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出版記念イベント#2 〜国内の事例に学ぶ、空き家と宿の関係〜

オーナーの渡邊が2019年の初夢で書籍を出版するという夢を見てからおよそ3年。ついに宿場JAPANとしては初となる書籍『ゲストハウスがまちを変える』の発売が実現いたしました!
今回はその出版記念に際して、著者の渡邊と、様々な分野でご活躍される豪華ゲストスピーカー4名と共著頂いたfootprints編集長 前田有佳利さんをお招きし、3回にわたりオンライントークイベント開催しました。


2回目に行われたイベントのテーマは「国内の事例に学ぶ、空き家と宿の関係」。

現代の日本では、消滅可能性都市が顕著に増え始めている地方をはじめ、都市部でも空き家の軒数が増加しているという課題が見られます。このコロナ禍で都市部から地方への移住者は以前に比べると多く見られるものの、都市部では再開発に伴い、至る所でマンションの建設工事が行われています。中古住宅が残り、新築住宅が増え続けるばかりで、なかなか空き家問題の解消には至っていないのが現状です。

今回はその課題の一つの解決策として、著者の渡邊と同様に、奈良県で空き家を改修しながら宿を切り口にまちづくり事業を行う、株式会社NOTE奈良の代表取締役 ⼤久保泰祐様と、長野市で空き家の仲介役を担いながら、リノベーション事業にも携わる、株式会社 MYROOMの代表 倉⽯智典様をお招きして、事業者と仲介者それぞれの観点やこれまでのご経験から、空き家の活用に必要なアプローチや、異なるエリアで活躍する3人がどのような方向性で地域のまちづくりに貢献しているのかを伺いました。


空き家活用を行う事業者と、その仲介者が語るこれまでの空き家改修の事例

− まず、バックグラウンドも得意領域も異なる、お三方それぞれの経歴について教えてください。

渡邊:私の場合は、最初から自らが育ってきた”ホーム”としての品川で宿をやりたいという想いがありました。それまでにリッツカールトンをはじめ、複数のホテル勤務の経験もあったので、そこでお客様を受け入れられる自信もありました。宿を始めるにあたり、新築物件であることは自らの条件にはなく、むしろ空き家を活用してコストを抑えてスタートしたいという考えでした。無事に宿としての活用を快く受け入れてくださる大家さんを見つけ、ペンシルビルや古民家の空き家リノベーションを行い、旧東海道品川宿エリアを中心に展開したのが「ゲストハウス品川宿」、一棟貸しホテル「Banba Hotel」(2014年)、「Araiya」(2016年)、アパルトマンタイプの民泊「kago#34」(2018年)になります。現在は、宿を起点に地域を巻き込みながら、まちを面白くする様々な活動を展開しています。

大久保:2008年より株式会社日本政策投資銀行で9年間勤務し、そこで投融資業務や地域事業に対する事業再生ファイナンスなどのファンド組織に携わっていました。退職後、一般社団法人ノオトの活動に参画し、2018年に株式会社NOTE奈良の代表取締役に就任し、現在に至ります。同年に奈良市の旧市街地にある築約130年の元酒蔵と、町家を改装した宿泊施設「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」を開業しました。その後、2020年に奈良県田原本町にある、日本最古の醤油蔵を改装した古民家ホテル 「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」を開業。近年は、奈良県の御所市で、14年間空き家だった銭湯を改修し、銭湯代を家賃に組み込んだ、銭湯入り放題の賃貸住宅、古民家ホテルやレストランを計画中です。

倉石:私は長野県長野市に生まれ、大学時代から東京に一度上京します。SFC総合政策学部を卒業後、観光業や都市計画業、不動産業、建築業の経験を経て、2010 年にUターンで長野市に「株式会社 MYROOM」を設立しました。 現在は、長野市にある善光寺周辺の門前町エリアで、主に空き家の仲介事業と、リノベーションを通してお店や住居の建設を行ったり、物件を引き渡した後の管理を行ったりしています。街の中の空き家を活用してお店を始めたい方や、移住を考えている方に向けて毎月1回、2時間かけて街歩きをしながら空き家を紹介していく、「空き家見学会」も開催しています。実際にまちを歩きながら空き家を見ていくと、地域との距離感が近くなることで、なかにはお店を開業したいという方も現れます。その時は物件とのマッチング面談を何度か行いながら、実際に事業計画を一緒に考えたり、大家さんとのすり合わせを行ったりしています。


まるでドラクエのイベントのような、空き家活用までの波瀾万丈な道のり

− 渡邊が「空き家の活用に至るまでには、熱意が欠かせない」と話していましたが、これまでのご自身の経験から、そのように感じることはありましたか。

倉石:私はこの事業を始めたばかりの時に、約半年ほどの時間をかけて、門前町を歩きながら全体の構図を把握して地図を作ったり、電気メーターが外れている家の大家さんのところに行っては突撃訪問を繰り返すということを何度かしていました。長野市は高齢者の多い地域ですので、夜討ち朝駆けスタイルで、よく朝ご飯前に押しかけていました。一度目は流石に怒られて追い出されてしまいますが、そのあとも粘り強く3回ほど訪ねると「なんだ、倉石また来たのか」と名前を覚えてくれるようになり、しばらくしてからは仕方なくでも受け入れてくれることが多かったです。このように、時間をかけながら上手く入り込んでいくことや、怒られても忍耐強く何度もアタックするという意味では、熱量が必要だったかと思います。

この経験をおよそ何かに例えるとしたら、ドラクエのイベントでしょうか。冒険に出て攻撃されるとライフポイントは下がりますが、徐々に経験値は上がっていように、怒られても謝りながら修正を重ねていくうちに、その姿を見た大家さんが再評価してくれるなど、実際に空き家改修を始めるまでにドラクエのように色んなイベントが待ち構えているのも面白いところです。

大久保:その意味では、私も倉石さんと同様に、事前にある程度お叱りを頂くことを腹に括り、辛抱強く仕事をする立場だと思います。まちづくりを行っていると、どうしても自分の世代のことだけを考える保守的な住民が「地域を変える必要はない」と反対意見を投げかけてくることがあります。もちろん、住民からの100%の合意形成は不可能だと思いますが、それがサンドバックとなり、殴られ続けるうちに、仕方なくでも受け入れてくれるようになることがこれまでに多かった気がします。

渡邊:同業者として、私自身も怒られた経験は数え切れないほどあります。その中でも宿を始める最初の頃、まちのキーパーソンをはじめ、地域の方々のところに挨拶に訪れた際に、その順番を間違えて怒られたことがありました。この点は本の中でも厚めに語っていますが、挨拶をする順番を間違えると、その分だけ良好な関係性の構築までにかかる年月も変わってくるので、宿の開業の際にとても肝心なアプローチの一つだと実感しています。


”忍耐に要する熱量と、+αのきっかけ”が空き家改修には欠かせない

− 皆さん一度は怒られた経験をお持ちのようですが、それを乗り越える熱量のほかに、なにがご自身の空き家改修へのモチベーションを高めていますか?

大久保:私自身は奈良県の色んなエリアを転々としながらまちづくりに携わっていますが、時間をかけていく中で意図せずに人との有機的な繋がりが生じたり、お醤油や、銭湯の空き家など、複数の組み合わせと宿を絡めていく中で、自然発生的に生まれるまちや、宿の新たな可能性に面白さを感じています。そのきっかけがあるからこそ、熱量だけでなく、エリアを再生していく時に、「どのように空き家を上手く活用できるのか」ということを冷静な視点でも常に考えることができていると思います。

渡邊:私の経験としては、空き家の改修はいくら熱意や、お金があったとしても最終的には物件との巡り合わせが一番肝心だと思っています。今回、本の中で4件の宿を開業する際の大家さんとの出会いについても書きましたが、例えば港区の泉岳寺エリアにある古民家一棟貸しホテル「Araiya」は、その前に空き家を改修してオープンした「Bamba Hotel」がテレビに取り上げられ、それを見た古民家の物件を持つ大家さんからの問い合わせが全ての始まりでした。このように空き家を上手く活用できたのは、通常のアプローチからでは巡り会えない物件との一期一会的な出会いや、大家さんとの奇跡的な出会いがあったからこそでもあると思います。

倉石:私の場合は、空き家見学会を通して県内外の人にまちと建物を見てもらい、そこで何かのアクションを起こしたい人のディレクションを最後まで行ったり、その熱意を持つ人と大家さんを仲介役として繋げられることにやりがいを感じています。上手くいけば、まちに新たな風も吹き始めますし、そこで双方の喜ぶ姿が見られると次の原動力にもつながります。


それぞれのフィールドでより良いまちづくりを

− 最後に今後についての考えを聞かせてください。

倉石:私自身は元々地元の長野県が好きではなく、一度東京に上京するも、家庭の事情で帰らざるを得なくなり、仕方なく帰り着いた場所でした。その当時、自分が常に関心を持っていたのが、「どこで暮らしたいのか。誰と仕事がしたいのか。」でした。空き家見学会の参加者も同じ考えを持つ方が多く、そういった方が町に入って場所を探しながら、宿の活動を始めると、居場所ができつつ、色んな活動や、人との繋がりもできるので、移住先での取り組み一つとして宿を運営することは、地域への最初の入口としてはピッタリだと思っています。実際に暮らしてみないとわからないことは沢山あると思うので、もっと気軽に人々が移動できるようになって欲しいですが、移動先で関係性がなくなってしまうと寂しいので、人との繋がりを提供する場としても宿が機能すると良いのではないかと思います。

大久保:私が携わる事業では、何らかの理由でお困りの地域の方々が、「アクションを起こさなければまちが機能しなくなる」と立ち上がり、支援を求められたところに寄り添う形で、これまで地域と連携してまちづくりを行ってきました。大切なことは、私たちは基本黒子として動き、地域の方々が主役であるということです。例えば、醤油蔵を改装した古民家ホテル 「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」の運営も、メインは18代目当主の木村さんがされており、それを支援する立場として私たちは携わっています。これからも様々な地域の方々に寄り添いながら、新しい事業を一緒に展開していきたいと思っています。

渡邊:12年間宿を運営してきて、宿だけではまちが形成できないというのは一目瞭然で、周りとの連携を高めて、ソフトコンテンンツを充実させることの重要性や、お客さんのニーズに合わせて経営も変えていく必要があると感じています。
まちづくりにおいて、今私たちが課題とみなしていることは長い目で見れば、人間が何百、何千年と生きているうちの本当に僅かな、短い期間で起こっていることです。そのバトンが今自分たちに渡されているからには、一つ一つ着実に目の前にある課題に向き合い、最善を尽くすことを引き続き意識して行きたいと思っています。


▼ 登壇者

大久保さんポートレート

株式会社NOTE奈良 代表取締役 ⼤久保 泰祐 氏

1984年生まれ。埼玉県出身。
2008年より株式会社日本政策投資銀行に9年間勤務。2018年株式会社NOTE奈良の代表取締役に就任。同年に奈良市の旧市街地にある築約130年の元酒蔵と町家を改装した宿泊施設「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」を開業。 2020年、奈良県田原本町にある日本最古の醤油蔵を改装した古民家ホテル 「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」を開業。


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株式会社 MYROOM 代表 倉⽯ 智典 氏

1973 年長野県長野市生まれ。SFC総合政策学部卒業。 観光業、都市計画業、不動産業、建築業を経て、2010 年に現在の会社を設立。 空き家の仲介、リノベーションを専門とする。長野では「門前暮らしのすすめ」と題して、毎月「空き家見学会」を開催。県内外から参加者が訪れ、まちあるきをしながら「空き家」を案内。まちなかの空き家を「リノベーション」して、新しい利用者とマッチングし、まちに賑わいをつくっている。

▼ 開催概要
日時:2022年3月16日(水)19:00~20:00

▼ 本イベントのYouTubeアーカイブ配信はこちら

▼ 書籍情報

著者:渡邊 崇志・前田 有佳利
監修:宿場JAPAN
定価:2,300円+税
発売日 ‏ : ‎ 2022/4/3 / 288ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4761528141
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4761528140
発売元:(株)学芸出版社
書籍URL: https://amzn.to/3styIGP

(執筆:小河恵美里)