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脳と食:ブレインフード。今のところのすべてを解説

はじめに

脳やメンタルに良いとされる食べものや食べかた(食事法)を、「ブレインフード」といいます。

食育でよく言われることですが…。
「何を食べるか」はもちろん重要ですが、それだけでは足りません。
「どう食べるか」も大切です。

野菜を十分に食べることは健康に良いと言われています。
いっぽう、ジャンクフードは健康に良くないと言われています。
つまり、世の中には「体に良い食べもの」と「そうでない食べもの」があることになります。

しかし、「食べもの」にだけ注意していればよい、というわけではありません。

規則正しく食事をとり、よく噛むことは、健康に良いと言われています。
いっぽう、食事が不規則だったり深夜に食べたり、あまり噛まずに飲みこんだりすることは、健康に良くないと言われています。
つまり、世の中には「体に良い食べかた」と「そうでない食べかた」があることになります。

「食べかた」にも注意をはらうのが望ましいのです。

以上をまとめると

  • 何を食べるか = 「食べもの」

  • どう食べるか =「食べかた」

両方がセットになってはじめて、「食育的にOK」ということになります。

実際には、「食べもの」「食べかた」の正解はいろいろあるようです。

  • 日本の食育おばさんが説教する「食べもの」「食べかた」

  • ハラル食(イスラム教の食事)で正解とされる「食べもの」「食べかた」

は、同じではありません。

  • ベジタリアンやビーガンの「食べもの」「食べかた」

  • ファスティングを信奉する人の「食べもの」「食べかた」

  • ローフードの「食べもの」「食べかた」

  • 糖質制限の「食べもの」「食べかた」

…それぞれ、違っています。

さて、さまざまにある「食べもの」「食べかた」の中で、とくに
「脳」のために良い
とされる「食べもの」「食べかた」があります。
これには「ブレインフード」という名前がつけられています。

今回は、「ブレインフード」についてこれまで明らかになっていることを、できるだけ体系的に解説したいと思います。

ブレインフードで受験勉強

「脳」のために良い、とはどういうことか

「脳」のために良い「食べもの」「食べかた」のことを総称して「ブレインフード」といいますが、ではそもそも、「脳に良い」というのは何がどのように「良い」のでしょうか?
脳のために良い、の「良い」が意味することは主に4つあります。

  1. 頭がよく働く、理解力がある、記憶力がある、という「頭の良さ」

  2. 集中力がある、気分が落ち込まない、イライラしない、などの「気分や感情の安定」

  3. 若々しい脳を保つ、という「認知症予防」

  4. 脳細胞を傷めたり傷つけたりしない、という「脳の疾患の予防」

これらはむろん相互に関連してはいますが、意味としてはそれぞれ独立しています。

脳を1台の自動車に大雑把にたとえると、上記の4つの要素は

  1. エンジンが優れている(スピードが出る、加速がスムーズなど)

  2. ハンドルやアクセル、ブレーキが優れている(運転しやすい)

  3. オイル系統や電気系統、タイヤが優れている(故障しにくい、パンクしにくい)

  4. ボディや窓ガラスが丈夫(人間が怪我をしにくい)

に、おそらく対応します。

脳の働きと自動車の働き

ブレインフードが目指す「脳に良い」の「良い」は、これらの
「頭の良さ」
「気分や感情の安定」
「認知症予防」
「脳の疾患の予防」
をひととおり含めた、広い概念となっています。

ブレインフードという考えの背景にあるものとは?

「衛生要因」「動機づけ要因」という言葉をご存知でしょうか。
もともとはマーケティングの用語ですが、ブレインフードを理解するにも便利な言葉です。

衛生要因と動機づけ要因

「できていて当たり前。できていてもプラスにならないが、できていないと大きなマイナスになる」
というものを「衛生要因」といいます。

たとえば飲食店のお手洗いは、清潔感があるのが当たり前とされます。
清潔感があっても特長にはなりません。
「当店はお手洗いが清潔なんですよ!」
とさかんにPRしても、客は増えません。
しかし、お手洗いに清潔感がない飲食店は、それだけで客が減ります(たまに例外もあるようですが)。
お手洗いが清潔かどうかは、「衛生要因」に該当します。

いっぽう、動機づけ要因とは、前述の衛生要因と違い、
「できていると、プラスになる」
というものを指します。

飲食店の例でいうと、

  • 料理が見た目にも美しい

  • 食材選びに工夫をしている

  • 雰囲気が良い

  • 料理人のトークがおもしろい

  • 金曜になるとマジックショーが開かれる

といったことは、客を引き寄せます。
つまり、「動機づけ要因」になります。

食事は衛生要因、それとも動機づけ要因?

食料が不足している時代には、一部の権力者や富裕者を除き、人間にとって食事は「食べないと生きられない」ものでした。
食べたからといって、より充実した人生が送れるとは限らないけれど、食べなければ、命を失う。
人類の歴史の大部分において、食事は単に生きのびる手段、「衛生要因」でした。

その後、文明の発展により食料不足が解消してくると、「美味しさを求めて食べる」「食の楽しみ」という側面が大きくなります。
かつては生きのびる手段だった食が、今度は楽しむ手段に変化します。
食事は「動機づけ要因」に変わりました。

さらにその後、おなじ食事でも「健康に良い食事、悪い食事」があることがだんだん分かってくるにつれ、食事に「美味しさ・楽しみ」に加えて「ヘルシー」という価値が加わります。
食事はますます「動機づけ要因」になっていきます。

しかし、そこで終わったわけではなく、近年さらなる変化が起こりつつあります。
「目的に合った食事」という新たな価値が誕生しました。

  • ダイエット、という目的に合った食事

  • スポーツ、という目的に合った食事

  • 妊活、という目的に合った食事

といった食事のあり方が、話題になるようになってきました。

実際、「ダイエット 食」で検索すると、さまざまな食材、食事法が紹介されているのがわかります。
「スポーツ」でいえば、いまやプロのアスリートやオリンピック選手の食事を専属の管理栄養士がサポートするのは当たり前になっています。
ハーバード大学は「妊活」のための食事メソッドを開発しています。

ブレインフードの位置づけ

「目的に合った食事」の登場は、食事の「動機づけ要因」としての性格をますます強めることになりました。
ブレインフードは、そうした「目的に合った食事」の1つとして考えられています。

すなわち、

  • 頭が良くなりたい

  • 気分を落ちつけたい、穏やかな気分でいたい

  • 認知症になりたくない

  • 脳の病気(脳卒中や脳梗塞など)になりたくない

などの目的に対応し、ブレインフードは

  • 何を食べたらよいのか

  • どう食べたらよいのか

  • どんな食生活を送るべきなのか

という観点から、答を提供しています。

ゴールデンミルク

ブレインフードのはじまり

人類がブレインフードという言葉を最初に使ったのはいつなのか、よく分かっていませんが、人々がこの言葉をよく口にするようになったのは、21世紀に入ってから。

2003年に WHO(世界保健機関)が、
「食事の良し悪しで、人間の知的生産性が大きく違ってくる」
というレポートを出しています。
WHO はまた、人間の知的生産性を高める食材として

  • ナッツ類(クルミ、アーモンドなど)

  • チョコレート(カカオ)

の3つをノミネートしました。
いわば、「世界3大ブレインフード」というわけです。

その後、多くの科学者が「食と脳の関係」「栄養素と脳の関係」についてさかんに研究を進めました。
国家レベルでの研究も始まっており、たとえばアメリカの場合、

  • オバマ大統領(当時)のリーダーシップで1億ドルを超える国家予算が脳の研究に投じられることになりましたが、そこにはブレインフードの研究も含まれています。

  • 国防省も「兵士のメンタルを強くする」目的でブレインフードの研究を独自に行っていると言われています。

2012年には、
「チョコレートを多く食べている国ほど、ノーベル賞受賞者が多い」
といった統計が発表され、話題になりました。

どんなことが分かってきたのか?(ブレインフードの知識体系)

ブレインフードの研究はまだ歴史が浅く、発展途上であるため、分かっていないことも多いのが現状です。
しかしこれまで分かってきたことを整理すると、大雑把に4つに分かれます。

脳と糖質

脳の大きさは体重の40分の1にすぎませんが、体が必要なエネルギーの5分の1を消費しています。
脳のエネルギーの源はブドウ糖です。
ならばブドウ糖のもとになるもの(糖質)をどんどん食べればよいのか、というとそうではなく、そんなことをすると食後血糖値が急上昇し、さまざまな健康被害につながることも判明しています。
もとには限度がある、適度がある、ということです。

脳と脂質

脳の半分以上は脂質でできています。
また、脳細胞は脂質の膜で覆われています。
この脂質がどんな脂肪酸で構成されているかにより、脳の機能が違うことが分かってきています。
好ましい脂肪酸の多い食事をすれば脳の機能は良好に保たれるが、好ましくない脂肪酸の多い食事をすれば、脳の機能は低下するというわけです。

脳と抗酸化物質

思考したり記憶したりすれば、脳は活発に活動しますが、その際に活性酸素(フリーラジカル)が大量に発生します。
活性酸素はそのまま放置すると脳細胞を傷つけるなど「悪事」を働くので、ビタミンEなどの抗酸化物質によって活性酸素を退治する必要があります。
脳内に抗酸化物質が潤沢にあるかどうかは、食事により左右されます。

血液脳関門

脳内の毛細血管は、特定の物質しか通さない性質を持っています。
いわば、脳と体を結ぶ途中に「関所」があるようなもの。
これを「血液脳関門」と呼びますが、この血液脳関門があるために、食事で取り入れた栄養素は必ずしも全部が脳に届くわけではありません。
途中でブロックされる栄養素もあるのです。
こうしたことを受け、血液脳関門の性質を理解したうえで食事をする必要があることも、徐々に理解されるようになりました。

ブレインフードに該当する食材

前述した

  • ナッツ類(クルミ、アーモンドなど)

  • チョコレート(カカオ)

は「3大ブレインフード」とも呼べるものですが、これ以外にも、

  • アボカド

  • カキ(オイスターのほうのカキ)

  • セロリ

  • ビーツ

  • ウコン

などが人間の知的生産性を高めたり脳の健康維持に役立ったりする食材として、疫学研究(※)が進められています。

(※)疫学研究:おおぜいの人間(=集団)を対象に、食と健康の関係などを調べること

ブレインフードの実践

ブレインフードの知識は、以下のような分野での活用が期待されています。

受験

  • 受験生の保護者がブレインフードについて知ることで、家庭での食事を工夫することができる。

  • 学習塾などがブレインフードについて理解することで、たとえば受験生の夏合宿を行う場合に、合宿中の食事メニューにブレインフードを取り入れることができる。

  • 資格試験(宅建、簿記など)にチャレンジしている受験生がブレインフードの知識を持つことにより、自分自身の食生活を変えることができる。

認知症予防

  • 家庭での日々の食事にブレインフードの知識を取り入れることで、認知症予防につなげることができる。

  • 介護施設などで提供される食事にブレインフードの知識を取り入れることで、認知症予防につなげることができる。

仕事の能率向上

  • 会社員がブレインフードについて知ることで、日々の食生活が変わり、(集中力を高めるなど)仕事の能率向上につなげることができる。

  • 社員食堂を持つ企業の場合、社員食堂のメニューにブレインフードを取り入れることが考えられる。

  • オフィス街の飲食店経営者がブレインフードについて学ぶことにより、ビジネスパーソンのためのブレインフード・メニューを考案することができる。

メンタルヘルス

  • カウンセラーなどがブレインフードについて知ることで、カウンセリングに加え食事のアドバイスもできるようになる。

脳疾患予防

  • 日々の食事にブレインフードの知識を取り入れることで、脳疾患予防につなげることができる。

  • 介護施設などで提供される食事にブレインフードの知識を取り入れることで、脳疾患予防につなげることができる。

ブレインフードで認知症予防

ブレインフードの未来

研究サイド

ブレインフードの研究は始まったばかりとはいえ、今後ますます関心が高まることが予想されます。
現在のところは、「何を食べたらよいのか」についての研究が主に行われていますが、
いつ食べたらよいか」
についての研究もこれから増えるでしょう。
「いつ食べたらよいか」の研究は「時間栄養学」とも呼ばれ、急速な発展が期待されている分野です。

食育サイド

ブレインフードという概念が広がるにつれ、それを楽しむためのさまざまな食べかた(レシピなど)が提案されてくると思われます。

たとえば、アーモンドミルクにウコンのパウダーを混ぜた飲み物があります。
黄色がとても鮮やかなため「ゴールデンミルク」という名前がついており、健康志向の高いニューヨークの人々に愛飲されています。
もともとこれはブレインフードを楽しむために開発された飲みものの1つ。

前述したようにビーツはブレインフードとされています。
ただ、せっかく色鮮やかなビーツなのに、「家庭で調理してもあまり美味しくならない」というのが、今のところ、多くの人の正直な感想かもしれません。
そんなビーツを家庭で美味しく味わう料理のしかたを考え、提案していくのも、食育サイドの役割だと思われます。

まとめ

「脳」のために良いとされる「食べもの」「食べかた」を「ブレインフード」といいます。
「目的に合った食事」に関心を持つ人が増えていることから、ブレインフードの研究も急速に進められています。

  • ナッツ類(クルミ、アーモンドなど)

  • チョコレート(カカオ)

が「3大ブレインフード」と言われているが、ブレインフードに該当する食材はほかにもいろいろある。

ブレインフードは

  • 受験

  • 認知症予防

  • 仕事の能率向上

  • メンタルヘルス

  • 脳疾患の予防

への活用が期待されている。

ブレインフードの研究は今後も進むと思われますが、
ブレインフードを「おいしく」「楽しく」食卓に落としこむ工夫
も、求められています。




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