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161日目。【短編】姿見。

私、家に鏡が一枚もないのよ。たったの一枚も。鏡を見るのは外でだけ。

へえ…どうやって自分の格好を確認してるの?

嫌な言い方だけど、私って不細工じゃないから、最低限、自分が不潔だなって思うことを避ければどうにかなるのよ。あんまり興味がないの。何とかなっちゃうのよ。

羨ましいね。僕は不安になって見ちゃうな。鏡。

鏡を見たって自分の顔は変わらないわ。

でも、服装とか気にならない?変じゃないかなあ、とか。

気にならないと言ったら噓になるのだけれど。でも鏡で見たって分からないのよ。これが変じゃないか、変なのか分からない。ただ自分が写るだけなの。それを見て善悪判断がつかないのよ。私からすればあなたたちの方が羨ましい。だって鏡を見て自分が変かわかるのでしょう。私は鏡を見ても自分が写っているだけなの。わからないのよ。おかしいかどうか。

新しい服を買ったりとかしても、鏡は要らないと思うの?

買うときに見るでしょう。それであまりにおかしくなければもういいの。それに、あまりに変だったらあなたが言ってくれるでしょう。それでいい。

僕だって美的センスに自信がある訳じゃないから…その…もしかしたら間違っているかも…。

良いのよ。別に。あなたが変だと思わなくて、私も変だと思わなければいい。周りのすべての視線や美意識を気にして合わせるのは無理じゃない?じゃあ最低限で良いと思うの。だから別に。家でわざわざ他人の視点を取り入れることはしないわ。



そう言った彼女の目を、僕は見られなくなった。



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