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財務諸表から読み解く企業分析 日本郵便~苦しい郵便事業~

日本郵便は、郵便局でおなじみですが、直近はかなり苦戦を強いられています。

事業内容ですが、
●郵便・物流事業
●銀行窓口・保険窓口事業
●受託事務事業
●不動産事業
●国際物流事業

この中でかなり苦戦をしているのが、郵便・物流事業です。
特に郵便は、ネット環境が充実している現在、郵便物の利用が減少し、とうとう10月1日に郵便料金は値上げとなりました。

財務諸表を見てもかなり苦しい台所事情が見て取れます。

それでは、貸借対照表から見ていきます。
下図は2024年3月期の貸借対照表のイメージ図です。

貸借対照表:
左側の資産合計と負債・純資産合計(右側)が同じ金額になるため、バランスシートとも呼ばれます。
財務状況をあらわす表で、どこからどのように資本を調達(=負債)し、どのように活用(=資産)しているのかが把握できます。

日本郵便:日本郵便株式会社法第13条に 基づく書類より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial/FY23_all.pdf

金額は以下の通りです。

流動資産:2,046,669(百万円) 流動負債:1,852,538(百万円)
固定資産:2,708,091(百万円) 固定負債:2,130,672(百万円)
                純資産:771,550(百万円)
資産合計:4,754,760(百万円) 負債・純資産合計:4,754,760(百万円)

純資産に比べ、負債がかなり大きいことがわかります。
かなり苦しい台所事情だと思います。

唯一の救いは、流動資産と流動負債の関係です。
1年以内に現金化できる流動資産 > 1年以内に返済しなければならない流動負債の状況となっており、返済に関しては問題がないようです。

次に損益計算書を見ていきます。

損益計算書:
1年間の営業成績表のようなものです。
どれだけ収益を上げ、利益を出したかがわかる表です。

それでは損益計算書の中身を見ていきます。

営業収益:
モノではなくサービスを提供しているので、売上高ではなく営業収益と呼んでいます。
事業で得た収益を表します。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

右肩下がりに営業収益が減少しています。
新事業を立ち上げるくらいの事業のテコ入れといった勢いがないと非常に苦しい収益状況です。

営業総利益:
粗利ともいいます。営業収益から営業原価を差し引いた利益です。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

営業原価を削減するにも限界がありますので、営業収益同様に右肩下がりの傾向となっています。

営業利益:
営業総利益から販売費(人件費など)と一般管理費(広告費など)を差し引いた利益。つまり本業でどれだけ稼いだかを表す利益です。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

2024年は本業での儲けがほとんどない状態となっています。
2025年3月期は赤字になるのではないか?と心配になるレベルです。

経常利益:
本業以外の損益を含んだ利益をいいます。例えば銀行預金の利子などが含まれます。会社全体としてどれだけ利益をあげられたかを示すものです。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

営業利益同様、2024年3月期はなんとか利益をあげたといった状態です。

当期純利益:
法人税などを支払ったあとの純粋な利益を表します。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

2024年3月期は最終的になんとか利益を確保したという印象です。
10月1日に郵便料金値上げが、どのように2025年3月期に反映されるか気になる点です。

続いてキャッシュフローを見ていきます。

キャッシュフロー:
現金のみに焦点を当て、現金の流れを表したものです。
なぜキャッシュフローが大切かというと、ビジネスの入金は数か月かかるのが普通のため、常に手元に現金がないと金融機関などからの借り入れを返済できず、黒字なのに倒産してしまう恐れがあるためです。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

優良企業のキャッシュフロー
・営業キャッシュフロー(本業で稼いだ現金):プラス
・投資キャッシュフロー(設備投資などに活用した現金):マイナス
・財務キャッシュフロー(借入などを返済した現金):マイナス

以上の状態が理想といわれています。

日本郵便は2023年までは理想の状態でしたが、2024年で営業キャッシュフローもマイナスになってしまいました。
これはかなり悪い状態といえます。

以上を踏まえて現金をどれだけもっているか確認してみます。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

2022年から右肩下がりで現金の保有が減少しています。
現金を増やすには現金を借り入れて一時的にしのぐこともできますが、いずれ返済をしなければならないので、どちらにせよ本業で稼ぐ力を強くするしかありません。

利益や現金も減っているため、対策のためにコストとなる従業員数も削減しています。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html


今度は実数ではなく、効率性を見ていきたいと思います。

●営業収益に対する利益の比率を示す指標

営業総利益率:
本業からどれだけ利益を生み出したかの割合を示します。
これでサービスが魅力的かどうかサービス力がわかります。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

こちらも右肩下がりで減少しています。
2024年3月期の下がり具合は少し急になっていて、効率性が悪い印象です。
あとサービスのコンテンツの魅力も落ちているといえます。

営業経常利益率:
会社の資金調達力も含めた会社全体の収益力がわかります。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

2022年3月期から急激に激減しています。
会社全体の収益力がかなり落ちていることがわかります。

●資本の活かし方をチェックするための指標

自己資本利益率:
ROEとも呼ばれる有名な指標です。
企業が集めた資本を投資してどれだけ企業全体として当期純利益を上げたかを示します。8~10%程度が目安とされます。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

2024年3月期の落ち込み具合を見ると、相当効率が悪い経営だったといえます。

●会社の安全性を分析する指標

自己資本比率:
返済不要の自己資本(純資産)で企業活動に必要なお金をどれくらいまかなっているかを示す指標です。一般的には50%以上が理想です。

日本郵便:財務情報より作成
https://www.post.japanpost.jp/about/financial.html

自己資本(純資産)はかなり理想とは程遠い状態といえます。

●まとめ
2024年3月期は以前からの苦しい経営状況が一気に加速した感があります。
その打開策の一環として、10月1日からの郵便料金値上げがありました。
これでどれくらい回復するのかは不明ですが、通常値上げをすればV字回復につながる可能性はあります。
ただそれよりも新しい事業を開拓し、事業のテコ入れをすべき転換点に来ているのは間違いないと思います。

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