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第22回読書会レポート:多和田葉子『犬婿入り』(感想・レビュー)

ノーベル文学賞日本人候補者として名前が挙がった多和田氏。

恥ずかしながら存じ上げず、早速課題本として取り上げました。

世界の歪に入り込んでいく独特の筆致は中毒性アリで、多和田ワールドにハマる人続出でした!

課題本を読了したら、理解できなくてもとにかく参加して欲しい!絶対に発見があるから!

独特であるが故に読者を選ぶ作品であったのも事実でした。課題本として選出した当の私も、正直、理解できたとは言い難く内心焦っていました。

また、今回は当日キャンセルの方が目立ち、参加された方の中にも「もやもやして読書会で意見が言えるか心配で、参加を躊躇した」と告白した人もいました。

ところが蓋を開けてみると、深い気付きばかりで、参加者の皆さんからも、他の人の意見が聞けてさらに解釈に深みが増したというご意見がたくさん聞かれました。

名作は様々な解釈に耐えうる作品であることが条件です。

当読書会ではいわゆる名作を取り上げて、様々な解釈を持ち寄ってより高い次元へ昇華することを目標にしています。

この面白さを一度体験してしまうと、もう病みつきですよ!

よくわからなかった作品こそ、ぜひ参加してみてほしいです。


参加者の皆さんからの感想メモ

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象徴としての場所、都市論として読む

「そもそもこの町には北区と南区のふたつの地区があって、北区は駅を中心に鉄道沿いに発達した新興住宅地、南区は多摩川沿いの古くから栄えていた地域で、今では同じ多摩に住んでいても、南区の存在すら知らない人が多いけれども、北区に人が住み始めたのはせいぜい公団住宅ができてからのこと、つまりほんの三十年ばかり前のことで、それに比べて多摩川沿いには、古いことを言えば、竪穴式住宅の跡もあり、つまりそのような想像も及ばない大昔から人が暮らしていたわけで、稲作の伝統も古く」(『犬婿入り』P.89 新潮文庫)

この物語は、北区の新興住宅地と、南区の昔からあるの古い町の対比関係がポイントとなっているでしょう。

北区の団地に住む親や子供たちと、南区にあるキタナラ塾との関係は、時代の狭間の象徴であり、開発されて新しく入り込んで来た価値観と、竪穴式住居がある価値観のゆらぎの中で起こる、民話的で牧歌的で、不潔で猥雑なものに対する距離感を取り上げています。

常に時代は刻々と変化し続け、より文化的で機能的で清潔な都市へと開発されていくわけですが、それに取り残されていく人々も同時に存在しているのです。

マイノリティへと追いやられる人々の主体性や自我は、どこまで有効に存在できるのでしょうか。


不寛容への警鐘

読書会の中で最後に印象的な意見が出ました。それが「不寛容への警鐘」というものです。

新興住宅地という都市的な価値観と昔からの住宅地の境い目の物語は、その都市的価値観が田舎的な価値観を飲み込まんとする境界の最前線であるために、古い地区に残る民話的で卑猥で汚らしさへの不寛容さの境い目ともなりえるのです。

この不寛容さの溝に捕まって抜けられないのであれば、それは生きづらく、不自由を感じるもの。

しかし一方で歴史は次々に移り変わるものですから、今は”新興住宅地”でも、20年後は新興住宅地と呼べないのです。そこに暮らす人々もいつの間にか不寛容さの対象とされてしまうのではないでしょうか。

刻々と移りゆく営みのなかでさまざまな価値観が交錯して流れているのが歴史であり文化です。本作品はその流れの重奏感を捉えた珠玉の一冊であることは間違いありません。


さてこれをお読みのあなたは、どちらの地区にお住まいのかたなのでしょうか?


(2021年11月20日土曜日開催)

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