見出し画像

1行のコードがユーザーの心を動かす。池滝俊太が守りぬくSHOWROOMの“核”

「昔からエンタメが大好きでした。中学の頃は楽器演奏が趣味で、高校ではDTMによる音楽制作や合唱にハマって。大学ではアカペラとコンサートづくり、プロジェクションマッピングによる映像制作などをやりました。“文化祭の空気”みたいなものに、心が惹かれるんです」

こう話してくれたのは、SHOWROOM株式会社でエンジニア組織のマネージャーとプロダクトマネージャーを兼任する池滝俊太。彼は2014年に株式会社ディー・エヌ・エー(以降DeNA)へ新卒入社(※)し、新規事業を担う部署に配属されました。そして翌年、同部署にて開発・運営されていた「SHOWROOM」の理念に共感し、希望して開発チームに参画したのです。

エンターテインメントを愛する池滝は「『SHOWROOM』が生み出す体験」にも強いこだわりを持っています。本稿では彼のキャリアを紐解きながら「プロダクト開発やマネジメントにおいて大切にしている理念」を可視化していきます。

※…SHOWROOM株式会社は、2015年にDeNAから分社化。


「SHOWROOM」に惚れこみ、CEO前田に異動を直談判

──池滝さんがDeNAに入社してから、「SHOWROOM」の開発チームに異動するまでの経緯を教えてください。

池滝:僕は2014年4月にDeNAに入社してから3か月ほど新人研修を受けた後、新規事業を担う部署に配属されました。もともと、DeNAの採用面接では「誰かに感動を与えるような、新規サービスをつくりたい」と伝えていたので、希望を反映していただけた形でした。

でも正直、新規サービスを軌道に乗せるのは簡単ではなくて。とにかく成果が出ず、プロトタイプをつくってはボツになることのくり返し。開発そのものは楽しかったですが、いずれもサービスのローンチには至りませんでした。

「SHOWROOM」の開発チームに移ったのは、2015年ですね。当時、新規事業部が開発していた「SHOWROOM」は、部署の半数くらいのメンバーが開発に携わるプロダクトで。「いつも楽しそうに開発しているチームだな」と思って遠目から見ていました。

ある時期、「SHOWROOM」に携わっていたスタッフから、手伝ってほしいと声をかけられたんです。開発に関わるうちに、すっかり「SHOWROOM」というプロダクトに惚れこんでしまいました。このサービスなら自分の叶えたかった「誰かに感動を与える」という夢を実現できると確信して、CEOの前田にメールを送ったんです。これがその文面ですが、若さを感じますね(笑)。

画像1

画像2


──前田さんからの返信を見る限り、とても好印象だったようですね。

池滝:前田はがむしゃらなタイプが好きですよね。今も昔も、SHOWROOMで求められている人物像は大きく変わらないと思います。

──開発チームに入って、どのような印象を受けましたか?

池滝:いちユーザーとして「SHOWROOM」を日常的に使っているメンバーが多いと感じました。盛り上がっている配信があると集まって一緒に観たり、そこから「この機能を変えたらもっと面白くなるんじゃないか」と議論に発展したり。パフォーマーの方が涙を流すくらい喜んでいる場面では、社員たちも嬉しい気持ちになっていて。みんな、純粋にエンターテインメントが好きなんです。

だからこそ、技術選定や機能開発においても、判断基準は「ユーザーにどのようなメリットを与えられるか」であるべきだと全員が意識しています。ユーザーへの価値提供が何より重要なので、オーバーエンジニアリングになりにくい。これらは、「SHOWROOM」の開発チームに昔から根付いている良い文化ですね。


マネージャーとして未熟すぎた、過去の自分

──池滝さんは2015年のうちに、サーバーサイド開発のマネージャーを担うことになりますが、これはかなり早い昇進ですよね。

池滝:本当に自分でいいのか、正直悩みました。とはいえ、役割を与えられたからには、やるしかない。まずは、6~7人ほどサーバーサイドのメンバーをマネジメントすることからスタートしました。でも、今思い返すと、当時の僕は何もできていなかったですね。

──「何もできていなかった」ですか。

池滝:当時、僕は25歳。チームメンバーは年上ばかりでしたから、当然経験の差が出てきてしまう。そこで僕は、メンバーから出てきた意見をうまくまとめる、ハブの役割を果たす存在を目指そうと思っていました。

経験が少ないから、わからないものはわからない。でも、「SHOWROOM」への愛や、良いプロダクトをつくりたいという気持ちは人一倍あるから「自分なりのマネジメントの形は何か」を考え、メンバーの自立性に任せたチームビルディングをしようと決めました。

その頃は、マネジメントしている人数が少なかったこともあり、それなりにうまくいっていたように思います。チームの雰囲気も悪くありませんでした。でも、そのマネジメント方法では限界があったんです。

画像3

──何か、トラブルでも起きたのですか?

池滝:その後、サービス開発に特化したエンジニア組織である「SHOWROOM Tech Studio」全体を見ることになりました。当初大きな問題は生じませんでしたが、徐々に開発が思うように進まなくなり、チームの雰囲気も停滞してきました。

──停滞した雰囲気は、どのようなところに表れていたのでしょうか?

池滝:社員が退職してチームの空気が暗くなったり、メンバーの意見がまとまらなくなってきました。マネジメントする人数が増えたことによって、メンバーの自主性に任せるという方針では、収集がつかなくなってしまったんですよ。


意思決定をすることがマネージャーの役割

──その状況をどのように改善したのでしょうか?

池滝:あるとき、明確な意志を示すことや、骨太の指針を示すことがマネージャーの役割だと気づいたんです。全員の考えがバラバラでは、チームの力が最大化しません。全員の力を合わせるには、誰かが方針を指し示し、方向性を1つに定める必要があります。だからこそ、企業のミッションやビジョンを策定することが重要だ、という話にもつながっていきます。

──池滝さんの考えが変わったターニングポイントはありましたか?

池滝:ある時期に、経営会議に出席したことですね。組織体制が変わった影響で、今は出ていないんですが。会議の場で前田やCTOの佐々木といった経営陣の話を聞いたことが、大きな転機になりました。

経営会議に参加するまで、僕は「経営陣のメンバーは、未来のことを明確に見通して意志決定をしている」と思っていたんですよ。一方で、まだ経験もスキルもない僕には、同じような決断はできないだろうと。でも、そうではありませんでした。実際には、何が正解かわかっているわけではないんです。みな試行錯誤しながら、事業やプロダクトの可能性を探っている。

考えてみれば当然ですよね。日々、市場はもちろん、組織の状況や社員の人数、スキルも変わりますから、不確定な要素だらけなんですよ。正確な未来予想なんてできない。でも、その環境のなかでチームを導く覚悟を持って決断することが重要だと気づけたのが、マネージャーとして変わることができた転機かもしれません。

それに気づいたとき、僕は前田からよく評価面談で「池滝は完璧主義者で、正解を求めすぎているところがある。考えたことをアウトプットするのではなく、考えながらアウトプットしなければいけない」とフィードバックされていたことを思い出しました。当時の僕は、あまり意味がわからなかったのですが、「マネージャーの仕事は意思決定なんだ」と気づいてから、ようやくその言葉の意図を理解しました。

──そう理解できてから、池滝さんのマネジメントスタイルは変わりましたか?

池滝:かなり変わったと思います。まず、メンバーとよく話すようになりました。僕は人の話を聞くのは好きですが、自分から積極的に発言するのが苦手でした。でも、マネージャーが意志を示さなければ、メンバーは向かうべき方向性がわからない。意識的に、自分から考えを伝えたりと情報を発信するようになりました。

それから、以前は仕事に対して淡々と臨むほうでしたが、感情を表に出すことも増えました。人を動かすために、自分の熱意を伝えなければならない局面もあると気づいたんです。ただし、一方的にならないように「どう伝えれば、全員が理解してくれるか、納得してくれるか」を意識するようにもなりました。

もちろん、今まで通りメンバーの意見も拾い上げます。「伝えること」と「聞くこと」の両輪をバランスよく回し続けるにはどうすればいいかを考え続ける日々ですね。

画像4

──マネジメントのスタイルを変えてから、チームの雰囲気やメンバーからの反応は変わりましたか?

池滝:徐々に、みんなの意識が1つになって、モチベーションが高まっているように感じます。僕が方向性を示すことで、メンバーからは何かしらのフィードバックを得られる。もし意図した通りに伝わっていないのであれば、別の手段を取る必要があると気づけますし、逆もしかりです。そのサイクルをくり返すことで、チームの総合力を高めていきたいと考えています。


プロダクトにとって、“核”となる体験は何か?

──池滝さんは「SHOWROOM」のプロダクトマネージャーも務めていますが、大切にしている判断基準はありますか?

池滝:「SHOWROOM」のイベントに素晴らしいパフォーマーが参加して、多くのサポーターが集まって、配信が盛り上がりギフティングが生まれること。僕はそのユーザー体験こそが「SHOWROOM」の根幹をなす本質だと考えていて、その体験をいかに最大化するかをずっと模索しています。

──ユーザー体験を意識することは、プロダクトマネジメントの方向性にどのような影響を与えるのでしょうか?

池滝:例えば、「ある機能を盛り込むことでより楽しめたり、便利になるけれど、その代わりイベントのランキングの順位が反映されるまでにかかる時間が長くなる」というトレードオフがあるとします。たとえ既存機能への影響は少しであっても、ユーザー体験の根幹が揺らいでしまうならば、その機能をそのまま実装すべきではないという判断ができるんですよ。

イベントが開催されているとき、パフォーマーやサポーターは常に最新のランキング情報をチェックしたい。ランキングが反映される速度が速いほど、多くのドラマが生まれますし、臨場感も高まります。プロダクトにとって重要なものが何かを認識することで、細かいプロダクトマネジメントの方法が変わってくるんです。

──ユーザーの熱量に直結する機能や性能は、絶対に疎かにしてはいけないのですね。


1行のログの裏側には、1人のユーザーがいる

──今後、開発チームをどのように成長させていきたいですか?

池滝:コードを通じて、世界中の人たちの心を動かせるような組織にしていきたいですね。僕は、SHOWROOMがスローガンとして掲げている「ENTERTAIN YOUR LIFE」をとても素晴らしいフレーズだと思っています。「ENTERTAIN」とは「人を楽しませる」という意味で、まさに僕らが日々取り組んでいる仕事の本質です。コードを書いているときでも「誰のために書くのか?」を忘れないようにしたいと思っています。

──「人を楽しませること」が本当に好きなのですね。

池滝:やっぱり、エンタメを愛しているんですよね。どんなに辛いときや苦しいときでも人間は音楽を聴くし、映像を観ます。エンタメがあることで、より良く生きられる。エンタメは誰かの人生を豊かにしていることを、忘れないようにしたいんです。「人生を楽しくしてくれる最高のプロダクトを、いかにコードでつくり出すか」が開発チームのテーマですね。

──池滝さんの思いが伝わります。最後に伺いたいのですが「エンタメの会社で、エンジニアとしてコードを書くことの醍醐味」とは何だと思いますか?

池滝:「1行のコード修正が、ユーザーの感情の動きに直結すること」ですかね。僕らが少しコードを書き換えることで、プロダクトの利便性や提供できる体験の質が向上し、その結果たくさんの人たちが感動して涙を流してくれる。それがすごく面白いんですよね。

努力して身につけたプログラミングという技術が、新しい価値を創造して誰かの心を動かす。でも裏を返すと、たった1行の修正が、ユーザーの気持ちを裏切ってしまうかもしれない。それくらい、責任とやりがいのある仕事に僕たちは日々取り組んでいるんです。

DeNAにいた頃、新人研修を担当してくれた先輩が教えてくれた言葉があります。「1行のログの裏側には、1人のユーザーがいる」というものなのですが、当時の僕はかなり衝撃を受け、今でも大切にしているフレーズでもあります。アプリケーションのログファイルに出力されている文字列というのは、人間の行動の履歴でもあるんですよね。

誰かが「人生を楽しみたい」と考えて「SHOWROOM」のアプリを開いてくれる。その行動の結果が、ログの1行1行に表れる。つまりログの裏側に、僕らの書いたコードで生活が豊かになっている人がいるんですよ。世の中に数えきれないほどのエンタメがあるなかで「SHOWROOM」を選んでくれるということは奇跡のようなものです。

そんなユーザーの気持ちに応えられるように、僕らはもっと成長していきたいし、さまざまな施策を打ち続けていきたい。自分たちのつくったプロダクトで誰かを幸せにできるというのは、最高の仕事だと思いますね。

画像5

SHOWROOMでは第二創業期を担うメンバーを積極的に採用中です

プロフィール

池滝俊太(SHOWROOM株式会社 SHOWROOM事業 開発チームマネージャー&プロダクトマネージャー)
2014年DeNA新卒入社。新規事業を担う部署に配属され、サーバー/アプリのプロトタイプ開発等を担う。2015年、同部署にて運営されていたSHOWROOMの理念に共感し、希望して異動。
以降、DeNAからのスピンオフ後も各種機能開発やサーバーサイド開発のマネージャーを経て、2017年からSHOWROOM事業の開発チームマネージャーを担う。