見出し画像

開業に関わる許可申請や届出にデザイナーはノータッチで良いのか?

「設計士やデザイナーはその名の通り設計やデザインをすることが仕事であって、事業の開始に関する各種許可申請や届出は業務範囲外なので」という人に時にお目にかかることがあります。

デザイン力が優れていて、許認可や届出などの手続きに関してはブレーンがやってくれる、という人もいるでしょうけど、これができるのは資金に余裕がある一部のスターデザイナーの話です。(そういう人でも自社で業務を受ける人ももちろんいると思います)

類稀なるセンス、みたいなものを持ち合わせていない人間としては、クライアントにとって面倒である手続き関連業務を補佐できます、とプレゼンすることで、他社と少しでも差別化できたら良いなという下心を持って知見を増やしています。

デザイナーが手続き関連の業務をする義務はないのですが、色々知れば知るほど、「実施はしないにしても、知っておく必要はあるなぁ」としみじみ感じるようになってきました。

なぜなら、プロジェクト全体のスケジュールに非常に影響があるし、もっと言えば、そもそもプロジェクトが成立するかどうかにも関わってくるからです。

どういうことでしょうか?


提示されたスケジュールが適切かどうかは疑ってかかる。


どんなプロジェクトでも、最初に全体のスケジュールを策定するところからはじめると思います。

設計者がどのような立ち位置でプロジェクトに参画しているのか、これによって話は変わってきますが、例えばクライアントからオープン日が明確に記されたスケジュールを提示されて仕事を請け負った場合。

このスケジュール、誰が作ったのかわかりませんが、開業に必要な各種手続きが全く反映されていないものだった場合はどうなるでしょうか?

当然大幅にスケジュールが押して、予定通りに開業ができなくなります。

その時、業務請負契約書に必要な手続きに関しての責任を誰が負うか、といった条項が存在しない、もしくは業務請負契約自体取り交わしていなかった場合、それはもうプロジェクトは黒煙を上げて炎上することになります。

このような、誰も得をしない状況になってしまうことを防ぐために、知識を得ておく必要があると思うのです。

スケジュールを提示された時に、
「いや、このスケジュールだと◯◯の許認可を取得する時間が入っていないので、このスケジュール通りには進まないと思います。」
と返すことができれば、初期段階でスケジュールの修正ができるし、以降は闊達|《かったつ》に議論ができる健全な関係を築くことができるのではないでしょうか。

プロジェクトが成立しない、まである。


とあるクライアントから「古民家を改修してホテルをやろうと思っている。地場の工務店さんに改修工事を依頼して、工事が進んでいるのだけど、インテリアや家具の領域が不得手ということで、仕事を依頼したい」と連絡をいただきました。

お城のある有名な城下町の案件だったので、二つ返事で現地視察に伺いました。かなり傷んでいるけど、歴史と風情のある非常に良い建物が対象で心躍りました。

早々にプレゼンテーションをして快諾をいただき、進めていたある日のこと。クライアントから一本の電話がかかってきました。

「このプロジェクト、一旦止めます。」
おぉ、、なんと。何か粗々してしまいましたか。と心配したのは一瞬のこと。

話を聞くと、この建物のある用途地域(都市計画法で地域ごとに建築できる建物の用途が定められている)が住宅系であり、ホテルは建設できない場所でした、と。

プロジェクトがスタートしたらまず調べるのが用途地域。
用途地域が適合していなければ、目論んでいる事業ができないのでいの一番に調べる。

今回は工事が進んでいる途中での依頼であり、インテリアだけの業務だったため、そのあたりの調査や手続きは別途であったし、そもそも当然調査済みだと思って意識もしていなかったので、完全にノーマーク。

建築に関わっている人は信じられない、あり得ないとレベルの初歩的な確認事項です。
僕もまさか、という思いでした。

このケースは、建築士さんが参画していたら起こらなかったでしょう。

このように、法律や手続きへのずさんな対応でプロジェクトが成り立たない場合があるので、やはり「知らない」ではプロとしてクライアントの役に立てないのではと思います。


業態別の「手続き逆引き辞典」が欲しい


許認可や届出に関して常々「逆引き辞典があったらなぁ」と感じています。

例えば飲食店を開業したいと思い立った時に、それに関わる許認可や届出が一覧でわかる情報源。

ある程度のことは役所に行けばわかります。
いろんな人が何度も同じ手続きをしているので、対応の効率化のために、
これとこれの手続きが必要ですよ〜と記したペライチを作ってくれていたりします。

しかし、このケースは稀ですし、そこに書かれているものが全てとは限りません。
法律が先にあり、それを認知できて初めて手続きが可能になる。
必要な手続きをせずに開業した場合「知らなかったから」という理由は何の効果も無い。
ただ「無知でしたね、はい、では罰則です。」と言われるだけです。

法律は日々変わっていくので、完璧な逆引き辞典を編纂するのはなかなか難しいと思いますが、日本には優秀な官僚がたくさんいるので、実現できるのではと期待しています。(ただの希望です

2023.7.10 追記
記事をお読みいただいた、snak@建築士 さんより「こんな本がありますよ」とコメントいただきました。

細かい条例まではカバーできていないかも、と注釈いただきましたが、手続きの全体が見渡せるとても良い本だと思いました。
発行は2016年なのでその後の改正には対応していないのでそのあたりご注意ください。
しかし、、願望を書く前にしっかり調べておかなければ、、とお恥ずかしい限り。良い気づきをいただきました。ありがとうございました。

旅館・ホテル開業に関わる許認可や手続きたち


全ての業種における逆引き辞典をつくることはできませんが、これまで経験が多い「旅館・ホテル業」と「古民家」「文化財」の掛け合わせで発生する許認可や手続きについてはある程度の知見があるので、研修用にもなりそうなので近く解説したいと思います。



お店を開業しようとする人に向けたTIPSをまとめているマガジンはこちら

このnoteのような設計に関わる初歩的な知識はこちらのマガジンで。
少しずつ記事を増やしています。


建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。