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聖夜に逢いたくて・・・【5分で読める短編小説(ショートショート)】

数年前から街がイルミネーションに彩られ、クリスマスムード一色に染まりだすと、ひとりの女性を思い出す。



「お疲れ〜!」

TAKUYAの合図で、いつもの様に打ち上げが始まった。

「ウメー!やっぱりライブ終わりの生は最高だなSEIYA!」

「マジでこのためにバンドやってるって言っても過言じゃないな」

「間違いないね!」

下北沢の居酒屋が僕ら『パーフェクト・グルーヴ』、通称・パーグルの溜まり場。

パーグルは、大学のサークル仲間で結成されたインディーバンド。

ギター兼リーダーのTAKUYA、ベースのKEI、ボーカルのYUI、そして、僕、SEIYAはドラムが担当。

卒業後もメジャーを目指し、時に喧嘩しながら仲良くやっている。

ちなみにYUIと僕は大学の頃、付き合っていた時期があるが、紆余曲折あり、今は一応、単なるバンドメンバーということになっている。

『一応』と言うのは、表向き別れたことになっているが、実は僕とYUIは付き合っている。YUIは歌唱力だけでなくヴィジュアルも抜群で、YUIの『顔ファン』も正直多いため、別れたということにしている。もちろん、メンバーにも内緒だ。

「YUI、お前なんだよさっきからつまんなそうな顔して!せっかく打ち上げなんだから飲めよ!」

いつものようにKEIが絡みだした。

するといつもはKEIの援護射撃をするTAKUYAが、その日は何故か遮った。

「なんだよ、TAKUYAまでノリがわりーなー」

『何かおかしい』と察した僕は暫く事の成り行きを静観していた。

「実は・・・」

TAKUYAが重い口を開いた。

「実は、メジャーデビューの話が来てるんだ」

「おい、マジかよ!?ふざけんな!早く言えよバカ!よっしゃーーー!」

『こいつはどこまで能天気なんだ?』と思いながらKEIのことを見ていると。

「俺らじゃねーよ、YUIにだよ」

TAKUYAによると、YUIにメジャーレーベルからお誘いが来ているらしい。しかし、その条件は「バンドを辞め、ソロに専念すること」という厳しいものだった。

YUIはあくまで4人でのメジャーデビューを望んでおり、仮にソロでデビューしたとしてもバンド活動は続けていきたいと先方に伝えているが、話は平行線のままという。

その後、僕たちはこの件に関して何度も話し合いを重ねた。

そして、その結果、YUIのソロでの活動を応援しようということになり、この4人じゃなければ『パーグル』じゃないというTAKUYAの強い思いで、バンドも解散することにした。

しかし、僕だけは100%もろ手を挙げて、YUIをメジャーに送り出すことが出来なかった・・・契約書にはもうひとつ大事な条件があった。

それは異性関係の清算。つまり、現在、交際している男性がいるなら別れなければならないということ。

もし、デビュー後にそのことが発覚した場合、多額の賠償金が要求される。

結局、僕らは別れることを選択せざるを得なかった。

あれから5年・・・

YUIはすっかり人気アーティストとしての地位を築き、連日テレビ、ラジオに出演していた。

そんなYUIの活躍に対し、嬉しい気持ちと、遠い存在になってしまった寂しさ、そして、何より引き留めることが出来なかった自分が情けなかった。

僕は現在もインディーでもがいている。

もちろん、それだけでは生活ができないので、バイトをして生計をたてている。YUIとは何もかもがかけ離れてしまった。

ある日、バイトから帰宅し、コンビニ弁当を電子レンジで温めテレビをつけた。すると偶然、YUIが映し出された。

『それでは、新曲『聖夜に逢いたい・・・』聴いてください』

一瞬、耳を疑った。

『いつも12月になると思い出す ♬

キラキラしていたあの頃を ♬

聖夜に逢いたい・・・ ♬

聖夜に逢いたい・・・ ♬

もしも時が戻せるなら聖夜に逢いたい・・・ ♬

聖夜に引き止めて欲しかった… ♬』

6畳一間の部屋で金縛りにあったように固まっていると、虚しく電子レンジの『チーン』という音が鳴り響き、僕の恋の終わりを告げた。





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