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カープファンの映画監督が綴るスポーツへの想い『遠きにありて』感想

こんにちは!コダカです。

今日読んだのは『遠きにありて』というエッセイ集。スポーツ雑誌「Sports Graphic Number」に連載している過去のもの(2015年〜2018年)を1冊にまとめたものです。

この作品の著者は西川美和さん。人間の繊細さを描き数多くの良作を手がける国内外で注目の映画監督です。

西川さんは広島生まれの熱血熱烈なカープファン。
このエッセイでも複数回カープについて書かれています。
しかし、驚くことに生まれた時からのカープファンではなく、19歳で上京するまではどこか窮屈さを感じてカープを嫌っていたそうです。
「思春期に父親を恥じるように、カープのことが恥ずかしかった。(中略)けれどたどり着いた都会には、カープを話題にする人間など周囲に一人も居なかった。(中略)あんなにも疎んじた父は、誰の気にも留まっては居なかったのだ。私は父のことを一度も愛さずにきたことを、悲しく思った。」(出典:『遠きにありて』「赤い病」(2015年10月30日)より)と、文中では心境の変化が描かれています。
その後「遅すぎる親孝行など無い」(出典:『遠きにありて』より)と東京の球場で三塁側スタンドに陣取るようになったとか。

そういえば、ボクのまわりにも似たような人たちがいます。
サッカーがそれほど好きでもないのに「うまれた土地の言葉が聞こえるから」という理由で出身地のチームの東京での試合にゴール裏に行く後輩。一塁は右か左かよくわかっていないのに在京の友達とつるんで球場に出かけるの福岡出身の友達。
たぶんこれが生まれた土地を想うということなのかなと。

連載や本のタイトル『遠きにありて』はこの故郷から離れてというエピソードからつけられた……と勝手に思っていたのですが、文集オンラインのインタビューを読むと「(スポーツ雑誌の連載なのでアスリートと接する機会もあるでしょう?という質問に)そこは距離を置きたいと思っています。(中略)一般の人間が外野から、ずーっとぼんやり憧れながら、勝手に自分の人生に引き寄せて書いている」(出典:文春オンライン「すごく窮屈でねえ……」“アンチ広島”だった少女が“熱烈カープファン”になるまでより)とこのタイトル『遠きにありて』になったそうです。

確かに「Sports Graphic Number」の他の記事のように選手へ該当プレーの時に何を思ったことや事前のメンタルへの質問等は書いていないですね。

そのほかにも体操・テニス・オリンピック、我々がテレビの前で熱狂したあの国民的注目試合から、江戸川区球場に甲子園の都予選観戦までスポーツ観戦と日常生活が叙情詩のごとく散りばめられています。
しかし、そこは毎回問題作・話題作を世に送り出す気鋭の映画監督。卓越した人物観察眼にドキリとしたり、人生の儚さに想いを巡らせて切なくなったりしてしまう文章が本いっぱいに並びます。

また映画監督という珍しい職業にまつわる話も面白く、原作なしのオリジナル映画制作をする話を大谷翔平と合わせて語ったり、ベテラン選手と熟練の映画スタッフに投影して語ったりというのはなかなか興味深いです。中でもプロ野球元広島カープのレジェンド「鉄人・衣笠祥雄選手」に漢字違いではあるものの、同名の主人公を映画で出演されるための許可を得るエピソードは必見。

読後、一人でふらっとナイター観戦に行きたくなる一冊です。

最後までおつきあいありがとうございました。(マツダスタジアムの写真は行ったことがないので手持ちがありませんでした。今年こそは。。)

参考サイト
文春オンライン「すごく窮屈でねえ……」“アンチ広島”だった少女が“熱烈カープファン”になるまで https://bunshun.jp/articles/-/10376

『遠きにありて』著・西川 美和 文藝春秋刊(Amazon)https://www.amazon.co.jp/dp/4163909486/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_tqPHCbB05YH9V


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