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第十八回読書会:夏目漱石『門』レポート(感想・レビュー)

夏目漱石前期三部作のラストを飾るのが本作品です。

3冊の中で一番読みやすく、ターニングポイントと言われる意味が分かる作品でした。

読書会でも盛り上がり、「門」とは一体何を意味するのか?どう解釈するのか?がやはり焦点となりました。

雨の中ご参加いただいた皆さま!ありがとうございました!

参加者の感想をご紹介

良い印象の感想は……
・100年前に書かれたとは思えないほど、今読んでも新しい
・仲睦まじい、ほっこりさせられる夫婦のやりとりに憧れる
・自然の描写に風情がある
・重い感じはしない

芳しくない感想として……
・伏線が多いが回収しきれていないため、読後も消化不良気味
・前半が読みづらい
・三角関係のところをもっと細かく描いてほしかった

などが聞かれました。とくに前半は夫婦のやり取りが淡々と書かれているだけで、正直つらいです。(笑)

時間的構造の面白さ

この話は、御米をめぐる宗助と安井の三角関係に決着が付き、宗助と御米が平々凡々に暮らしていく様子がメインです。

いわゆるドロドロとした人間ドラマが終了したところから描かれています。

一般的には、三角関係のすったもんだをメインに描くほうが盛り上がると思いますが、斬新な構成だなと思いました。

構造的に面白い!新潮文庫の裏表紙あらすじの意図は?

外側の世界で既に終わっていることが表現されている???

じつは、新潮文庫の裏表紙のあらすじには「親友の安井を裏切り、その妻であった御米と結ばれた宗助は、」と書かれています。

ですから私は、三角関係のドロドロを描いた作品なのだという先入観がありました。ところが一向に三角関係の描写がはじまりません!むしろ前半部分は、御米と結ばれた宗助一家のほのぼのとした日常が中心です。

「物語が始まる前に全ては終わっている」という意味において、作品の表紙、外側の部分で表現されている点が、テクスト論者、構造論者的に大変気に入りました!!

裏表紙では安井と御米は結婚していたことになっていますが、本文にはそんなことは1ミリも書かれていません!!

新潮文庫の読者は前提があって読んでいるから耐えられるものの、新潮文庫でない読者の方は、この前提が無いまま読みすすめることになります。一体なんなんだ?という疑問符がつくのも無理はありません。

さらに突っ込んで申し上げますと、三角関係もあったんだかなかったんだか、というのが本文を読んで判ったことです。

では漱石は何を言いたかったのでしょうか?

「門」とは目に見えず抗えない得体のしれない厳然としたものの象徴と解釈

宗助は弟の学費や安井との問題などで追い詰められ、10日ばかり仕事を休み、鎌倉の禅寺に入ることにします。

山門をくぐって入る際に、「世の中と寺の中との区別を急に覚った。(夏目漱石『門』新潮文庫P.250)」と神聖な空気に触れます。

そんな禅寺での毎日の修行には特に身が入らず、とうとう自分の身の上を次のように悟ります。

彼自身は長く門外に佇立むべき運命をもって生れて来たものらしかった。それは是非もなかった。けれども、どうせ通れない門なら、わざわざ其所まで辿り付くのが矛盾であった。彼は後ろを顧みた。そうして到底又元の路へ引き返す勇気を有たなかった。彼は前を眺めた。前には堅固な扉が何時までも展望を遮ぎっていた。彼は門を通る人ではなかった。又門を通らないで済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ち竦んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった。(夏目漱石『門』新潮文庫P.281)

こうして宗助は東京へ戻ります。身動きが取れず問題が山積している日々の生活の中へ戻っていった宗助でしたが、宗助の心配を他所に、するすると何事もなかったかのように、心配事が解決していました。

問題に対峙している際は硬直していても、いざ開き直ってみるとなぜかうまい方向へことが流れていく……。

案外世の中はこんなものなのかもしれません。

人々が社会で生活する上では、さまざまなしがらみから逃れることはできません。体裁や常識や規範と言われるものが厳然として存在します。でもそれは、環境や文化や国が違えば当然違ってくる価値観やルールです。門というものに、それらを象徴させているのではないでしょうか。

門をくぐろうが、引き返そうか、立ち尽くそうが、門と自分との関係にケリを付けて、自分のいるべき場所にいるしかないのだと受け入れたときに滞りが解消される、そんな不思議な世の条理を表現しているように思えました。


2021年7月4日日曜日開催

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