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スピルバーグの闇を見た『フェイブルマンズ』

私、子どものころは怖がりで、いろいろ怖かったんですが、そのうちのひとつが『宇宙』でした。
果てしない。壁がない。そんなこの世のものとは思えないものが事実この世に存在して、しかも、私達はその中に生きているって、そんなの絶望しかありませんした。夜な夜な考えては一人枕を濡らしたものです。もちろんUFOや宇宙人の類も大の苦手でした。

だけど私は人前では、怖いものなど何もない、という態度を取り続けたいタイプでした。親などに「●●が怖い」と口が裂けても言わない子。ほんと、幼少時代に人前で泣いた記憶なんて、ほとんどありません。

で、何が言いたいのかと言うと、父に連れられて銀座の映画館で観た『E.T.』は、それはそれは最悪でした。
館内の暗闇に紛れて、ほとんど目を瞑っていたと記憶します。
でも、見たい気持ちもあるんです。まさに怖いもの見たさです。だから、時々、うっすら目を開けるんだけど、しわっしわの肌色の目玉おやじみたいな生き物にギョッとして、また、目を瞑ってしまう。その繰り返しでした。

可愛いとか、嘘でしょ?


映画館を出て、父におもむろに人差し指を差し出された時も、「え? は? なに?」って感じでした。あまりに目を瞑り過ぎて、かの有名な『人差し指のシーン』もまったく記憶にありませんでした。もちろん自転車が空を飛んだと言われても、「え?飛んだっけ?」というテイタラクです。

私にとってスピルバーグとは、そんな怖い映画を作る人です。
私が今までの人生で「怖い」と感じたものを、その怖さを強調するように映画にする人、という感じなんですよね。
海(ジョーズ)とか、恐竜(ジュラシック・パーク)とか、戦争とか(プライベート・ライアン)とか、アウシュビッツ(シンドラーのリスト)とか。怖いんだけど指の隙間からこっそり見たくなるような。そんな恐怖心を煽る人。善人みたいな顔してそういう映画をつくる人。私にとっては決して、夢やファンタジーの人ではありません。

なんてことを想いながら観に行った『フェイブルマンズ』は、映画というものに心を奪われた幼少期から少年期を描いた、スピルバーグの自叙伝的映画です。

冒頭、少年が、両親に連れられて初めて映画『地上最大のショウ』を観に行くシーン。そこで少年は電車が車に衝突して人も車も吹っ飛ぶシーンに心を持っていかれます。
ずっと忘れられず、お父さんにハヌカ(ユダヤ人のクリスマス的行事)のプレゼントにプラレール的な電車のおもちゃを買ってもらいます。
真夜中にこっそり、人形を乗せたおもちゃの車と激突させて遊びますが、両親に知られて怒られます。だけど、お母さんに「もう一度だけ激突させて、それをビデオカメラに撮ろう。そうしたら何度でも激突のシーンが見られるから」と提案されるんです。それが、少年が映画というものに夢中になるきっかけです。

真夜中に暗い部屋でひとり、電車を人形の乗った車に激突させてワクワクしている少年を見て「ああ、これだ!」と思いました。
やっぱり、スピルバーグは怖い人。スピルバーグの闇。
あそこでお母さんがビデオカメラを持たせずにいたら、そのまま近所のネコとか傷つける大人に育ちそう。ほんと、ビデオカメラ持たせて良かったです。

『フェイブルマンズ』は全然怖い映画ではありませんけどね。
むしろ、完璧な映画に思えました。
スピルバーグクラスの監督が年齢を重ね、自分にはそんなに長い未来はないことを悟り、いざ、自分の家族やヒストリーを描くとなったら、ここまで完璧に仕上げてくるものかというほど、王道な映画の完成形を観せられた気がします。


無駄なシーンがひとつもない。
ダラッとする箇所がひとつもない。
ま、あまりにも完璧すぎて、その完璧さが、なんだか、ひと昔前の映画という感じもしてしまったのは、私が最近『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にハマったからですかね?

お母さんがいいです。
これでお母さんが普通にいい人で、息子の夢を純粋に応援していたら、すごくつまらない映画になったと思います。というか、もしそうだったら、スピルバーグも映画にしなかったと思いますが。

お母さんはピアノの才能がすごくある芸術肌の人で、子供たちを愛しているし、夫のことも大切に思っているけど、どうしても自分の本能というものに逆らえない人で、結果、家族を壊してしまうんですけどね。だけど、そんな自由な人が一番近くにいたらから、スピルバーグも心を自由にして映画監督という本当にやりたいことに取り組めたんだろうな、と感じます。

そんなお母さん役をミシェル・ウィリアムズが上手に演じています。
だけど、私にはずっと大竹しのぶに見えました。
だからなんだ、という話では全然ないのですが、終始「ああ、大竹しのぶだなー」と思いながら見ていました。

この映画の一番の感想は「ミシェル・ウィリアムズが大竹しのぶだった」です。

どのくらい、大竹しのぶっぽいのか?

ご興味ある方は、ぜひ、映画館で確認を。

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