データを眺めているだけでは分からない、その商品を買った本当の理由
マーケティングやブランディングの仕事をしていると、普段の買い物もつい仕事目線で分析してしまうクセのようなものがあります。
先日、10年ぶりにレンタルビデオ屋さんに行ったのですが、「あ、これがジョブ理論か!」と勝手に分析していたことがありました。
そこで今回は、ジョブ理論を参考にしながら、日常生活で簡単にできる発想トレーニングについて書いてみたいと思います。
レンタルビデオ店に求めているもの
まず、自分自身の買い物体験について書きたいと思います。
最近、近所にある全国チェーンのレンタルビデオ店で、10年ぶりに会員カードを作り直しました。
昔はよくDVDやCDを借りていましたが、映画も音楽もすっかりサブスクに移行してしまい、会員カードもどこかにいってしまっていました。
そんな私が、なぜ10年ぶりに会員カードを作りなおしたのか。その理由は、マンガのレンタルがしたかったからです。
そのお店では、1冊100円前後でマンガのレンタルを行なっています。私はこの数ヶ月で、「呪術廻戦」や「東京リベンジャーズ」など、毎回10冊ぐらい借り続けています。
数年前からそのお店でマンガをレンタルしていることは知っていました。それに、私自身はマンガの熱狂的な大ファンというほどでもありません。
ではなぜ、急にマンガを借りるようになったのか。それは、睡眠の質を向上させたいと思ったからです。
実は、昨年の秋頃、寝る前にソファで寝そべりながらスマホで映画を見ていたら、首が痛くなってよく眠れなかった・・という時期がありました。
ただスマホを見る姿勢が悪かっただけだと思うのですが、それを機に、夜9時を過ぎたらスマホを見ない「デジタルデトックス」ルールを設定することにしました。
その結果、よく眠れるようにはなったのは良かったですが、9時以降にやることがなくて、暇になってしまいました。
とはいえ、9時は、寝るにはまだ早い。子どもたちが勉強しているので、テレビもつけられない。
そのような困った状況の中で、「アナログな方法で、9時以降の暇な時間を紛らわせたい」という欲求を満たすためにマンガをレンタルしたのです。
ジョブ理論とは何か
ここで、ごく簡単にジョブ理論について説明します。
ジョブ理論とは、『イノベーションのジレンマ』で有名なハーバード・ビジネススクールのクリステンセン教授が提唱した、イノベーションを生み出すための方法論です。
クリステンセン教授は、なぜ顧客がその商品を購入したのか、その原因を見つけることが大事だと言います。
普通、消費者何かを買う時、その原因を深く考えたりはしません。「なんとなく美味しそうだから」「安くなっていたから」といった程度です。
買い物を楽しむ消費者側であれば、それで問題ありません。しかし、イノベーションを産み出す側になりたいのであれば、さらに踏み込んだ分析が必要です。
ジョブ理論の中心的な問いかけは、こちらになります。
「どんな『ジョブ(用事、仕事)』を片づけたくて、あなたはそのプロダクトを『雇用』するのか?」
商品の購入を、「ジョブ」を解決するために商品を「雇用」していると見立てるのが、ジョブ理論です。(私は、目的達成のためにゴルゴ13を雇う雇い主みたいな感じ、と頭の中でイメージしています)
顧客のジョブが明らかになれば、その解決策が分かってきます。
そして、もしも現状が・・
・ジョブに対する解決策として、満足いくものがまだない!
・解決策はあるが、余計なものが多くてオーバースペックになっている!
といった状態になっていたら、そこにイノベーションの芽があります。
このように、顧客のジョブに着目することで、「イノベーションのジレンマ」に陥らずに、イノベーションを生み出すことができるというのが、ジョブ理論のごく簡単な説明です。
データから「ジョブ」は読み取れない
さて、話をレンタルビデオ店の話に戻したいと思います。
クリステンセン教授は、イノベーションを生み出すのは「結果」ではなく「原因」の特定が重要だと言います。
レンタルビデオ店は、データを見れば、長らく休眠状態だった40代の男性(私のことです)が急に復活して、毎週のように少年マンガを借りているという「結果」は把握できます。しかし、なぜ急に復活したのか、その「原因」はよく分かりません。
少年マンガ好きというデータを元に、「少年マンガ10%オフキャンペーン」などで、より多くのレンタルを促そうとするかもしれません。
でも、私は「もっとお得に少年マンガが読みたい」というわけではありません。それよりも、読みたいマンガが尽きてしまった時のために、次なるアナログな方法が欲しいのです。(ちなみに、なぜか活字の本は、夜に読む気になれません・・)
例えば、ジグソーパズルとか、プラモデルとか、そういうレンタルがあったら、マンガの代わりになるかもしれません。あるいは、家が広ければ、暖炉をレンタルして、炎をぼーっとながめるのもよいかもしれません。
つまり、私のような顧客が抱えている「ジョブ」を見誤ると、間違った商品やサービスを提供してしまうかもしれないということです。
さらに、これは私一人だけが抱えるジョブではないかもしれません。
私のように、デジタルデトックスを意識する人は以前より増えているような気がします。しかし、それに対応する良い解決策は、まだそこまで揃っているように思いません。
つまり、「アナログな暇潰しを提供する」というイノベーションの芽が、私のようなユーザーを分析することで見えてくるのでは・・・と、つい自分の買い物を分析してしまったわけです。
すぐできるジョブ分析トレーニング
このような分析は、データだけを眺めていてもなかなか見えてきません。顧客の行動を深く観察したり、話を聞いたりする必要があります。
しかし、顧客の「ジョブ」を言い当てるのは、簡単なことではありません。なので、まず、自分自身の買い物でやってみよう、というわけです。
意外と、自分自身の買い物行動も、その「原因」まで深く考える機会はありません。しかし、どんな買い物も、その奥底には何らかの原因、つまり片付けたいジョブがあるはずです。
ですので、普段から、自分自身の「ジョブ」を特定するトレーニングしておくとよいかもしれません。
みなさんも、何か買い物をした時には、以下の質問を自分に投げかけてみてください。
「どんな『ジョブ(用事、仕事)』を片づけたくて、わたしはそのプロダクトを『雇用』したのか?」
ちなみに、この問いは、プロダクトの購入ではない場合も有効です。例えば、今、このnoteを読んでいるあなたに、こんな問いも成立します。
「どんな『ジョブ(用事、仕事)』を片づけたくて、あなたは、あなたの貴重な時間を使って、このnoteの記事を『雇用』しているのか?」
お金や時間など、限りある資源を投下しているからには、かならず何らかの片付けたいジョブがあるはずです。つまり、トレーニングの機会は、日常に溢れているわけです。
ぜひ、挑戦してみてください!
※私は、気になった記事をストックするという「ジョブ」のために、Twitterを「雇用」して、毎日コメントをつけております。
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