マガジンのカバー画像

「ほんものの泉」奇妙で不思議なショートショート vol.3

7
星新一や世にも奇妙な物語好きにおくる、ほっこりしないモヤモヤショートショート。シュールユーモアシンプルなイラスト付。 手作りzineとして発行していたものをネット公開しました。 …
運営しているクリエイター

#ショートショート

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (1/7)

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (1/7)



丘の上に大きな屋敷があった。そこには欲ばりな男がひとりで住んでいた。男は親の遺産をうけついで、資産はたくさんあった。しかし、それだけでは満足できなかった。お金持ちというのは、えてしてそういうものだ。つきあいのあるまわりの人間も同じように裕福であるがゆえ、彼らよりさらにリッチな生活をしていないと、心が休まらないものなのだ。

実のところ、男はひとりものなので、そんなに大きな家は必要なかった。小さ

もっとみる
「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (2/7)

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (2/7)

「奇跡の泉ビジネスさ。ほら、うちの庭に池があったろう。あの池にそれっぽい像をおいたのさ。うちの息子が彫刻家になるだなんていって、くだらない置物をしこたまこさえているのは知っているだろう。売れもしないし、物置がいっぱいになってきて邪魔だったのだ。そこで、なんとなく一番でかいやつをひとつ、あの池の中央に置いてみたのさ」

「へえ」

「そうしたら、像の前でたちどまって、お祈りしだすものがあらわれた。し

もっとみる
「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (3/7)

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (3/7)

ふりむくと、うすよごれた店の軒先に、すすけた像が置いてあった。この辺にこんなさびれた古道具屋なんてあっただろうか。男はふしぎに思った。

「そんなすすけた像などいるものか……いや、まてよ」

男は、もう一度その像をながめた。

なるほど。こいつは、神秘の泉にうってつけかもしれない。ぴかぴかの像より、これくらいくたびれていた方がほんものらしく見えることもある。よくみれば、なかなか含蓄のある表情をして

もっとみる
「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (4/7)

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (4/7)

「なんと、ほんものの泉だったというのか。そんなはずがない。この屋敷がたつ前からあの泉はあったようだが、奇跡が起こるなど聞いたこともない。しかし、がっぽり稼いでくれるなら、ほんとうに奇跡があろうがなかろうが、まったくどうでもいいことだ」

男は、評判となった自家製奇跡の泉に首をかしげながらも、投げこまれた大量の小銭をみてにんまりした。

「さて、そろそろ、回収にいくとするか。うへへ」

男は誰もいな

もっとみる
「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (5/7)

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (5/7)

「おれは盗みなどしていない」

男はおそるおそる答える。すると、ふたたび声が。

「人のお金を勝手にとるのは盗みです」

どうやら、像の方から聞こえてくる。

「なんだと。これはおれの敷地内にあるのだから、おれの金だ」

「このお金はあなたのものではありません」

「じゃあ誰の金だというんだ」

「このお金はみんなのものです。お金に限らずこの世にあるものはすべて、みんなのものです。誰かひとりのもの

もっとみる
「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (6/7)

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (6/7)

夜があけて、男はこのビジネスを入れ知恵してくれた金持ち仲間のところへいき、彼の息子の作るくだらない像をひとつ購入した。そして、その像をほんものの神様の像といれかえた。

いれかえるとき、像がなにか文句でもいうのではないかと思っていたが、特にそういうこともなかった。あれは幻聴だったのだろうか。そうだな、神様なんかいるわけがない。夢でもみていたんだろう。男は少しほっとした。しかしまた、いつあの像が話し

もっとみる
「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (7/7)

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (7/7)

そんな泉ビジネスが順風満帆にすすんでいたあるとき、男は病に倒れた。これまで彼は、病気という病気をしたことがなく健康そのものだった。そのため、弱者の気持ちなど考えたこともなかったが、自分が当事者になってはじめて、こんなにも心細いものなのかとショックをうけた。

まもなく医者がやってきた。男をひと通り診察すると、医者は申しわけなさそうに告げた。

「あなたは末期の重病です。なおる見込みはありません」

もっとみる