記憶に残るお客さんA

大学~最初の就職の五年半ほど住んでいた地域に、気に入りのケーキ屋さんが一軒ありました。
旦那様がパティシエ、奥様が店頭に立って販売をしておられるお店です。

小さい頃の私は、生クリームのこってり感があまり好きでなく、ベリー系の酸味も苦手。必然的にレアチーズケーキか、モンブランくらいしか食べないという偏りのある子どもでした。
ですが、そのお店のケーキはどれを食べてもくどくなく、素材と味の絶妙なバランスが素晴らしい、スイーツに対しての私の認識を変えてくれたお店なのです。

フルーツタルト、チョコケーキ、ロールケーキにショートケーキ。
売れ行きの良さから目当てのケーキが品切れでも、「いつものあれがないなら、今日は別のを食べてみよう」と思えるほど、どれもこれも魅力的なケーキばかりでした。

二〇十一年に札幌に引っ越して後も、たまに浜松に実家帰省するついでに、昔下宿していたあたりにも足を運んでいます。好きな神社があり、ご挨拶に行くのが主目的です。
時間にある時は昔行っていた店で大好きなラーメンを食べたり、少しずつ変わっていく街並みを眺めたり、色々な楽しみがあります。

そうして帰省した二〇十五年五月七日、神社からの帰りにちょうど先述のケーキ屋さんが開いているのを見つけ、久しぶりに店内に入りました。
二、三年前に一度訪れて以来ですが店内の雰囲気は変わらず、昔より少しお年を召した奥様が店頭に立たれています。実家に帰る前にどこかで座って食べようと、シブーストを一つ注文しました。

すると、会計をして箱に入れたシブーストを渡す時、奥様が言ったのです。
「あの、前に当店に来てくださってたことありますよね?
と。

はい、学生時代によく来てました! いつもここのケーキおいしいなって、色々食べてたんです!」
私の言葉に「そうですよね、そんなに前になりますか」と奥様が返して下さり、覚えていてもらえたことにとても驚きました。
お店に足しげく来ていたお客様は数多くいるだろうのに、最近数年に一回程度しか来ない一人の客を、どうして覚えていてくださったのでしょう。

ショートヘアに眼鏡の、のび太君みたいな見かけのまま年を経ました。が、ケーキを頼む時の私の声音とかの方が、ひょっとしたら昔と変わっていなかったのかもしれません。
毎回おいしそうなケーキを目の前にテンション上がってる人だったろうので、印象に残っていた……んでしょうかね。

今は札幌に嫁いだこと、でも時々帰省ついでにこの辺りも来るので、またの機会に立ち寄らせていただきますと告げて店を後にしました。
電車が来るまでの時間にシブーストをいただこうと、ベンチに座って箱を開けたと同時に、涙が出てきました。

この町に私がいたことを、覚えてくれている人がいた。
町並みが変わり、学校に通っていた学生は次のステージに移ってゆく。そういう場所で、能動的に連絡をとるわけではない方の記憶の中に私が在り、来てくれてましたよねと伝えていただけたことが予想外に嬉しかったのです。

沢村という人間は、(本人にとって)強いレベルの嬉しい事が突然に起こると、「わぁーありがとうございます!」が突き抜けて涙に変換される特徴を持っています。
自分一人ではこの感情が処理しきれなかったので、旦那(仕事でひと足先に札幌に帰っていた)に、起きた出来事をメールして、やっとおいしいシブーストをいただいたのでした。

こんなにありがたいと思える気持ちをいただけるお店に出会えてよかった。
また帰省した時に、ここのお店に寄りたい。奥様や旦那様がお元気でいられる間に。(二〇十七年秋に旦那と立ち寄った時は、お店がお休みの日でした。残念)
気に入ったお店は、食べて支援していける人間でありたいと、改めて感じた出来事でした。

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