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ヒロアカがなんとなく面白くないと言われる理由をちゃんと考える

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意識が高すぎる『少年ジャンプ』というテーマを本noteでは何回か扱ってきました。今回は、意識が高すぎて読者とすれ違いが起きている漫画、『僕のヒーローアカデミア』を考察してみたいと思います。

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(多少のネタバレを含みます。ご注意ください。)

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過去のnote

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「ヒロアカ」は、面白くない?

「ヒロアカ」こと『僕のヒーローアカデミア』がつまらない/ 面白くないといった意見や考察を集めたネット記事は既にいくつかあります。

多くのネット記事には ・ストーリーが王道すぎる ・ギャグがつまらない ・ヴィラン(敵)が弱すぎる
・プロヒーローが弱すぎる
  みたいなことが、書かれているんですが、それは違うかもしれません。

「ヒロアカ」のストーリーは、実は王道ではないし、善と悪は複雑なんですね。ということで、「ヒロアカ」がつまらないと言われる本当の理由
意識が高すぎてストーリーが誤解されているを解説したいと思います。

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「ヒロアカ」のストーリーは 邪道 ?!
「アンチヒーロー社会」系!?


「ヒロアカ」は、その絵柄やキャラデザ、高校という設定、ヒーローvsヴィランの敵対構図から、王道ストーリーだと思われていますが、そうでもありません。
気弱な主人公がある日スーパー能力を手に入れて、駆け上がっていく姿は王道ですが、例えば、ヴィランたちは徹底的に邪道に描かれていることが分かります。純粋に悪と呼べないヴィランが多いのです。

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ヒロアカのヴィランたち
• ステイン (オールマイトの熱狂的な信者)
• ジェントル・クリミナル (義賊、犯罪行為をネットにアップロード)
• オーバーホール (ヤクザ、指定敵団体、薬の開発)
• リ・デストロ (ヒーローをサポートする商品販売の会社を経営、異能=個性の自由解放派)
• レディ・ナガン (元 公安警察のヒーロー、ヒーロー社会と法治国家の闇に触れ、敵に)
• ヴィラン連合 (ヒーロー関係者、血縁者多数)
• ヴィランテ (自警団、スピンオフで展開されている非合法のヒーロー)

改めて見ると、安易に悪と言い切れないモヤモヤするラインナップです。強大で悪い敵ではなく、ヒーロー社会を根本から揺るがす経歴や思想の人だけが、メインの敵として登場しています。
こう考えると、「ヒロアカは敵が弱いからつまらない/面白くない」という意見が言葉足らずだったことが分かります。ヒロアカの敵は、あえて弱いです。ヒーロー社会を揺るがすことが敵の目的ですから、純粋な力自体は弱いほうが印象的にうつります。そもそも毎日トレーニングしているヒーローと、そうでないヴィランが同じ強さであるほうが不自然ですらあるんです。ちなみに、「プロヒーローが弱すぎる」というのは、「ヴィランを高校生のヒーローが倒せてしまう」ことから連想した意見だと思います。


これは僕が最高のヒーローになるまでの物語だ

『僕のヒーローアカデミア』第 1 話より

ヒロアカの第1話では、主人公がこんな台詞を言っています。この台詞で、読者はもちろん王道ストーリーを期待するんですが、待っているのはそんな真っ直ぐな話だけではありません。正しいかもしれないヴィランを倒してしまうヒーローの葛藤がヒロアカには描かれています。

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「アンチヒーロー」と「ダークヒーロー」の違いはどこなのか?

アンチヒーローとは、ヒーロー社会に懐疑的なヒーロー作品のことで、善と悪が明確でないことが特徴です。対して、ダークヒーローは、善と悪が明確で、非合法な方法でだったり、世間に認められないまま戦ったりするヒーロー作品です。ダークヒーローは「世間にバレたらいけない」が物語上重要なキーになっていることが多いと言えます。
海外でダークヒーローと言えば『バットマン』です。欧米的なノブレスオブリージュ的価値観から闇に溶け込み、敵と戦います。日本的なダークヒーローは、古くはねずみ小僧の伝説から、必殺仕事人、デビルマン、妖怪人間ベム、ゲゲゲの鬼太郎、地獄少女、などが代表的です。
社会の格差をなくす目的の義賊的なものが昔から人気なことが分かります。しかしそれでも、日本人的には、良心が傷むし、罪悪感もあるのでしょうね。多くの物語では、悪い人の元には妖怪的なものが勝手に来て、何か悪いことが起きるという教訓的なものになっています。

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大人気漫画家が描いているのに、
絶対にヒットしない「アンチヒーロー系」


ヒロアカのようにヒーローのいる社会を、マスコミやアイドル文化のある現代社会(やらせ、癒着、政治、等)に例えて、描いている漫画作品は実は多いのかもしれません。しかし、必ずヒットしないです。

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大人気漫画『五等分の花嫁』の作者、春場ねぎ先生の『戦隊大失格』という作品があります。これは、「主人公にショッカー(敵)側の人間がいて…」という話なのですが、まさにアンチヒーロー社会系そのものです。ただ、評判はあまりよくはありません。
さらに、大人気作品『東京喰種』の石田スイ先生の『超人X』という作品もあります。これは、現在9話まで進んでいるのですが、まだ世界観の謎が多く、敵と味方と世間の関係が不明瞭なまま描かれる不思議な作品です。こちらも賛否が多いと言えます。
続いて、有名な作品ではありませんが、『改造公務員リーパーズ』という作品も特徴的です。まさにアンチヒーローものという内容で、ヒーロー社会とマスコミの罪を暴いていきます。

アンチヒーロー系漫画の特徴は、読者が期待した内容と、作者と編集部の作りたい作品にギャップが大きいことかもしれません。でも、それを簡潔に言うと「つまらない / 面白くない」になることがあるのです。

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結局、求められる「王道ヒーロー」と、
女性も好きな「ダークヒーロー」もの


漫画編集部が、読者の受けの悪い「アンチヒーロー社会」系の漫画をなぜ作るのか? の答えを身も蓋もなく言えば、彼らの意識が高いからです。編集部がエリートで頭がいいからとも言えるかもしれません。

善と悪が不明瞭であったり、現代社会をメタファーしたりした作品に価値があると思ったり、深く考えられる作品が良いと思ったりするんです。加えてもしかすると、「王道のヒーロー」すぎると子供向けになってしまうし、「ダークヒーロー」すぎると女性読者が得づらいという懸念もあるのかもしれません。

ただ「ベタな(王道の)ものが良い」や「気兼ねなく泣ける作品が良い」ファンもたくさんいることは編集部は知っているので、バランスを取ろうと試みます。しかしその結果、難しい内容になりすぎない代わりに、面白さも分かりづらく、難しい話が好きなファンに届いていないという事態になりやすいのです。

アンチヒーロー系の漫画には、悲しい事態がもう一つ起きています。それが、大人も楽しめる王道ヒーロー作品や、女性も楽しめるダークヒーロー作品の大ヒットです。
超王道でステレオタイプに駆け抜けた『鬼滅の刃
』は、大人も含めた歴史に残る大ヒットをしています。『呪術廻戦』と『チェンソーマン』は、女性人気も高い大ヒット作品です。(※ 中二病は引かれることが多いですが、グロやホラーの女性人気は昔から高いという説があります。) さらに言えば、『Dr.STONE』という女性人気も高いなろう系(≒王道) まで、今の少年ジャンプ本誌にはあります。

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「アンチヒーロー系の漫画は、分かりづらく面白くない」という風潮は、まだまだ加速しそうです。アンチヒーロー系漫画が好きな読者はいないのでしょうか?

個人的には、 2022年の『TIGER & BUNNY 2』がどう受け入れられるのかが気になるところです。

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やっぱり、スベってるかもしれない、
「ヒロアカ」 の ギャグ ??

さて、世間のヒロアカつまらない論の本当の理由を考察してきましたが、まだ語れていない部分があります。それが、ヒロアカのギャグがつまらない説です。

ヒロアカで特に賛否が分かれるギャグ??に、
「ガッポイ (学校っぽいの略) 」があります。

ギャグシーンではないのかもしれませんが、度々読者から「気持ちがわるい」と言われるのが、この「ガッポイ」です。結論から言えば、「ガッポイ」は意識が高すぎて、分かりづらい台詞と言えます。
「ガッポイ」が出てくる前提となっているのは、主人公たちが通う超エリート高校です。ヒーローを目指す学校のため、頭も良く、性格はさらに良く、スポーツもできるというのが、登場キャラクターたちの共通点になっています。どれくらい意識が高いかというと、クラスで学級委員長を選ぶときには、全員が自分に投票して委員長になろうとするほどです。

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ヒロアカでは、そうした意識の高さの異常っぷりがギャグや可愛らしさになっている場合があり、その一つが「ガッポイ」といえます。素直で、性格の良い子たちであるがあまり、学校っぽいことを「ガッポイ」とクラス全員で叫んで喜んでしまうんです。

意味が分かると面白いんですが、純粋に分かりづらいんです。ネット上には、「作者がガッポイことを全く経験せずに虚しい学生生活を送ってたのが伝わってくるから気持ち悪い」なんて意見まであります。分かりづらい上、単純に共感しづらいんですね。ギャグにしてはすこし難しすぎたのかもしれません。

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まとめ

ネット上で言われるヒロアカの面白くない理由、ストーリーが王道すぎる / ギャグがつまらない / ヴィラン(敵)が弱すぎる / プロヒーローが弱すぎる に対して、その真意を考えてみました。
総じて、話を難しくしたいのか?したくないのか?のバランスを取るのに苦労しているイメージはありますが、それも含めて面白いです。

個人的には、意識の高すぎるジャンプ編集部は
大好きなので、決して王道だけじゃない、読者以上に多くの漫画家・クリエイターに影響を与えるような作品をこれからも生み出し続けてほしいと思っています。ありがとうございました。

memo. 
途中、呪術廻戦やチェンソーマン、鬼滅の刃の話をしましたが、それらがヒットする前は、世間がここまでベタで王道なものの消費を好むとは、考えられていなかったと思います。漫画は、連載スタートからヒットするまでに何年もかかる作品なので、SNSベースの消費スピードや価値観の変化がここまで早いとは思いもよらなかったはずです。ヒロアカの連載開始時のTwitterの環境と、今のTwitterの環境はずいぶんと変わりました。単純にユーザーが増えていると思います。ベタで王道な作品が好まれる傾向はまだまだ続きそうです。

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