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「毎日が破壊と創造の繰り返し」 SHOWROOMで価値発揮する人材とは

「すべての人生に、夢中を」というスローガンを掲げ、第二創業期をスタートさせたSHOWROOM株式会社(以下、SHOWROOM)。これまでメインの事業としていた“ライブ配信”という軸だけではなく、今後はより多種多様なサービスを展開していきます。変化の激しい事業フェーズにおいて、SHOWROOMで働くメンバーに求められる要素とは何なのでしょうか。CEO 前田裕二に話を聞きました。

創業以来、変わることのないSHOWROOMの思想

──ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」が立ち上がってから、早いもので7年目に突入しました。先月開催された「Entertainment Technology Conference 2019」では「すべての人生に、夢中を」のスローガンを掲げ、企業として第二創業期が始まることを宣言しましたね。

前田:そうですね。第二創業期を迎えて、今後もSHOWROOMを取り巻く環境は様々に変化していきます。ですが、創業当初より僕らが掲げていた「努力がフェアに報われる世界を創る」というミッションについては、未来永劫、不変です。この考えは、サービス設立当初から変わっていないですし、今後も変わらないでしょう。

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──このミッションは、そもそもどのようにして決定したのでしょうか?

前田:初期の頃、「SHOWROOM」のサービスコンセプトを策定しているときに、CTOの佐々木含め、メンバー同士で意見を出し合いました。「『SHOWROOM』によって、どのような世界をつくりたいか」を書き出したんです。そこで収斂(しゅうれん)したのが、「頑張っている人が、正当に報われる場にしたい」というメッセージでした。

──なぜ、そのメッセージを込めたのですか?

前田:僕や佐々木が昔夢中になっていた音楽の世界は、必ずしも努力がフェアに報われるとは到底言えないような世界でした。たとえ実力や熱意があっても、運が良かったり、業界とのコネクションを味方につけた人が勝ち上がっていく。もちろん、そういった事も広義には実力のうちなんですけどね。ただ本当に、100人の演者がいれば、99人に光が当たらないのが現実でした。

──たとえ努力をし続けても、芽が出るとは限らない、と。

前田:まさに。「芽を出す為には水が必要だ」という事が分からないアーティストの卵がほとんどであるという時に、その熱や青春を、ほぼ無に帰してしまうような構造を何とかしたかった。

──そうした課題を解決することが、「SHOWROOM」の発想の起点にある?

前田:そうです。つまり、個人の熱量はすごくあるはずなのに、既存の仕組みではその熱量を経済的な価値に変換できていない。だからこそ、個人間の格差も広がっていきます。

「Timebank」や「VALU」といったサービスが大きく盛り上がったタイミングがありましたが、これらサービスが前提としている「価値主義」という考え方があります。

従来型の資本主義においては、「どれだけ儲かるか」という外面的なものさしが使われていましたが、価値主義では、「どれだけ共感できるか」という、より内面的なものさしが使われます。価値主義文脈で多くの共感を集めた人が、その共感を資本経済文脈の「お金」に換金できるようになり、より生きやすくなる、そんな世の中が来る、と。

お金に換金できるようになる、と言いましたが、これはたとえば、クラウドファンディングやオンラインサロンといった、直接課金によって個人を支援するような仕組みが整備されてきている事が大きいです。ただし、換金装置だけでは不十分で、価値主義が本当にその規模を広げ市民権を勝ち得るには、他に2つの要素が必要です。

──それは何ですか?

前田:1つ目は自分に価値を引き寄せる為の装置。2つ目は、それによって自分に紐づけた価値を可視化する装置です。これに先ほどの、可視化された要素を資本主義的価値(すなわちお金)に変換する装置、が加わり、これらがシームレスに繋がると、価値主義や評価経済市場はどんどん広がっていくと思います。

仮に、1つ目の信用貯金を増やす場がなければ、落合陽一さんや堀江貴文さんのように「もともと人気がある人」が勝ちやすい世界が広がり、彼らは更にその価値を伸ばしていきます。すでに共感を集めているインフルエンサーであれば、「今この時点で持っている信用価値をそのまま可視化して、一定値まで貯まればそれを資本に換金する」というモデルを取れるので、現時点で多くの評価や信用、共感価値を勝ち得ていない人との差は広がる一方です。

だからこそ、もともと有名ではない方々が、1つ目のステップを踏む(共感価値を引き寄せる)ために、“ゼロから信用貯金を増やしていける場所”が必要だと考えました。

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──それが、「SHOWROOM」だったと。

前田:仰る通りです。「SHOWROOM」は、今ファンが0人だという人でも、ここからの頑張り次第でゼロから新しく共感や信用を獲得する事ができる、という世界観を描いてきました。たとえば、20年間活動を続けているけれど、ライブに全くお客さんが入らなかった芸人さんが「SHOWROOM」での配信を始めて、毎日配信をしばらく継続したところ、数百人キャパのライブハウスを埋められるほどの人気になった、という事例も数えきれぬほどあります。

「1 対 数百」ほどの人数規模でこの現象を実現してきたのが、SHOWROOMでした。2019年12月に発表した「短尺動画メディア」「音声メディア」などの新サービスでは、引き寄せられる価値の規模をさらに広げていきます。こちらではより、マス(大衆)に向けた発信を想定しています。

「努力」と「楽しさ」のかけ算が、大きな成果を生む

──ここからは、SHOWROOMで働くメンバーについても伺いたいです。共同創業者であるCTOの佐々木さんとの共通点は何だと思いますか?

前田:共通点は、音楽好きである事や纏う空気感、思いやり精神、出身地などいくらでも思いつくのですが、逆にまず共通していない点について話してもいいですか(笑)。実は僕、「仕事を楽しもう」という発想が一切ない人間でした。「楽しいか楽しくないは別として、とにかくめちゃくちゃ頑張って結果を出すんだ」という、熱血マインドで突っ走ってきたタイプの人間で。

──いわゆる体育会系だったのですね(笑)。

前田:はい…。とにかく「まずは人よりも多くの量をこなす事だ!」的な、熱血ど根性ビジネスマンだったと思います。一方で佐々木は、僕と同じ東京の葛飾区出身で、下町育ち特有の泥臭さはありつつも、とにかく何よりも「楽しむこと」を忘れないタイプ。この観点で、彼からは凄く良い影響を受けたし、学びを得ました。

たとえば、「SHOWROOM」のアイテムのひとつであるダルマを提案してくれたのは佐々木です。最初に「SHOWROOM」のモックをつくったときに、佐々木が遊び心でダルマをいつの間にか実装していました(笑)。なぜなら、いずれ海外展開するときに、日本っぽいアイテムがあれば「日本発のサービスなんだ」とユーザーに気づいてもらえるから。

──なんと! そんな裏話が。

前田:僕はダルマをアイテムにするなんて考えてもいなかったですけど、全く思いつかない事だし、面白いアイデアだな、と思って採用しました。佐々木は単にもう、ケタケタと、面白がっていました(笑)。

──佐々木さんのキャラクターが伝わってきますね。

前田:佐々木と出会って僕が気づいたのは、「努力」と「楽しむ」をかけ算することの重要性です。好きで楽しくやっていれば、自然と(自分では努力と思わずとも)努力量も増えていき、気付けば物凄い結果がもたらされるようなケースもあるよな、と。

実は、SHOWROOMの新たなスローガンである「すべての人生に、夢中を」の「夢中」には「楽しむ」という思いが込められています。それくらい大事なことだなって。これは、到底一人では考えられませんでしたし、今までは価値観として「努力」ばかり発信していました。仕事に遊び心を盛りこんでいくこの感覚は、「エンタメテック企業」と自社を定義する以上、SHOWROOMの文化としてずっと忘れずにいたいですね。

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──SHOWROOMのメンバーの中には、「努力」と「楽しむ」をかけ算できる人が多いですか?

前田:そう思います。他のあるメンバーを例に挙げると、以前、フジテレビさんと提携して「DEEP GIRL」という番組をつくったときに、番組から生まれたアイドルユニットが楽曲をリリースすることになったんですね。そこでプロジェクトの担当になったのが、もともと大学院で遺伝子研究をしていた、芸能やエンタメの世界に最も疎い社員でした。

たとえば、某有名アーティストのことについて質問しても「なんとなく名前を聞いたことがあるくらい」と答えるくらいに、知識がなくて…。だから彼が担当になったときには、膨大な量の知識のキャッチアップが必要だったと思います。そんな中でパートナーの信頼を勝ち得たり、企画を考えたり…物凄くハードな状況だったと思いますが、彼は「その時期が一番楽しかった」というくらい、夢中になって取り組んでくれていました。新しい分野に挑戦して、知識を得、成長していく過程が楽しかったのかもしれませんね。

メンバーに求めるのは、愛と運と熱

──前田さんの思う「SHOWROOMのメンバーの採用基準」は何ですか?

前田:僕はよく、「愛と運と熱の3つを持っている人」だと答えています。

──なぜ、この3つなのですか?

前田:この3つは、僕や経営陣がメンバーに教えることが難しいからです。逆に言えば、後天的に身につけられるものは、入社後にいくらでも学んでもらえばいい。

──マインド面を重視しているのは、SHOWROOMの企業文化をよく表していますね。3つの要素について、順番に解説していただけますか?

前田:まず愛ですが、仮に愛情に満ちた態度で他人に接することができたとしても、根源的な意味で急に愛情深くなるのは無理ですよね。親から受けた教育や育った環境の影響があるから、いきなり変わることは難しい。

そして運についてですが、リチャード・ワイズマンという行動心理学の博士がいて。彼は「運が良い人と悪い人の特徴を抽象化してグルーピングすると一定の特徴がある」という趣旨の実験を行なっています。

それら一連の実験によって、「運の良さが何によってもたらされるか」を考える上でのヒントが炙り出されているんです。たとえば、道行く人に新聞を渡して「あなたは運が良いと思いますか? 悪いと思いますか?」と聞いたうえでクイズを出します。「運が良い」と答える人はほぼ正解する一方で、「悪い」と答えた人はほとんどが不正解だったと。

──どんなクイズなのですか?

前田:「新聞の中にある写真の枚数を、制限時間内で数えてほしい」というものです。しかし、新聞の枚数は相当多く、どう考えても時間内に答える事は不可能。しかし、「運が良い」と答えた人は、正解するんですよ。何故だと思いますか?

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──うーん…。全く想像がつかないです。

前田:実は、新聞を1枚めくった最初の見出しに「この新聞には〇〇枚の写真が使われています」と書いてあるんです。「運が悪い」と思っている人はこれを見過ごしてしまいます。「〇〇秒で数えるなんて無理でしょ…」と思っている間に、時間が過ぎる。

一方で、運が良い人は「何かのテストである以上、解けないわけがない。ヒントがあるはずだ」と考えて情報を探すから、目に入る。つまり脳の構造や、脳認知学的なエビデンスがあって。「運が良い」と思えることはそれだけで、価値のある能力なんです。

──なるほど。納得できました。

前田:そして、熱もそう。仮に僕の熱を誰かにちぎって渡すことができても、その人が自家発電できないなら、時間が経つと火は消えてしまいます。

熱の原動力にも、いくつかのタイプがあると思っています。たとえば、コンプレックス型。生い立ちが辛いとか、絶対に見返してやるって燃え続けているパターン。起業家に多くて、僕は典型的なそのタイプだと思います。

他には、好き型、というのもあります。SHOWROOMでいえば、「Virtual Johnny’s Project」を担当しているメンバーがいて。彼女は男性アイドルのコンテンツについて、誰よりも詳しいです。自分の好きなことを仕事に活かせていて、かつ価値発揮できている状態になっているんですよ。この熱のかたちも良いなと思っています。

他にも、「お金がほしい」とか「モテたい」といった、一見人間の臭みが出ていて恥ずかしく感じるモチベーションでも僕は全く問題がないと思っています。それが熱となってエネルギーに転換されるならば、一切構わない。そして、愛と運と熱のうち、全部は求めすぎかもしれないなぁ、とも最近は思うので、一つを選べと言われたなら、「熱」だけは絶対にメンバーに持っておいてほしいと考えています。それがないと、何も動き出さないので。

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──他に、SHOWROOMで働くうえで重要なスキルはありますか?

前田:最近思うのは、“見極める力”かもしれません。たとえば、目の前に山があったとして「山のどこに宝があるのか」をまず判別する技術。

もし、サービスのつくり方や事業として進む方向がすでに明確になっている企業であれば、この「見極める力」はそれほど必要ないのかもしれません。これまで成功してきたレールの上を、そのまま進んでいけばいい、そんな仕事も世の中にはあるでしょう。でもSHOWROOMではそういった仕事は少ない。我々は新市場を開拓している最中ゆえ、常に答えがない中で新しい挑戦を繰り返しています。だからこそ、「どう進むべきか」をいつも考えて見極める癖をつけねばならないですし、それを現場の判断に委ねるケースも多くあります。

「見極める力」以外にもう一つ加えるとすると、“やりきる力”です。掘る場所を決めたら最後まで諦めず、とにかく徹底的に掘り切る。これも上述の観点と同じですね。未開の領域を進んでいるからこそ、やりきる力がなければ突破できない状況がいくつもあります。

ですが、両方の力を全員に求めるのも難しいのかもしれない。もし二者択一と言われれば、僕は、「やりきる力」を持っておいてほしいと思います。MUSTの中でやりきる経験を数多く積み重ねていくことで、見極める力というCANも徐々に伸びていくので。

“カオス適性”を持つ人が、SHOWROOMを駆動させる

──今後、SHOWROOMをどんな企業へと成長させていきたいですか?

前田:これまで以上に、SHOWROOMは挑戦をくり返していきます。大きなチャレンジをしたい人にとっては、非常にエキサイティングな環境になっていくはずです。

新規事業としてのチームづくりは、少数精鋭を前提としています。個々のメンバーがそれぞれの強みを使って思い切り価値発揮できるようなイメージで事業を伸ばしていきます。一方で既存事業に関しては、組織としての仕組みの整備を進めていくことで、徐々に会社として属人性を減らしてしていきます。もちろん良い仕事はどこまで行っても一定の属人性が排除できないものですが、チームで勝てる体制を構築する事で、組織としてのスケーラビリティーを急速に引き上げて行きます。

このように、SHOWROOM自体が企業として大きな変革期を迎えているので、「カオスを楽しめる気持ち」が、働くうえで大切になっていくのかなと思いますね。

──カオス、ですか?

前田:はい。日々、本当にカオスなことばかりで、最近SHOWROOMに入ってきたメンバーも驚いていると思います。こんなに色々と刺激物が転がっているのか、そしてそんな中でも、自分で考えてオールを漕いでいかねばならないのか、と。僕らは新しい市場を開拓している過程にいるからこそ、一定のリスクをとった挑戦の数がめちゃくちゃ多くて。毎日が「破壊と創造」のくり返しです。これまで築き上げてきた要素を、より活かしたり、時には逆に捨ててしまったりして、新しいことをゼロからスタートしていきます。

僕らは純粋に、そんなSHOWROOMの日々を心から楽しんでいるんですよ。そのくり返しの先に、ビジョンやミッションの達成があるはずだから。熱がある限り、僕らは挑戦していきます。

──これからのSHOWROOMが楽しみですね!

前田:はい! 誰よりも僕自身が楽しみながら、SHOWROOMを次のステージに引き上げていきたいと思います。

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SHOWROOMでは第二創業期を担うメンバーを積極的に採用中です

プロフィール

前田裕二(SHOWROOM株式会社 代表取締役CEO)
1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。2011年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。株式市場において数千億〜兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業を検討。事業立ち上げについて、就職活動時に縁があった株式会社DeNAのファウンダー南場に相談したことをきっかけに、2013年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に会社分割によりSHOWROOM株式会社設立、同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受ける。現在は、SHOWROOM株式会社代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。著書に『人生の勝算』、『メモの魔力』がある。