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社内DXチームに必要な知識とは? (特に企画職)

DXの専門家は難しい立場に置かれている

先日「ビジネス側の人材にはITの知識が必要だ、それは機会を見逃さないためである」と述べました。ではDX専門組織の人間は、ビジネス側の人々が業務知識にプラスアルファして必死に勉強する間、安閑と惰眠を貪っていればいいのでしょうか。
もちろん、断じてノーです。

改めて言語化すると、DX専門組織というのも難儀なものです。ずっと事業に打ち込んでいる人たちの、これまで知恵と努力で積み重ねてきたビジネスモデルやビジネスプロセスに対して、もっとデータを使えだの、違うやり方があるだの、未来予測が足りないだの、果ては意思決定プロセスに問題があるだのと、要するにいちゃもんを付けるような存在だからです。

ちょっとDXに詳しいからって、こんなことを言う資格があるのでしょうか?
こんな人々の言うことに耳を貸す価値があるのでしょうか?

「ある」と、言ってもらわねばいけません。それに値する能力を持たなくてはなりません。
ではその能力とは何なのでしょうか。

そもそも、そのビジネスのやり方に関して詳しいのは現場であり、マネジャーであり、経営者です。DX屋がいかに学ぼうとも、歴史的経緯や過去の失敗などを含めた背景を完全に理解できることはありません。ビジネス側の人々と意見交換し、懇親会を行い、人材交流をしてみても、ヒリヒリする肌感覚の鋭さに追い付く日は来ないでしょう。仮にビジネス部門からDX専門組織にキャリアを移したとしても、いつまでも現場の感覚を研ぎ澄ましていられる訳ではありません。つまりDX専門組織の人間がその分野のドメイン知識に関して対等になる日は来ませんし、突っ込んだ話をする相手としてすら十分にならないかもしれないのです。

それに対する答えのひとつは、もちろんITの知識です。比類ないITの知識、本質的な理解と自由自在なソリューション提案能力は、ビジネスを十分に助けられます。ですが、いまその話をしたいのではありません。というのも、ITの知識だけあってもDXを成功に導けないからです。ビジネスとITを本質的に接続し、高いレベルで一体化させねばなりません。そのために必要な能力は何でしょうか。

膨大な事例は重要な武器になる

事例はそのヒントです。特に成功事例は、ビジネスの問題をITで解決したという実績であり、問題定義と解決手段が合致するという難しいハードルを乗り越えている (=Problem-Solution Fitしている) からです。
しかし、わずか数例の成功で何かを語ることはできません。全ての企業、全てのビジネスは何らかの点で固有であり、成功に至る背景を有します。その背景を詳細に理解するためには、その場に居合わせなくてはなりませんし、問題解決前の状態を体感していないといけません。ですから、少数の成功事例は確かに参考にはなるものの、それ以上に頼れる存在ではありません。
力のあるコンサルティングファームは、事例を多く知っています。成功にも失敗にも関わっています。その経験を有するがゆえに、外部で見聞きした理解よりも深く、状況に合った処方箋を提供することができるのです。

それだけではありません。事例を数多く知っていると、パターンが見えてきます。パターンとは抽象化であり、その結果として未知なる問題に適用できるものとなります。目の前の状況をパターンに当てはめて分析することにより、未来像や対応策が見えてきます。数多くの事例を知れば知るほど、安直な当てはめに陥ることなく、様々なパターンと照合して複数の未来シナリオを描くことができ、骨太な対応策を立案することができるのです。

ですから、DX専門組織にいるものは、事例を知らねばなりません。表面的な成功像ではなくその背景を可能な限り理解し、わずかの華々しい例だけでなく地味な数多くの試みを収集し、同業だけでなく広い分野の活動を知らねばなりません。そして、自社の現状を目の当たりにしたときに、当てはまるパターンがいくつも思い当たるようにならないといけないのです。ビジネス側が本気で解決したい思いを持っているのに対し、短絡的な思い付きで問題を矮小化することなく、さまざまなパターンの組み合わせを試せるようになっていることが重要です。

更に抽象化すると経営学に行き着く

ここで更に抽象化してみましょう。そもそもビジネスにおけるパターンとは何でしょうか。
ビジネスにおけるパターンとは、企業活動をよく観察し、分類した結果です。更には、置かれた状況や背景なども類型化しておくことでもあります。

これは、経営学にほかなりません。
経営学とは、戦略とか組織とか、その他さまざまな企業活動をつぶさにかつ大規模に観察して、結果的に見出した共通の要素やその原因を論じる学問です。まだDXを包括的に論じた研究は少ないかもしれませんが、要するにDX推進の専門家が身に着けるべきスキルは経営学の類であると言えるでしょう。

例えばマーケティングのDXを考えるとき、その商品、自社の顧客、ブランドイメージ、営業部隊の特性などの知識に関して、自社のマーケターを超えることはありません。先に述べたとおりです。しかし、いきなり機械学習の知識を披露したり、唐突にデジタルマーケティングの事例を振りかざしたりしても、何のインパクトも与えられません。問題と解決策は合致しないし、それ以前に提案の意味が伝わらないからです。
ですから、まず自社の状況を聞いて理解しないといけません。どういう競争戦略を取っているのか。他社と比較してケイパビリティは勝っているのか。ブランド的にどのポジションと位置付けているのか。営業リソースはどの程度か。そうやって、まずはデジタルより一段上の目線でビジネスの大きな課題を共有します。そのうえで、その課題を解決してきたような事例、あるいはその課題を解決できそうな技術の話に移ります。一足飛びに解決策に飛びついても、大抵は後で勘違いが判明します。いきなり詳細を話しても、解決後にインパクトの小さな問題と判明します。そうではなくて、目の前のビジネスがそもそも何なのか、本当の課題はどこに隠れているのか、いったん一般化して双方が納得したうえで各論に戻る。それをしない限り、労多くして益の少ないDX活動を繰り返し、いずれ見限られることになるでしょう。

新しいものの見方を提供するためにDX専門人材が存在する

ビジネス側の人に、語るに足ると思われないといけません。その価値は、ビジネスの本質的な理解を提供することにあります。本質的というのが言い過ぎなら、新たなものの見方と言う方がいいかもしれません。各論に関して自分の方が詳しいにも関わらず、その人と話すと現状が整理され、長年やってきた仕事にも関わらず新たな発見がある。そう思われるのが理想です。
そして、その新たなものの見方がそのままデジタルという解決策に繋がっている場合には、DXの成功は約束されたようなものです。

しかし一部の営利主義が行き過ぎたコンサルティングファームはここにトリックを仕込んでおり、自社のソリューションに合うように現状の解釈を捻じ曲げることがあります (たいていは一部を誇張し一部を過小評価することで印象を誘導する形です)。そういう工作が露見すると、語るに値しない人にカテゴライズされ、二度と信頼を回復することはできなくなります。コンサルティングファームなら出入り禁止で済みますが、内部のDX専任組織ではそうはいきません。幸いなことに、外部の営利企業とは違って、社内のチームはビジネス側と利害を共有する同じ船に乗っていますので、そういった誘導工作をする理由はありません。だからこそ真に価値のある提案ができるのですし、そうしなくてはならないのです。

少し長くなったので結論をまとめましょう。
DX専任組織の人は、ドメイン知識でビジネス側の人に追い付くことはないと思われます。それにも関わらず、ITの知識のみにとどまっていてはDXは進みません。したがって何らかの形で、その分野のビジネスの話ができる必要があります。
そのためには、事例が有効です。有名な事例の印象に引きずられ短絡することがないよう、多くのケースからパターンを見出しておかねばなりません。また経営学も有効です。ビジネスをパターン化し原因や対応策を論じるにおいて、経営学の知見を使わない手はありません。
これらの知識をもって問題の大局をとらえ、新たなものの見方を共有し、それからおもむろに解決策を論じるという順序が重要です。そういったコミュニケーションを通じて、ビジネスを営む人々の世界観が変わらなければ、解決策は単なるツール導入の域を出ないでしょう。

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