Interview18-①/なんで仲良くなれたかな
ナサさん【左】(語学学校のクラスメイト・日本人・3か月間留学中)
ナオコ【右】(語学学校のクラスメイト・日本人・1年間ワーホリ中)
アメリカ大陸の東側に位置するトロントは
ニューヨークにも近く、
日本の国内旅行のような感覚で
気軽に遊びに行くことができます。
この日、語学学校で知り合った友達と3人で
10日間のニューヨーク旅行に来ていて、
その道中、セントラルパークにて
お話を聞かせていただきました。
今回は2人の「過去編」「未来編」の
2つの記事に分けて紹介していきます。
ナオコとナサさんと私は、みんな同じ日本人で、
クラスも同じ、世代も同じ。
自然な流れでお話しするようになりました。
当初から思っていたのは、
2人が対照的だということです。
たたずまい、口ぶり、性格。
そのどれもが大きく違って見えました。
似た者同士が仲良くなるのか、
似てない者同士が仲良くなるのか。
30年近く生きていても、
その法則は読めないまま今にいたります。
(取材:2022年8月)
留学に来たら、変わらなきゃいけない?
――トロントで過ごして3か月が経ったけど、英語力ってどう? 目指してたとこまでいけた?
ナサさん
うーん……。そもそもどこまで伸ばすっていうのを考えてなかったからなあ。
ナオコ
うん。あたしも別に目標とか決めてなかった。あると逆に焦っちゃうから。海外に行く、知らない場所で生活するってこと自体が大事で、来た時点で達成感あんだよね。現実逃避というか。「20代最後の大暴れ!」って気持ちでここに来たもんで。
――2人とも焦ってないし振り切っててカッコいいなあ。私は「何か変わらなきゃ、何か成し遂げなきゃ」って追われてる気持ちがあってさ。ナサさんは会社を休んできたわけだし、会社の人に「変わったとこ見せなきゃ」とか思わない?
ナサさん
ない。だって別に会社のために自分の人生があるわけじゃないし。帰国してからの私が気に食わないなら辞めますって。
――わああかっこいいなああその感じ!
ナサさん
留学って調べるとよくね、「海外留学なら目的意識を持とう! 目的を達成して帰国しよう!」みたいなことが書いてあるし、実際旦那からも「なんの目的で行くの?」って聞かれたな。でも冷静に考えて『はて? 目的とは? 海外行って現地の人と話す。自分の気持ちが伝わるように頑張る。自分の知らない文化を知る。それ以外にございますか?』と。
ナオコ
いやほんとそうだよね。それにしても新婚なのに旦那さん置いてカナダに来てんのは面白すぎる。
――ほんとにね。じゃあまずナサさんから、トロントに来るまでにいたる話を教えてください!
自分の人生は自分のために
ナサさん
私はね、行政書士事務所でコンサルタントの仕事をしてまして。簡単に言えば、新しい会社をつくろう、新しい事業を始めようとしているクライアントを、法に則ってうまく運営できるようにサポートする仕事。なりたくてなったというよりも、ずっと続けてたダンスを大学卒業後も続けたくて、それができそうな仕事を探した感じ。行政書士なら「行政」ってつくぐらいだから安定してそう、調べた限りワークライフバランスもよさそうと思って企業説明会に行って、そこにいた先輩もすごく素敵で、「こういう人になれたらな」って、今の会社に決めたの。
――そうだったんだ。で、7年目で留学を決意?
ナサさん
ほんとはもっと前、4年目くらいから、仕事がきつくて会社を辞めたいなと思い始めまして。正直に「仕事がストレスで辞めたい」って言ったら業務量とか調整されて、引き留められるかもしれないでしょ。じゃあ留学を理由にすれば、前向きに辞められるかなって。
――なるどほね、それならたしかに引き止めにくい。留学という選択肢はどこから?
ナサさん
昔から家族でよく海外旅行に行ってたから、海外自体が遠い存在ではなかったのね。洋画も洋楽も好きで、海外の文化も好き。そんなにできるわけではなかったけど、英語も好きだったんだよね。だからどこかのタイミングで留学したいと思ってたんだけど、高校生の時も大学生の時も、他に打ち込んでいたものがあったから行けなかった。高校では宝塚を目指して頑張ってたし、大学では社交ダンスに打ち込んでて。
ナオコ
留学以外に優先したいことがあったわけだ。
――で、結局4年目のその時は、仕事は辞めなかったし留学も思いとどまったと。
ナサさん
そう。本当は4年目の、2020年の夏に留学しようと思ってたんだけど、大学時代から交際してた今の旦那と結婚を考え始めた時期で、止められてしまったのね。「将来のことを考え始めたタイミングだからやめてくれ」って。それでその時は彼と同棲を始めることにして、留学はひとまず諦めて、仕事ももう少し続けることにしたの。
同棲中に英語の勉強を頑張るつもりだったんだけど、それが難しかった。
――それはどうして?
ナサさん
彼とは大学の社交ダンスサークルで出会って、もともとダンスのパートナーだったのね。一緒に全国大会も目指した人だから、なんというか私にとって彼は、一番の理解者であり一番のライバル。だからなんとなくかっこ悪い自分を見せたくなくて。練習とか勉強とか、努力してるとこを見られたくないっていう……(笑)。
ナオコ
なるほどなー、でもそれもいい関係だよね。
――うんうん。いろんな2人のかたちがあるんだね。
ナサさん
だから英語の勉強もうまくいかなくて、同棲中『どうしようどうしよう』ってずーっと考えてたの。で、閃いた。同棲前に彼は、「将来のことを考え始めたタイミングだから留学はやめてくれ」って言ってたから……
――うん。
ナサさん
婚約決まって将来のことが決まったら、留学行ってもいいんじゃねと(笑)。
ナオコ
言葉のあやである。
ナサさん
そうそう(笑)。勝手に自分の中で、プロポーズされたら留学行こうって決めたの。
ナオコ
はははは!プロポーズされたら、留学!おもしろ!
ナサさん
(笑)。それで同棲始めた1年後の2020年の12月に、プロポーズされて。「うれしいな~留学のことどう言おうかな~」って。
――新婚で、一番一緒にいたいであろう時期に! 発想が新しい!
ナサさん
まあ大学からの付き合いだからね。ある程度落ち着いてて。それでプロポーズされて少し経った頃、切り出しました。「ちょっと話したいことがある。留学に行きたい」と。
――ああああ~!それで彼の反応は?
ナサさん
「一回諦めたじゃん」と言われてしまいましたね。
――そりゃそうか~。
ナオコ
そりゃそうだ。
ナサさん
「子どもができて落ち着いたらにしたら?」と言われたんだけど、それはちょっと納得できなかった。というのも私の父が、私が中学3年生の頃に亡くなってまして。
それであるとき私が実家に帰った時、留学のことを弟に話したの。そしたら弟は「今までいろんな挑戦をしてきた姉ちゃんなのに、結婚を理由に挑戦することを諦めるなんて、姉ちゃんがかわいそうだ」って言ってくれたのね。その言葉に激しく「だよね!?」ってなって(笑)。それでまた、彼に話し合いを持ち掛けます。
ナオコ
いい弟。
ナサさん
「留学は昔からの夢だった。でも今まではそれ以上に優先したいことがあった。今このタイミングじゃないと、行けない気がする。もしこれで留学に行かなかったら、少なからず結婚のせいで行けなかったって思い続けることになるかもしれない。そうして諦めてしまったら、私が私でいられなくなる」って。
――うんうん。素直な思いをまた旦那さんに伝えたんだ。熱意がこもってるね。
ナサさん
彼はやっぱり「家族になるから、一番の味方でいたいけどさ……」って反応。でももう一回悩んでくれて、それでようやく「大賛成するわけじゃないけど、行ったらいい」って。
――お~! ついに気持ちが届いたね。
ナサさん
うん。それで彼と具体的にいろいろ決めてった。本当は1年間行きたかったんだけど、3か月にして。辞める気満々だった会社は、帰国後の転職活動を考えて、休職というかたちに。無職はやめておこうということになったんだよね。結婚してて子どもいないアラサーってなると。
ナオコ
堅実だ。
ナサさん
で2021年末、会社に伝えた。前例がなかったから止められそうで怖かったんだけど、意外とすんなり、「おおおええんちゃう」って受け入れてくれた。留学先だけど、最初はね。せっかくならニューヨークにしようかなって思ったんだけど。
――そうだよね、ブロードウェイあるし、映画の舞台にもたくさん使われてるとこだし、ナサさんにとっては特別な場所だもんね。
ナサさん
そうなの。でもニューヨークはビザの制限が厳しくて、じゃあニューヨーク旅行しやすそうなトロントかなって。そうして、今に至る。
――おおお〜。いろんな人の言葉とか思いで、ここに来たんだね。ありがとう。じゃあ次はナオコに話聞こうかな。ここに来るまでの経緯を。
突発的に生きてる自分。英語が人生の切り札だった
ナオコ
話は2000年にさかのぼるんだけど。小学校1年生の時に、英会話教室の体験に行ったの。オカン曰く、その時の私がすごい楽しそうだったらしい。それでそこに通い始めたの。私は運動もできないし他の習い事も続かないしで、何にしても自信がない子どもだった。でも英語だけは、できた。クラスでも一番できてたし上のクラスにも行けて。英語がね、自分が一番自信を持てるコンテンツになったんだよね。小中はとにかく英語を頑張ってた。
高校生になると部活とか他のことも楽しくなって、一回英語から離れたのね。で、いざ大学受験ってなった時に何がしたいか分かんなくなっちゃった。だからいろんな学部を受けてみたんだけど、全然ダメ。全部落ちてさ。3月。これやばいぞと。浪人って選択肢は自分の中にないし、どうしようって思った時にやっぱり英語だと思ったの。そんでセンターの後期入試で受かったのが、偏差値低めの大学の英米語学科。
で大学生活よ。これが全然楽しくなかったんだよね。家から遠いしサークル全然ないし授業は週6だし。とにかく思い描いてたものと全然違った。しかも私ひねくれてて「みんな自分より偏差値低いやん」って感じだったから、友達もできなくてさ。Twitterとかインスタとか見ると、高校時代の友達が大学生活エンジョイしてるのが目に入って、結構苦しかったんだよね。だんだんと、なんであたしはこの大学にいるんだろうって思ってきちゃった。
入学してから知ったんだけど、私の学科は2年生の後期に留学に行くっていうカリキュラムだったのね。だからもう、留学にかけようと。で、生まれて初めて親元を離れて、バンクーバーに行ったの。そしたらさ、その16週間がものすんごく楽しくてさ。「自分が今まで日本で勉強してきた英語が通じる!」っていう感覚がすごい楽しくて。もちろん不便なことはたくさんあったけど、「日本とは全然違う生活が、海外にはあるんだ!」って感動した。
で、そうして帰国して、そしたら、終わっちゃったの。大学にいる意味が。
ナサさん
大学2年で早くも。
ナオコ
そうなのよ。ずるずると就活の時期になった。親に勧められて教員免許は取ったんだけど、絶対先生なんかなりたくなかったし、何がしたいのか分かんないまんま。そんな時、友達と一緒にM1の敗者復活戦を生で見たのね。4分間のネタに人生をかけてる芸人を見て、感動したの。『私はかつてこんなに夢中になったことはない』と思って。で、吉本行こうってなったんだよね。
親は大反対だったけど、高校時代の大好きだった担任とか、大学のゼミの先生は背中押してくれたんだよね。勇気くれて。自分でも思うけどあたし、ほんと突発的に生きてるよね。
で、吉本の養成所に行き始めたら、あんまり楽しくないっていうか超しんどかった。デビューして、でも全然売れなくて、売れる兆しも見えなくて、ウケも取れない。そんな時に、吉本の先輩と付き合い始めて、即同棲を始めたんだよね。その頃は24歳。芸人続けるか辞めるか悩んでる時期だったんだけど、同棲を機に就活を始めた。2020年の10月。コロナ禍に。
英語に関わる仕事がしたかったけど、なコロナ禍で求人はめちゃくちゃ減ってて。しょうがなく家から近い物流系の会社に就職した。そこ給料はよかったんだけど、職場環境も人間関係も最悪で、すぐ体調崩しちゃった。上司はいつも何かにキレてるし、口きいてくれない人とかいるし、トラブルメーカーみたいなパートさんもいて、いつもひやひやしててさ。ご飯も食べれなくなって夜も眠れなくなって、このままじゃ自分がおかしくなっちゃうと思って、2か月で辞めた。
辞めてから1か月くらい休んで、次に内定もらったのが、教育系の仕事。中学校でICT機器の使い方を教える仕事ね。「先生になることよりも、先生をサポートする仕事をして先生たちを楽にしてあげたい」みたいに面接で言って。教員免許も持ってたから比較的早く決まったかな。2021年の7月から、研修が始まることになったのね。
そう、研修スタート前日もなかなか大変だったんだよ。話前後しちゃうんだけど、芸人の彼と同棲を始めてから、彼に言ったんよ。「半年後の6月30日までに、芸人辞めて就職して結婚するか、別れて芸人続けるかどっちか選んで。それまで待つから」って。つまり新しい職場の研修が始まる前日が、その6月30日。「今日リミットだけど、どう?」って聞いたら「その質問された時から、芸人を辞めるつもりはなかった」って言われたの。ショックだった。私はさ、長い時間をかけてすごく悩んで苦しんでたのに、あなたは何も考えてくれてなかったんだって。今後、金銭的にも精神的にも私の人生は預けられないなって、お別れしたのね。次の日はもう、顔パンパンに腫らして研修したよ。まじでコロナ禍、リモートワーク普及、オンラインでよかった。
――新しい仕事が始まる直前にそんなことが。ドラマチックだなあ。
ナオコ
でしょ。そんなこんなで仕事が始まり、研修期間の7月、オリンピックの開会式をテレビで見てたんだけど。カナダの選手が入ってきたとき、バンクーバー留学の思い出がよみがえって、気づいた。「てか、世界、そういえば広かったじゃん!」って。そしたらいろいろね、その時モヤモヤしてたものが、つながった感じがしたの。現状への満足度、英語、親離れ、結婚、自分の年齢とか全部。これはもう、もっかいカナダ行こうと。そんで速攻エージェント探したわけ。芸人志望の時とは違って、親はまったく反対しなかったの。むしろ、最悪お金貸すよって。
会社にも相談して、契約期間の翌年3月まで続けさせてもらうことにした。仕事はめっちゃ楽しかったんだよね。学校で先生たちと働くのがすごく楽しくて。サポートしに行ってるから、感謝されるしありがたがられる。担当してた5校全部好きだった。先生たちと世間話する中でこれまでの経緯を話したら、「絶対教員になった方がいいですよ。お給料もいいし、きっと向いてますよ」って言ってくれて。「たしかにな~」と思ったんだよね。英語の授業とか手伝った時、私の方が英語うまいなとか思ったりもしてさ(笑)。生徒や先生とコミュニケーションとるのも楽しそうだなーって。
帰国後はそういう方面でもいいかもしれないってぼんやり自分の将来が見えてきたところで、契約期間が来て、結局親に借金して、ここに来た。
なんていうか、一回リセットしたかったんだよね。キャリアがないのも彼氏がいないのも、現状に全然満足できなかったのも、最初の就職で疲れちゃったことも全部。
今は、とりあえず帰った後のことを考えないようにしてる。一応教員になろうとは思ってるけど、この1年で何が起きるか分かんないし。1回留学してるから、違う国で暮らすことの大変さは知ってるつもり。違う社会なんだから、自分のやりたいことなんて100%できない。来ただけで十分、生きてるだけで偉いって思いながら過ごしてるかな。だから今は語学学校卒業して、なーにしようかな~って感じ。
――海外に来たことでリセットしようって気持ち、すごくよく分かる。皆そうなんだけどさ、2人とも人生いろいろあって、ここにきて、出会ったんだよね。
ナサさん
ほんと。不思議なめぐりあわせだよね。こうして3人でニューヨーク来てんのも。
ナオコ
ほんとほんと。みんないろいろあっておもろい。てかリス後ろにおるやん。
ナサさん
パン食べる?……あ、首振った。
ナオコ
ニューヨークのリスは日本語分かるんか。
(Part2に続きます)