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2020年読んだ本を、260冊読んだ中から10冊選んでみた

昨年に引き続き、今年読んだ本の中からトップ10を決めるふりかえりを。

昨年は300冊以上の本を読み切ったが、今年は大きく読了冊数が落ちて260冊をようやく越えるくらいにとどまった。その理由は、夏から秋にかけて『1日1ページ読むだけで身につく』シリーズを月イチで読んでいたから。このシリーズ、読み終えるのにどの本も6~7時間くらいかかってしまうのだ。芸能人のエッセイ本ならたぶん7冊は読めてしまうくらいの時間を『1日1ページ読むだけで身につく』シリーズに費やしている。

まあ言い訳はさておいて、さっそく10冊選んでいこう。なお選定基準は昨年同様、2020年に発売されたものではなく、2020年に初めて読んだ本の中から10冊、ということにしている。

新庄剛志『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』学研プラス

今年のNo.1は大きく悩んだ。この間も「今年読んだ中から1冊だけ」と話を振られたのだが、えっどれをピックアップすればいいんだ???と30秒ほど逡巡したほどである。

で、この本を紹介した。

今年48歳にしてプロ野球トライアウトにも挑んだ新庄。この自伝の大きなテーマが「お金」なのだが、この本を読んでいると「お金持ちってそんなにいいものなのか?」という大きな疑問が浮かんでくる。「お金より大事なもの」がきっと新庄の中にあるのだろうし、それが15年のブランクを経て本気でプロ野球復帰を目指す原動力になったのはまちがいないだろう。

もっと詳しい書評はこちらから。

米田まりな 『モノが多い 部屋が狭い 時間がない でも、捨てられない人の捨てない片づけ』ディスカヴァー・トゥエンティワン

これは読んでる途中から「そうそうそう!!こういう片付け本が読みたかったんだよ!!!!!!!!」とずっと思っていた。昔から整理整頓が苦手なのでいろいろ片付け本を読んできたが、とりあえず「捨てろ」の一点張りなことが多い。何の本とは言わないが「ときめかないなら捨てましょう」と言われても、いやそれができたら苦労できてないんだってば、と思ったりもした。

ところがこの本は「捨てられない側の気持ちに寄り添った」片付け本である。こういう立場の片付け本ってあんまり見かけないが故にめちゃくちゃ感動した一冊。これも詳しい書評を書いたのでこちらからどうぞ。

藤原和博・宮台真司『人生の教科書〔よのなかのルール〕』ちくま文庫

よく「本はコストパフォーマンスに優れている」という。だいたい1000円~1500円ほどでこんなにも良質な知識を得られる手段なんてまずない、という話なのだが、そういう意味ではこの本は「キングオブコストパフォーマンス」だと思う。

文庫で1045円という価格は一瞬高く感じるかもしれないが、とんでもない。この本、目次を開いてみると、ざっと書いただけで、犯罪、法律、接待、経済、税金、仕事、性転換、結婚、出産、離婚、自死・・・などと言った章が収録されている。

さらに、この本は東京都初の民間人校長に就任した元リクルートの藤原和博氏と、社会学者の宮台真司氏による共著ということにはなっているが、実際にはテリー伊藤氏をはじめとして、スポットでコラムや章を寄稿している著者や専門家もいる。この時点で、たとえばこの3人を講師に迎えてなにか授業をします、ってなったら、それ相応の受講料が絶対必要だと思う。

そう考えると、1045円でこんな濃密な講義を受けられるこの本は、まちがいなくコストパフォーマンスの塊である。なにせ、目次を開いてみると列挙されている上記の項目、なかなか学校で教えてもらえることではない(学校で教える余裕がないという言い方のほうが適切か)。15年前に出版された本だが、知識に古さは感じられない。500ページを越えるこの講義は、みんなぜったい受けたほうがいい。

北尾トロ『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記』プレジデント社

これは図書館で見かけて、タイトルだけで即借りた。サブタイトルにあるように裁判の傍聴記をメインとした本なのだが、この裁判に出てくる被告人が本当にどこにでもいるような人だというのが結構衝撃だった。

で、この被告人が犯罪に手を出した背景が、「もしかしたら誰でも起こりうることなのかもしれない」という動機ばかりで本当に考えさせられた。このタイトルにある「なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか」という事件も一歩間違えたら自分でも有り得そうな気がして、ますます身につまされる思いがした。

これも詳しい書評を書いている。こちらからどうぞ。

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』日経BP

まあ、説明はほとんどする必要はないだろう。やっぱりこの本、いまのコロナ禍だからこそ読むべきだし、このタイミングで大きく売上を伸ばしているのが心の底からうなづける。

まず何がすごいって、この本は昨年の1月に発刊されたものであり、著者のひとりメインの著者であるハンス・ロスリング氏は3年以上前に亡くなっている人物であること。つまりこの本は「コロナ禍よりずっと前」に書かれた本ということになるのだが、おそろしいほどデータや数字に混乱する人々が続出している今の状況をピタリと言い当てている。

たとえば「悪いニュースほど広まりやすい」という一節。今日も東京では944人のコロナ感染者数という報道が流れてみんな飛びついているが、その一方で回復した人がどれくらいいるのか、と言う情報にはほとんど見向きもされていないような気がする(少なくとも自分のSNS上では)。

これは裏返せば、なにか伝えたいときには「悪い情報を表に出す」ことで、世にどんどん広まりやすくなるということを意味している。たしかになんかのデータの数値が今までで1番高ければ「過去最高」よりも「過去最悪」の4文字をつけておけば人々は食いつく。だからこそ、冷静に情報を見極めるためにも「悪いニュースほど広まりやすい」という意識をもっておくことは絶対に必要だと思う。それに気づかせてくれたのは、間違いなくこの本のおかげだ。

井上祐紀『10代から身につけたい ギリギリな自分を助ける方法』KADOKAWA

「10代から身につけたい」と書いてあるが、20代でも30代でも身につけたい方法だと思う。友だち・恋愛・家族・自分自身の4項目に整理されている悩みを取り上げると、「友だちの前で明るい自分を演じてしまう」というのは大人の付き合いでもよくある話だし、「彼・彼女に体をさわられるのがいや」という悩みを持つカップルは10代に限らずいるはずだ。

中高生と関わる仕事をしているので、子どもたちにおすすめできるようにふだんから割と「10代からの~」みたいな本をよく読んでいるのだが、これは大人にも自信を持っておすすめできる。

こちらも書評を残しているので、こちらからどうぞ。

串崎真志『繊細すぎてしんどいあなたへ――HSP相談室』 岩波ジュニア新書

今年はHSPがやたらと取り上げられるようになった1年だった気がする。テレビで次々とHSPにまつわる特集が組まれ、次々と芸能人がHSPだと公言するようになった。そして、HSPの本もかなり多く出版されている。

なるべくHSPに関する本を買おうと決めて今年もいろいろ購入したが、一番おお!と思ったのがこちらだった。岩波のジュニア新書から出ているので小中高生向けに書かれているため、言葉が平易でストーリー仕立てになっていて非常に読みやすい。

これまた別で書評を残しているので、詳しくはこちらへ。

さかなクン『さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~』講談社

実にさかなクンらしい一冊である。生まれてから今までの自伝を、さかなクンのイラストも交えて生き生きと書かれている。

これを読んでいると、「好き」が仕事に直結するわけではないんだなということを思い知らされる。ご存知のようにさかなクンは魚に関する知識が豊富すぎて右に出る者はいないような存在だが、いざ魚屋でアルバイトをしたり大学生のころに行った水族館での実習がどうだったかといえば、これが怒られてばっかりだったという。

魚の種類や特長に関する事柄には精通していたが、魚屋で働くために大事な「美味しく魚を食べる」ための知識や技術がさかなクンにはなかった。魚をきれいにさばけずに魚屋の大将に叱られることも多かったそうだ。水族館実習でもこうした知識が生きるかと言われればまったくの別で、日々怒られるがあまり仕事が終わってからただただ水槽を泳ぐ魚に癒やされる毎日だったらしい。

たとえその分野に対する豊富な知識があったとしても、それが仕事に役立つわけではないのだ。しかしさかなクンは最終的には自分の「好き」を仕事にしている。それにはいったいどのような道のりがあったのか。少しだけ書くと、「好き」が1つではどうにもならなくて、2つ以上掛け合わせる必要があるんだな、と、さかなクンの歩みを読んでいて感じた。

藤村忠寿・嬉野雅道『週休3日宣言―水曜どうでしょうハウスにこもって考えたこと (どうで荘文庫)』烽火書房

コロナによる緊急事態宣言の最中、僕は「水曜どうでしょう」にまつわる本を徹底的に読み返していた。ちょうどそのころ「水曜どうでしょう」の藤村さんは番組で作り上がった「どうでしょうハウス」にこもり、ひとり野鳥観察をするという過ごし方を選んだ。嬉野さんは嬉野さんで、東京での仕事を急遽キャンセルして大阪から直接札幌の自宅へ戻り、そこからステイホームの生活が幕を開けた。

これまでにも僕の人生において「水曜どうでしょう」には大きく助けられてきた。それはコロナ禍でも同様だった。でも今回少し違ったのは、DVDやどうでしょうの本編で助けられたのではなく、ディレクター陣の書いた本をひたすら読み返すことで助けられた、ということ。

藤村さんが野鳥観察をしながら考えたこと。嬉野さんが家にいながら考えたこと。緊急事態宣言が明けてから出版されたこの本で、それぞれの思いや考えに触れ、また僕は「水曜どうでしょう」に助けられた。自費出版の形をとっているためなかなか入手が難しく、わざわざ通勤ルートから外れた書店まで買い求めた一冊なのだが、これはずっと手元に置いておきたい、いままでの「水曜どうでしょう」関連本の中で一番好きな一冊かも。

伊東潤『横浜1963』文春文庫

東京オリンピックの前年、1963年の横浜を舞台としたミステリー小説。横浜港で見つかった女性の死体の謎を、日米ハーフの若い警察官と日系三世の米軍SPがコンビを組んで事件解明に乗り出す、という物語。

もとからこういう実在の街を舞台にした小説が好きなのだが、この小説はみなとみらい線はおろか根岸線(京浜東北線)もまだ開通していない1960年代前半の横浜の風景を細かく描写している。さらに当時の日米関係やはびこっていた差別の問題など、歴史的背景を知っているともっと興味深く読みすすめることができる。教養として学んでいた歴史背景がこういう小説一冊で活かせるんだな、という意味で、非常に印象深い作品だった。

まとめ

緊急事態宣言の間、2ヶ月半ほど電車に乗らない時期があった。自分が一番読書に集中できる環境がまさしく電車移動中だったのでこのときに読書量ががくんと落ちるだろうと思っていたのだが、案外そうでもなかった。

でもどんなふうにして本を読んでいたのか、あんまり思い出すことができない。覚えているのは、あまりに外に出ることもなく気が重くなって、楽しく読める本をたくさん手にとっていたこと。だから「水曜どうでしょう」のディレクター陣の本を読み漁っていたのだ。彼らの本は本当に気軽に手にできる上に、想像以上に今の世の中を深く真剣に考えている。

もっともっと、そんな文章と出会ってしっかりと考えていくことが大事なのかもしれない。

そう考えると、正直、冊数が多ければ多いほどいいってもんじゃないというのもわかってきたので、来年はもっと深堀りしながら一文一文を大事に本を読んでいきたいなあ、と思っている。

あと、もっと書評も書かねば。

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