日常生活で利用できる、精神保健福祉制度によるサポート
精神疾患や精神障害の症状は人によってそれぞれです。さらに、治療は長期にわたることが多く、困難や困りごとを抱えながら日常生活を送り、仕事をしている人も少なくありません。
そんな人をサポートするために、精神保健福祉法や障害者総合支援法、生活活保護法などを中心としたさまざまな精神保健福祉制度があります。当事者の方はもちろん、家族や専門職の方も、たとえいますぐ必要ではなくても知っておくことで功を奏する機会があるかもしれません。
そこで今回は、翔泳社から発売中の、改正精神保健福祉法(2023年・2024年施行)に対応した精神保健福祉制度の解説書、『これならわかる〈スッキリ図解〉精神保健福祉制度のきほん 第2版』を紹介します。
本書は精神保健福祉に関する制度・サービスをわかりやすく整理し、(紙の本では)見開きで1つの項目を解説する構成となっています。どんな制度やサービスがあるのか、そのメリットや利用方法はどうなのかがすぐに掴めます。また、精神疾患や治療法、支援にかかわる専門職などについてもやさしく解説しています。
この記事では「第7章 日常生活で活用できる支援制度」から一部を抜粋して紹介しますので、日常生活で困っていることがある方や、本の内容を知りたい方はぜひチェックしていただけると幸いです。
障害により生活や仕事に制限を受けた場合の年金制度
「症状が固定したか」がポイント
精神疾患を患った時、皆さん心配されるのは、「どうやって生活しよう」ということです。仕事をしていた人であれば、一定期間は傷病手当金の利用が考えられますが、それ以降、復職ができなければ、収入のあてがなくなることになります。しかし、精神障害による生活のしづらさが出た中で、新たに仕事を始めようとするのは相当の負担になります。
そうした場合に利用できる制度の一つに、障害年金があります。年金というと、一般的に老齢年金を想像しますが、障害により今までのように働くことができなくなってしまった場合にも受給できます。
障害年金を受給できる基準として、障害による生活のしづらさの度合いに加えて、その状態が「固定」されているかどうかがポイントになります。精神障害の場合、症状の浮き沈みがあるため、初診から1年6か月が経過しても、障害年金を受給できる状態が続いているかどうかで、受給要件があるか
を判断することになります。
丁寧な説明で支援を
障害年金は基本的には障害等級2級以上(厚生年金加入者は3級以上)で支払われますが、中には受給に不安を感じる人もいらっしゃいます。例えば、障害年金を得たら、もう働くことができないのか、という不安です。働くことは人生において重要な要素ですが、障害年金の申請をすることで、自分が「もう働けない」という烙印を押されたような印象を受け、受給できるのにしないケースもあります。
一方で、障害年金を受給できることを知らないまま、ずっと生活していることもあります。この場合、過去5年分までは遡って請求することが可能です。
お金は生活する上で大切なもの。障害年金は基本的に、年金を支払ってきた人の権利ですから、制度の内容、対象となるかどうか、必要な手続きは何か、受けることによる不利益はあるのかなど、丁寧に説明しながら支援していくことが求められます。
精神障害者保健福祉手帳で受けられる様々なサービス
税金控除や障害者加算などを実施
精神障害者保健福祉手帳の概要はすでに説明しているので、ここでは具体的にどのようなサービスがあるのかを確認していきましょう。
手帳のサービスは、全国的に実施されているサービスと、地域独自で実施されているサービスの2つに分類されます。
まず、全国的に受けられるサービスとして、所得税及び住民税の控除があります。また、これは等級が1級の場合に限られますが、自動車税・軽自動車税の減免を受けることが可能です。家族等が生計を同一にしている場合は、通院などで障害者専用に使用するのであれば、その家族等が所有する自動車も対象となります。
その他、NHKの受信料の減免、生活保護の障害者加算などもあります。携帯電話料金の割引もありますが、こちらは格安SIM業者などでは実施されていないので注意が必要です。
JR割引はいまだ実施されず
地域独自のサービスでは、その自治体住民限定といったケースもあるものの、地下鉄や市バスなどの公営交通の多くが割引制度を実施しています。一方、JRや大手私鉄の多くでは、精神障害を対象とした割引制度は行われていません。中小私鉄も対応に差があるため、事前確認が必要です。航空会社
では、大手は割引を実施、LCCの多くは未実施という状況です。
その他、公共施設の利用について無料もしくは低廉な金額で利用できるケースが多くあります。例えば、筆者の地元・岐阜県では、県美術館や岐阜城などは無料、市営駐車場は割引となっています。その他、一般企業が行う独自の割引制度もあるので、デイケアなどで外出プログラムを考える際などは、手帳が使えるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
とはいえ、他障害の手帳とのサービス格差は少なからずあります。今後、利用できるサービスの拡充が求められます。
家以外の居場所が欲しい時には?
居場所が欲しい人は多い
精神障害のある人には、「居場所がない」とおっしゃる方がとても多いです。実家に住んでいる人も多くいらっしゃいますが、ずっと家にこもりっぱなしになると、どうしても居心地が悪かったり、そんな自分にいら立ったりすることもあるでしょう。
学生や社会人として働いていた時には学校や会社が居場所の一つだったかもしれませんが、休学や退学、退職の結果、行く場所がなくなり、「まずは居場所となる場が欲しい」という人は多いのです。
障害者総合支援法における地域活動支援センターや就労継続支援B型などは、そういった人たちの大切な居場所となっています。
行きたい時に行ける場所
地域活動支援センターは、主に相談支援や居場所としての役割を持ち、施設ごとに特色のあるプログラムを用意しています。プログラムによっては別途費用がかかる場合もありますが、他の利用者やスタッフと話をしに行く、というだけでも利用することが可能です。
地域活動支援センターはⅠ〜Ⅲ型に分かれており、種別によって持っている機能が異なります。利用する際には、その施設が自分が求めるサービスを行っているかを確認するとよいでしょう。
働くことも視野に入れるなら
就労継続支援B型事業所は、名前の通り就労支援のための施設ですが、一方で居場所としての役割も持っています。「働きたいけれど、まだ一般企業で働くだけの自信はない」「簡単な作業から始めてみたい」「日中することがないので何かをしたい」といった人のために、軽作業などを実施しています。
施設によってはお店を開いているところも多くあり、地域に複数施設があれば自分が興味のある事業をしているところを選ぶとよいでしょう。その人の状況に合わせた作業を行う中で、安心感の獲得や、就労に対する意欲の向上などを目指していきます。
急な出費など、お金の問題に対応する制度
お金を借りられる制度がある
精神疾患にかかった際は、ストレスをかけずゆっくりと静養することが大切です。しかし、体調の急変で急遽入院する可能性もあります。また、症状の悪化で仕事をやめた時などに、頭を悩ませるのが「お金」の問題です。
本当に当座のお金がない場合もあれば、定期的な収入はあるものの額が多くなく、急な出費に耐えられない場合もあります。かといって銀行からお金を借りることは難しかったりしますし、消費者ローンも金利の高さがネックになります。そんな時に活用できるのが、都道府県社会福祉協議会が実施している生活福祉資金貸付制度です。
無利子、低利子が魅力
2020年に生じた新型コロナウイルス感染症対応の際にも話題になった制度ですが、本来は低所得者世帯や障害者、高齢者がいる世帯に対して、生活の安定と経済的自立を図ることを目的に実施されるものです。
基本的には連帯保証人が必要ですが、いない場合でも利用できます。この制度の最大の特徴は、無利子あるいは低利子であること。融資までの時間が短い消費者金融などの利率は概ね3〜18%の間にあることが多いですが、この制度では連帯保証人がない場合で1.5%、緊急的に必要な少額の貸付の場合や連帯保証人がいる場合などについては無利子となっています。
不安な時には相談
生活福祉資金貸付制度には、総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金があり、障害者世帯としての申請の場合は、精神障害であれば、原則、精神障害者保健福祉手帳の保有が条件となっています。
借りられる金額についても、資金が必要な理由によって違いますので、自分の状況に応じてうまく利用してみましょう。具体的な相談は、居住する自治体にある社会福祉協議会で行えます。金銭的な不安が出た際には、まずは気軽に相談をしてみましょう。
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