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不思議な両立

ある日、自宅から駅へ歩いている道中、私はリュックに財布を入れたかどうか、急に不安になってきた。

家を出てから忘れ物をしている気がしてしまうこと自体は、誰にでもある体験だと思うのだが、この時の私の感覚はいつものそれとは少し違った。

突如湧き出した不安と同時に、なぜか、確かに財布はリュックに入っているはず、という確信めいた気持ちもあったのである。

確信があるなら不安に感じることないじゃないか、と思うかもしれないが、確信の理由や根拠が自分でも分からない。根拠が分からない以上、100%持ってきたはずというほどの自信はなかったのである。

そんな状態だったので、不安と確信という、どうにも矛盾しているような二つの感情の両立が実現してしまったのである。

ともかく忘れていた場合すぐに家に引き返さなければいけないので、歩きながらリュックを開けて中に手を突っ込んだ。その瞬間、自分が持っていた確信の正体が判明してしまった。

私はリュックの中に財布があることを、手の感触で確かめていたのだ。手をリュックに入れた瞬間に、目で見ずとも財布が入っていることが明らかに分かった。


真相はこうである。家での準備の際、財布はリュックの少し奥の方に既に入っていたが、角度的に私の視界に入ることはなかった。しかし、他のものをリュックに入れる際に、手が財布に触れたことで、私は財布の存在を半分無意識にではあるが、ちゃんと確認していたのだ。

触覚は覚えていたのである。


五感を使った記憶と言えば、匂いが昔の記憶を思い出すトリガーとして強力であるという有名な話や、英語の勉強の時は視覚だけで行う黙読より、聴覚も一緒に使うことのできる音読の方が記憶に残りやすいというのを聞いたことがある。

複数の感覚器に対して同じ情報を同時にインプットすることで、記憶がより確かなものになるというのはとても納得がいく話ではあるが、今回私が遭遇した奇妙な両立は、目では財布を見ていないことによる視覚的不安と、手では触れたはずという無意識下での触覚的確信が同時に発生してしまった結果なのだと判明したのであった。



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生活の中で感じる些細なこと、意識しなければ通り過ぎてしまう小さな違和感や感情をなるべく拾い上げ、掘り下げて考えてみることにした3人の活動です。 文章、漫画、写真など表現手法は問わず、私たちの発見や疑問を伝えられる形にして、交代で発表していきます。 【毎週日曜23時ごろ更新予定】