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選手たちの一人歩き。1/2

①   
先日、鎌田選手がドイツのフランクフルトからイタリアのラツィオへの移籍を果たした。
市場原理を強く意識した鎌田選手の移籍は、ある意味で日本サッカーの現状を示すいい例だ。
 
日本サッカーの発展には大きな落とし穴がある。
それは「いまだ鎖国の日本サッカー」ということだ。
「もっと多様で自由」のはずの、サッカーの醍醐味をこれまで見失っている証拠でもある。
 
海外のクラブへ挑戦した日本人サッカー選手が手にする経験の中で、現在においても重要なものは、これまで閉じていたプレーの扉を開けてゆくことだ。
その扉は大小いくつもあり、どれが開くかはわからない。
トップレベルのキャリアパスを実現するほどに大きな扉が開いてゆくことは間違いない。

ドルトムントからマンチェスターユナイテッドへの移籍を実現した香川選手


 
このキャリアパスが、寿命・ピークともに決して長くないサッカー選手にとって、近年はより重要な指標となっている。
 
海外に留学した人なら、いかに日本人が縮こまった世界で生きてきたかを痛感した人が少なからずいるだろう。
自分の文化や歴史を他人とぶつけ合い、コミュニケーションを図りながら切磋琢磨し、人生を謳歌してゆく。
他国の人と話して初めて、自分の無知を知ることにもなる。
 
同じようにサッカーの世界でも、日本人選手はその体験と結果をもって、
今や半ば勝手に作り上げられてきたような生真面目なルールを一つずつ瓦解させ、解放してきた。
 
一つ言えることは、
もし仮にW杯で優勝するような結果を成し遂げたなら、日本のサッカーは変わる必要もなく、Jリーグも変化しないということだ。
 
しかし現状、日本は世界の強豪国にはなれていない。
これまでのところW杯で成功をおさめているかといえば、どうもそう言えない。
ヨーロッパの五大リーグを筆頭に、世界のトップオブトップからすれば先のW杯でのドイツやスペインとの試合の勝利は、いまだジャイアントキリングの域を出ない。
 
選手は日々痛感しているはずだ。
これでは夢に見たW杯優勝は無理だと。
チャンピオンズリーグ優勝は叶わないと。
 
だから選手達はJリーグを後にする。
そして徐々に意識や発言が自信に満ち、エゴイストになってきた。


 

視点を一方向にしない


Jリーグの発展や、地域に密着して培ってきたこれまで国内の実績を強調し、代表に国内組を入れるべきだと言う意見が出るが、勝負の世界にそれは関係ない。
 
乱暴な言い方をすれば、それは観客のエゴでしかなく、選手には当てはまらない。
一方で、海外組の選手たちがJリーグや文化面での日本サッカーの発展をないがしろにしていることにもならない。むしろ逆だろう。
 
レアルマドリードにスペイン人は何人いるだろうか。
昨シーズン、レアルマドリードはリーグ戦の試合で、スタメンにスペイン人選手が一人もいないということが起きた。
それでもレアルはレアルだ。
 
一方でアトレティック・ビルバオというチームは純血主義を貫き、バスク地方にルーツを持つ選手しか起用しない。
しかしそれも、チームが一度も降格していないという「結果」があってのことだろう。
 
マンチェスターシティがトレブル(プレミアリーグ、FAカップ、チャンピオンズリーグ優勝)を達成するのに幾らのお金を使ったのか。
 
日本人は、サッカーが結果を求められる世界だということがまだ受け入れられていないのではないか。
 
ヨーロッパでは年俸が高い選手ほど試合で使われる。
何故なら、試合に使わないとチームが損をするからだ。
50億円かけて獲得した選手を3試合しか使わなければ監督とチームはファンとスポンサーから糾弾されるだろう。
それならば起用するしかない。
逆を言えば、市場価値が高まればビッグクラブでサッカーができる。
活躍すれば費用対効果を得られ、より高い値段で売却できる。
試合出場数や起用ポジション、ゴール数など、現代のサッカー選手の契約は非常に複雑なものになっている。
 
育成からの生え抜きを除けば、トップオブトップに行く道筋は、市場価値を上げることしかない。
 
その点、本田圭佑選手は好例と言える。
タイミング、市場価値、交渉の成果がACミランでの10番を背負うという実績となった。
当時のACミランがオーナー問題で内部からがたついていて、決して高いレベルのチームではなくなっていたとしても、市場価値が次の扉を開けることになる。
「ACミランの10番」という実績はキャリアパスにとっては非常に有効だ。


 

大きな代償


 
高卒でアーセナルのようなビッグクラブに行く選手もいる。
それは、どちらかといえば投資の一環でしかなく、結果を出して市場価値が上がって初めて、アーセナルのようなトップチームの一員になれる。
しかし、心身ともに不安定な十代の選手がそのプレッシャーに耐えられるわけでもない。
結果、市場価値とキャリアパスが選手の成長を大きく破壊してしまうという、近代サッカーの悪い例が頻出しているのも現状だ。
 
フランスの伊藤純也選手と同じチームに所属する、エースで点取り屋の選手は、結果を出してもアーセナルへの復帰が叶わない。
実力だけではなく、タイミングが合わさらなければトップには行けない。
タイミングを逃せば次に訪れる機会はいつになるかわからない。そのころには状況が変わり選手の市場価値が落ちていることもある。
 
 
市場価値を上げる方法はサッカー選手の育成ではなく、売り買いの交渉だ。
 
 
サッカーという文化は根づいてきたが、勝負に徹する思考が驚くほど足りていない日本サッカーが生み出したのは、海外チームによる日本人選手の買い叩きだ。
 
しかしこれまでのところ、当の選手達個人に非はない。むしろ正しいキャリア選択をしてきているといえる。
海外で活躍している選手の数がそれを物語っている。
その一点に関しては、日本サッカーの未来は明るい。


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