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こんな夢を見た。

 僅かばかり白い雲が掛り始めた満月を私は縁側から眺めていた。右手には熱燗を左手には芳ばしい栗を摘み、橙に色を染めた葉は月明かりにその色をより紅く輝かせていた。
 私は上着のポケットから煙草を取り出し火を点け「ふぅ」と溜息まじりに煙を吐き出した。煙は宙をふわふわ舞い、影を作っては直ぐ消えた。また熱燗を口にした。
「少し飲み過ぎだぞ」
 父が私の隣りに座りそう言った。
「気分が良いんだ」
 私がそう言うと「私もだ」と父が言った。
「お前と呑むのは初めてだな」
「そうだね。酒を呑むのも、一緒に煙草を吸うのも初めてだよ」
 父は煙草を銜え微笑みを浮かべた。
「二十年か、あれから....」と父が呟くと、私は「そうだね」と熱燗を口にした。
 二十年様々な出来事があった。私は成人して父と同じ様公務員となり、父と同じ様結婚して、父と同じ様に子どもを授かることができた。思えば長く短い日々だった。それでも思い出す父の偉大さは子どもの頃感じた、その幅広で少し猫背な後ろ姿と変わりはなかった。
「そろそろ行くかな」
 父はそう言い、吹かした煙草の煙と一緒に空へ消えていった。宙を舞う父の姿はどこか寂しく、月明かりに照らされた影が思い出と共に薄れていった。
 私は父の生きた日々を進んだ。それでも偉大な父を超えたのかは分からない。落ち葉は葉脈を織り合わせ橙に紅の絨毯が、これから私が進む道を示している様だ。
 私は月を見上げ大きく煙を吐き出した。父の面影を見つける様に。

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