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地球建築家vol.6 前川國男Ⅱ

−前川國男と時間−

前川國男は私が最も影響を受けた建築家の一人である。

私の建築専門学校時代の卒業設計は「JR熊本駅建て替え計画」であった。気付くと前川國男の美術館建築そっくりな駅が出来上がっていた。それほど、影響を受けている。

まだ小学生の頃、私は熊本に住んでいた。父も母も美術が好きだった。前川の晩年の最高傑作とも言える、熊本県立美術館に度々連れて行かれた。

未だに鮮明に覚えている。中庭に落ちる美しい光。

「建築」というものを初めて認識したのは、おそらくその時だった。

その美しい光の記憶があったから、私は建築の道を選んだのかもしれないと、今振り返って思う。


前川國男は「日本の近代建築の一つの型」を作った建築家ということが出来る。その中で前川國男は建築と時間の問題について、誰よりも真剣に考え、取り組んだ。

なんと言っても、前川はニセモノが嫌いだった。ホンモノ建築にしか興味がなかった。薄っぺらいモノは決して許さなかった。

では、前川が言うホンモノ建築とはどんなものであろうか。

それは、氏の建築を実際に体感して感じ取ることが最も効果的と思われる。しかし、敢えて言葉で表すのであればこうではないだろうか。

時間を味方につけ、時間が経てば経つほど美しくなり、価値を増していく建築。

そのために前川が用いたのが「打ち込みタイル」である。

焼き物は日本の建築素材として相当なウエイトを占めるべきだ、そいう考えはもともとあった。・・・ただ、いままでは(タイルを)張るとき(モルタルの)ダンゴでやったから雨水が侵入してトラブルがある。そういう張り方をしないでやったらどうか、ということで考え出したのが、いわゆる打ち込みタイルです。

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日本は地震が多い。建築基準法により、純粋な組積造では大規模な建築物は作れないようになっている。そこで前川は、コンクリートと一緒にタイルを打ち込む事を考えついたのだ。

なぜ、そこまでしてタイルにこだわったのか。

石というのは古くなれば古くなるほどよくなるのに対して、鉄は逆だし、コンクリートは風化に耐えられない。

石は「地球(火山)の焼き物」である。タイルは「釜の焼き物」である。タイルは石と同等と見ることもできる。

焼き物は時間が経てば経つほど味が出て美しくなる。

熊本県立美術館はその事を誇らしげに、謙虚に語ってくれる。竣工から45年以上経ったにもかかわらず、その美しさと存在感は増すばかりだ。

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これほどの説得力があるだろうか。モノは誰よりも雄弁である。

前川國男が目指したホンモノ建築は正しかったのだ。

熊本県立美術館という歴史がそれを証明している。




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