながらもチャレンジして失敗からも学ぶ大人たちと触れ合うのは非常に教育的です。一体この畑で様々な経験を積んだ子どもたちはどんな成長をしていくのでしょうか。楽しみでなりません。

畑の野菜は美味しい

 農作業を経験するのも大きな財産となるでしょう。畑で自分がつくるのを手伝ったものを家族で食べる。新鮮な手作りの野菜を食べる。本当の美味しさを知る。日常の中に食育がしっかりと溶け込んでいます。会員さんのお話しでは料理をしているとお子さんが「今日の野菜はスーパーのもの?畑のもの?」と聴いてくるとか。畑の野菜と聴くと喜ぶようです。畑の採れたての野菜の方が新鮮で美味しいということ肌で感じているからでしょう。

日光を浴びる、身体を動かすことの大切さ

 僕は、畑を訪れて日々いかに自分が日光を浴びていないかに気づかされました。日光を浴びるとセロトニンが分泌され…生活リズムが整うので…などと説明することこそあれど、病院に勤めていると日が出る前に病院について日が落ちてから帰宅…なんてこともしばしばです。久々に太陽の光を浴びて、土をいじって身体を動かして、身体の感覚がリセットされていく感覚を味わいました。

 雨が降ったら作業中断、暑すぎたら無理をしない。自然が相手だからこそ柔軟に対応するしかなく、思い通りにいかないまさに「不確実性に耐える」トレーニングにもなります。


自然と生まれる対話

 さて畑の魅力は多岐に渡り多方面から褒めちぎりたい気持ちを抑えて、一旦またオープンダイアローグに話を戻します。畑のコミュニティが対話の場として優れているのは、逆説的ですが対話に焦点を合わせている訳ではないところにあります。というのも訪れた人達が農作業をしていく上で自然と対話が生まれるのです。「今日のうちにやっておきたい作業はありますか?」「この葉っぱはなんですか?」「鎌ってどこにあります?」些細なきっかけから会話が生まれます。そして、延々草むしりなどしているとなんとなく手持ち無沙汰になって、周囲で一緒に作業している方とお話ししたり、休憩のタイミングでなんとなく話したり。また、黙々と作業をするという在り方も自然に許されます。なので、会話下手な人間にとってもありがたい環境です。対話に焦点を当てた集まりになるとどうしても我先にと話す人ばかりになってしまい結局モノローグに終止してしまうリスクが高くファシリテーターのスキルに雰囲気が左右されてしまうことが多いように思います。それに対して、畑での対話は自然と生まれる対話だから無理がありません

 また、子育て世代の方々から聴いた話だと、「畑に来ると大人と話せるから楽しい」とおっしゃっていました。仕事から離れて子育てに集中、となると日中の生活は子どもと自分で生活が完結してしまいます。そこで畑は、先輩主婦や同世代の大人と話せる機会が出来る場に、しかも子どもたちも畑で泥だらけになってのびのび遊べる、みんなにとって嬉しい場所となっています。職場や友人の豊かなネットワークを持っていた人でも子育ての時期には孤立してしまうこともしばしばかと思われます。ネットワークが失われると、様々な問題に追い込まやすくなってしまいます。畑はそういった孤立化を防ぐ場にもなっているようです。

畑のもう一つの哲学Give and Give

 Coltivateが豊かな空間であるもう一つの要素はGive and Giveの精神、そして物々交換的世界の豊かさであるように感じました。上記のように、多種多様な人々が畑に集います。身体が動かすのが得意な人は畝をつくり、保育士さんが集まった子どもたちと遊び、その様子をプロカメラマンが素敵な写真として記録に残してくれる。当たり前のように、誰もが自分のスキルで出来ることを探し、コミュニティへ還元する事に全力です。やはり自分が出来ることをして誰かが喜んでくれるのは素直に嬉しく誇らしいことです。他者を尊重し、他者を想う気持ちから行動する人ばかりだから、その振る舞いに感化され自分もそういった利他精神が自然と育まれ、与える喜びを教えてもらえる、そういった環境でした。
 また、周囲の農家さんと収穫物をお裾分けし合ったり、種を分けてもらう代わりに収穫のお手伝いをしたりと物々交換、スキルとスキルを交換するようなやり取りが行き交います。これは、それぞれがしたいこと、得意なことをした結果、相手も自分も嬉しいWin-Winな循環が生まれており、結果みんなが豊かに構造になっています。

 僕もハンドパンの演奏をする代わりにプロカメラマンに写真を撮ってもらい、お菓子作りが上手な方からお菓子を分けてもらい、野菜もおすそ分けしてもらい美味しく食べるレシピまで教えてもらうなど、どんどん出来る事を探してしていかないと、もらい過ぎて申し訳ないくらい嬉しく楽しいやり取りがありました。

失敗出来るからこそチャレンジできる

 梶さんはじめ多くの会員は農業未経験者です。なので、試行錯誤の中で野菜づくりに挑戦しています。当然枯れてしまったり、美味しく出来なかったり、虫や動物に食べられてしまったり、思い通りにいかないこともしばしばのようです。ですが、失敗から学べる人が条件であるように、その中から学びを得ているので失敗自体を全く問題として捉えることはありません。誰もが新たな挑戦をしているので失敗して当然ともいえるからです。むしろ、失敗してもいいと思えることで、積極的に様々な畑で出来ることにチャレンジしていく姿勢を大切にしています。

 私が畑を訪れた際は、廃材や木材を使ってテーブルをつくったり、僕のハンドパンのスタンドをつくってみようかと構想をみんなで考えたりと相談したりしていました。様々なスキルがある人々が集い、対話が生まれる環境だからこそ、新たなアイディアや発見がたくさん生まれます。そこで生まれたアイディアを臆することなく実行に移す土壌がColtivateにはあります。
 
 集まった大人達がそれぞれのスキルを活かしどうしたらアイディアを実現出来るかを真剣に、遊びながら相談します。なんとなく「ハンドパンのMusic videoを自然に背景に撮ってみたいんですよね…」と話したら、よしロケ地を探そう、日本一周した人に綺麗なロケーション聴いてみよう、ととんとん拍子に話が進み出来たMusic videoがこちらです。

 僕も始めてMusic videoを製作したのでわからないこと、やってみての反省はたくさんありましたが、それでも形にはなり何より畑の方々と作品を作り上げるプロセスが楽しかったです!このような精神的に豊かなコミュニティに支えられて今の自分があるんだなと思えます。

自然に触れなさい

 話は変わりますが、とあるイベントに参加して、キャサリンレイリーさんというメリノール宣教会シスターであり国立がん研究センター中央病院の小児科でカウンセラーにも従事している方とお話しした時の小話を挟みます。激務に怯えていた僕は、「病院勤務で心身を壊さないようにするにはどうしたらいい?」とシスターにうかがいました。シスターは、「自然に触れなさい。一日少しでも良いから木や川、空を見る時間をつくりなさい。そして、週に1回でいいから、公園や自然の中に身をおいて過ごす時間をつくりなさい。そしたら大丈夫よ。」と優しく諭してくださいました。キャサリンさんの穏やかな雰囲気も相まって、すっと心が軽くなりました。以降、自然に触れる時間をつくるよう工夫するようになりました。

極論ですが、自然に触れて、健全なコミュニティに属して、身体を考えた食事をしていれば人はみな健康に生きられるんじゃないかと思います。救急科で出会った、薬を大量に飲んだあの人や、刃物で自分を傷つけたあの人も、もしこんな豊かな世界を知っていたら、また違った人生になっていたんじゃないかとふと思うことがあります。人生なんて思い通りに行かないことの方が多いです。捉え方によっては失敗ばかりです。ならば、その苦労を、逆境を、柔軟に耐えて乗り切るための知恵や仲間が何より大事なのではないでしょうか。

 オープンダイアローグ的な思想をもったコミュニティは問題が生じないように、問題が生じたとしても柔軟に乗り越える支えになってくれます。豊かに生きる土壌としての守りの対話の場。春日部の畑にはそんな無限の可能性と豊かさがありました。

 今回は春日部発のサブスク農園Coltivateを紹介いたしました。

 自分の仲間はこんな素敵じゃない、自分の居場所にこんな凄い人達はいない、そう思う方もいるかもしれません。その居場所を去り、自分らしくいられる場所を探すのも1手。Coltivateのグラウンドルールや在り方から学んで自分で変えていくのも1手。こんな畑が、こんな居場所が日本各地に広がっていくことを心から願っています。早く畑行きたいなぁ。


今回のまとめ


 ネットワークは蜜である必要はなくむしろ数が多い方が良いという観点から複数のコミュニティを持っている方が良さそうです。問題が生じないように、また豊かに生きる土壌としての守りの対話の場をもっておくことをオススメします。

 全国各地にあるコミュニティ、第三の居場所の中で、対話の場として畑やお寺、カフェなどが今後活躍していくことが考えられます。その中でも今回は、春日部にあるサブスク農園Coltivateを紹介しました。

 Coltivateは全国を自転車で旅したオーナー梶さんが立ち上げたサブスクリプション形式の農園です。サブスク農園Coltivateの参加にあたっての条件として・失敗から学べる人・変化に対応できる人・多様性を受け入れ、否定しない人・継続的に関われる人といった条件を掲げており、これはオープンダイアローグの原則、ポリフォニーの精神そのものです。
 
 
そこではポリフォニーの思想のもと、多種多様な人々が畑という場を介して豊かに生きていました。そこは畑の作業はもちろん、それぞれのスキルを持ち寄り、提供しあいアイディアや新たな刺激のあふれる環境です。

 畑として自分で育てて収穫し、新鮮な野菜を食するという経験はとても豊かなことです。
また、農作業での肉体労働は日常で疲れた身体をリセットさせてくれました。

 あくまで畑であることが逆説的に、自然と対話しやすい仕掛けになっているように感じました。無理のない自然な会話の場があることで自然と孤立することなく地域やコミュニティに属している安心感が育まれます。

 また、Give and takeではなく、Give and Give、自分が出来ることを周囲に与えていく好循環の豊かさ、スキルやものを物々交換するような世界のWin-Winな豊かさもColtivateならではの良さであると感じました。

 自然相手だからこそ、たくさん失敗もしますが、失敗しても笑いあえる、そこから学べる仲間たちがいてくれるので、どんどんアイディアを実践して更にスキルを磨き、スキルをシェアしていくことのできる環境でした。

 自然に触れて、健全なコミュニティに属して、身体を考えた食事をしていれば人はみな健康に生きられる気がしています。たとえ失敗や困難があっても、その苦労を、逆境を、柔軟に耐えて乗り切るための知恵や仲間が何より大事なのではないでしょうか。

 オープンダイアローグ的な思想をもったコミュニティは問題が生じないようにというよりも問題が生じたとしても柔軟に乗り越える支えになってくれます。豊かに生きる土壌としての守りの対話の場。Coltivateはまさにそんな場所でした。


熱くなり過ぎて文字数が大幅にオーバーしてしまったので、カフェやお寺も紹介したかったのですが、長くなってしまったので次回にしましょう。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。

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