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【連載小説】マザーレスチルドレン 第十二話 マザーレスチルドレン【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

「まあまあ二人とも、もういいじゃないですか、やめましょうよ、いい加減で。マスターもボクが奢るから飲んでよ。今夜はみんな楽しく飲みましょうよ」

 微笑みながらハルトが仲裁にはいる。

 マスターは不機嫌顔で、カウンターの奥の椅子にどかっと腰をおろすとズボンのポケットから煙草マルボロの箱を取り出した。慣れた仕草で煙草を一本取り出し口に咥えると銀色のオイルライターで火をつけた。

「あれ、マスター、煙草やめてたんじゃなかったっけ?」

 ハルトが言うと、マスターは不味そうに煙を吐き出すと、

「ああ、やめてたけど、もう禁煙はやめだ。だってさ、考えてみなよ、ハル、大体さあ、健康のための禁煙なんて意味無いと思わないか? オレたちみんな長生きなんてできないんだから」

「でも子供たちのために少しでも長く生きていたいって言ってたじゃない。マスターもレイコさんも」

「まあ、言ったけど、そうなんだけど。いろいろあるんよ。さっき言ったろ食材が上りすぎて回んないのこの店。それで子供たちの将来とか考えてるとやり切れなくなるのさ、そんなストレスっていうのかさ……。とにかくもうイヤになったんだよこんな夢も希望もない人生が」

 マスターは視線を落とすと吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて火を消した。そして何気なく厨房の小窓から外を眺めると驚いたように言った。

「げっ、あいつらまた来てるよ」

「なにマスター、昨夜のガキどもか?」

 カジが身を乗り出して言った。

「カジさん昨日なんかあったの?」

 ハルトが尋ねた。

「うん、まあちょっとな、いいからハルちゃんもこっち来て見てみなよ」

 恐る恐る小窓をのぞき込む三人。

通りのむこう側の歩道上で大型の改造バイクに股がったアーミー服に身を包んだ数人の少年たちがたむろしている。先頭で大きめの黒いサングラスを掛けた少年はあきらかにこちらの様子を窺っているようだった。

「昨晩もあんな感じであそこで集まってたんだ。ねえ、カジさん」

「うん、ホームレスチルドレンとか言われてる奴らだよ」

「マザーレスチルドレンだろ」マスターがツッコミを入れる。

「そうか、まあ何でもいいけど、あちこちで悪さしてるらしいよ。大手のマスコミははなぜか無視してほとんどニュースにはならないけど。親に虐待受けた可哀そうな子どもたちだって新聞には小さく書いてあった。けどよ、だけどそんなの関係ないよ、誰がつけたか知らねえけどマザーなんとかっていったって可哀そうなもんか、やつらはいわゆる反社会勢力、半グレってやつだろ。なんであんな危険な奴ら野放しにしてんだ。あいつらハルちゃんくらいの年頃だろ? ハルちゃんみたいにおっかさん探しながらまじめに働いてる若者もいるっていうのに。あいつら甘ったれてんだよ、大変なのは誰だってみんな同じじゃねえか、こんなきびしい時代生きてんだから」

 カジが顔をしかめながら話した。

「ねえマスター、一応黒服隊に通報したほうがいいんじゃない?」

 ハルトが心配そうに言うと、

「まてハル、あいつらまだ何もしたわけじゃないし、ただ集まってああやってるだけだしね、今のところ。それに昨日も何も起こんなかったろ、いつの間にかいなくなってた」

 黒服隊とは、現政府の下に配置された武装行動隊の俗称であり旧体制の警察と自衛隊の役割を統括再編した組織である。主に国や地域の治安の向上を目的に編成された部隊で正式な名称は国防義勇軍といった。しかし真黒の軍服で街を闊歩する姿は常に威圧的であり、今では陸海空軍と並ぶ第四の組織だと云われていた。

「でも静かすぎるな……」

「マスターあのオートバイは電気バイクだろ、昔の暴走族とは違うんだよ、今時の不良ヤンキーは。バリバリいわさないの」

「それくらい見りゃわかるよ、カジさん。オレが言ってるのはバイクの事じゃなくて奴らの態度が怪しいっていってんの。何を待ってんだろ、コンビニの前なんかでたむろってる感じじゃねえ。みんな不気味に無言でたたずんで、この店の様子覗ってる。誰かの指示待って待機してる感じだ。一体何待ってんだ……。この店襲ったって金目のモノなんか何もないぞ」

「まあ、それくらい半グレだってわかってるよ、マスター。襲うなら高級な時計とか宝石とか置いてる店狙うよ。こんなちっぽけな潰れかけの食堂襲っても……」

「カジさん、さっきからあんたいちいち失礼だな。でも悔しいけどカジさんの言うとおりだよ。オレもそう思うから怪しいって言ってんの」

「やっぱりマスター通報したほうがいいよ、黒服に電話するよ」

「いや、まてハル。黒服の奴らはあてにならない、今までトラブルで通報してもまともに来たためしがないし、最近は通報の電話にも出ないらしい。市民デモの鎮圧と闇市の取締には躍起になるくせに、善良な市民が困ってる時には見て見ぬふりだと」

 マスターは吐き捨てるようにそう言った。

 その時、ドンっと大きな音がして店の奥にあるトイレのドアが勢い良く外側に開いた。ハルトたち三人は驚いて一斉に振り返った。

「先生いたんですか!」

 ハルトとカジは声を揃えて叫んだ。


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