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「OLD ROOKIEs」 第2話 -挑戦-

「出版社つくろうと思ってんねん。手伝ってくれへんか」

時は1年戻って、1996年。相談を持ちかけているのは、ワークスコーポレーションの社長・主森だ。相手は、主森の古巣でもあるリクルートの現役社員、永田豊志(ながた・とよし)32歳。

「メディアファクトリーでずっと編集やってるんやろ?一緒に新しい出版社つくらへんか」

主森が言う株式会社メディアファクトリー(現KADOKAWA)とは、リクルートの情報誌以外の出版部門を担う子会社だ。永田はそこへ出向し、書籍部門の副編集長を務めていた。

入社して8年半。永田はリクルートでの仕事には満足していた。

福岡県で生まれ育った永田は、成功したい一心で大学卒業とともに上京。ハイテクな分野に携わりたいという思いから、当時 “通信とコンピュータ事業” への参入を表明していたリクルートに入社した。

最初は、一番やりたくなかった営業職をあえて志望した。体育会系の現場に揉まれながらも、毎月気持ちをリセットして再スタートを切れる営業職は思った以上に楽しく、やりがいがあった。

このまま営業でいるのもいいかもな。

そう思っていた矢先の突然の辞令。次世代の新しいメディアを研究・開発するメディアデザインセンターという部署へ異動になった。理系出身で、勉強では国語が一番苦手だった永田は最初こそ戸惑ったものの、営業→プロモーション→編集と仕事の幅を広げていった。

そして、今では副編集長を任されるまでになり、社会人生活としては満足している。しかし、心のどこかで、さらなる刺激を求めていたのも事実だった。

永田は昔からものづくりが好きだった。お金に余裕のない家庭で生まれ育った永田は、ほしいものをなんでも買い与えてもらえる環境にはいなかった。しかし、だからこそ、幼い頃から漫画を描いたりロボットを創ったりなど「ないものは自分で創り出す」ことが当たり前だった。

しかし、新しいものを創りたい性分の永田とは裏腹に、この時リクルートはリクルート事件の煽りが収まらず、保守的な姿勢を維持していた時期だった。
新しい事業アイデアを挙げても、取締役会で跳ね返される日々…。そんな状況に永田は歯がゆさを感じていた。

自分のアイデアで、先に誰かに成功されたら絶対に後悔する…

主森からの起業の提案を持ちかけられたのは、まさにそんなタイミングだった。

「主森さん、ぜひ一緒にやらせてください」

こうして、株式会社ワークスコーポレーションが立ち上がった。

永田は取締役編集局長として、以前からやりたいと思っていたデジタルクリエイター向けの情報誌にチャレンジできることになった。

早速、退職願を手にメディアファクトリーの上長のもとを訪れた。

「創業メンバーとして、イニシアチブを持って挑戦できる会社が見つかりました。辞めさせてください」

「・・・」

永田は続ける。

「ニッチな情報誌ではありますが、自分でやってみたいんです」

「・・・なら、うちと兼務してくれないか。そっちはそっちでやっていいし、会社には来なくてもいいから」

特例だった。

しかし、上長がこのような話を持ち出すのも無理はない。この時、メディアファクトリーでは、新しくポケモンカードゲームのプロジェクトが立ち上がり、大きく成長しようとしていたフェーズだったのだ。

今の仕事自体には面白さを感じているし、主森との新しい会社がどうなるかわからないなか、一定の収入が確保されているのは悪いことではない。

永田はリクルートとワークスコーポレーションの二足のわらじを履く決心をした。

行き場をなくした退職願は、無意味な紙切れへと姿を変えた。

つづく。
第3話 -犬のウン- https://note.mu/showcase/n/nfb96f0b7d7ee

株式会社ショーケースの「これまで」と「これから」を描くノンフィクション小説『OLD ROOKIEs』は、毎週1話ずつ公開中!

第1話 -卒業- https://note.mu/showcase/n/nd305564958cc

https://www.showcase-tv.com/

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