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【小説】つまらない◯◯◯◯ 66(終)

 首にまわされている聡美の腕をつかんで背中のほうに引っ張った。聡美の目の中が揺れて、もう片方の手と合わせて、のろのろと両手が腰のほうに降りてくる。腰から尻にかけての肌に聡美の手のひらがぴったりとくっついてくる。俺がその感触に気持ちよくなる瞬間を聡美がじっと見ている。手のひらの感触が移動してきて、両方の尻の肉をしっかりとつかみ直してくる。ぎゅっと握るようにして、それから、抱えるような形にぎこちなく手が動いていく。
 かわいい人だなと思う。どうしていいのかわからないまま、何をしてくれるわけでもないけれど、俺がしていることを全部しっかり感じようとしてくれている。俺がいくのを待っているのかもしれない。いくのをちゃんと感じてあげたいと思ってくれているのだろう。ぼけっとすることなく、ずっと俺の目を見詰め続けている。それを見詰め返して、聡美の目の奥を感じ取ろうとすれると、また自分の中が聡美の感触だけでいっぱいになってしまう。
 頭が何を思っていても、身体は聡美の反応しか感じようとしていなくて、聡美が気持ちいい状態を続けられるようにということにしか意識がいかなくなっていく。そうしているうちに、また自分の思っていることが放り出されたままの空っぽが始まっていく。気にしていたことが気にならなくなって、見ていることしかできなくなって、聡美の目の中に引きずりこまれていることも忘れて、何も頭に浮かんでこなくなっていく。聡美が俺を感じていられるように、俺が聡美としていてどんな気分なのかがわかる顔で、どんな気持ちかわかるような腰の押し付け方をしているだけになっていく。言ったほうがいいことがあっても、確かめたほうがいいことがあっても、このしっかりと身体と視線が絡まり合った状態を途切れさせたくなくて、何をしようとすることもできなくなっていく。何もできなくなっていくのではないのだろう。もうずっとくっついているだけで何もしていないのだ。
 お互いが感じ合うことにしがみついて、そのしがみつく強さだけで気持ちよくなろうとしてしまっているのだろう。何でもできるのに、何もしないままになっている。もっと聡美が喜びそうなことをたくさん言ってあげればいいはずなのだ。「今までで一番気持ちいい」「ずっとしてたい」「明日もしてたいし、明後日もしてたい」「これだけでいい」「好き」「俺のためにもっとエロくなってくれる?」「もっと大きくなくてごめんね」「かわいいからうれしい」「ずっとかわいいと思ってたよ」「こんなかわいい子が俺としてうれしそうにしてくれてるなんて夢みたいだよ」何でも言えばいいのだろう。嘘ではない範囲でいろんなことが言えるのだ。そういう気持ちを刺激してあげられる駆け引きも、愛し合っているふうのプレイも、そういう聡美にしてあげられる楽しいかもしれないいろんなことを、この引き付けあった時間を邪魔するもののように思って、何ひとつ持ちかけてあげることができない。ただ聡美を見詰めて動いているだけで満たされてしまっている自分を正しいと思っているのだろう。感じることに没頭できることを正しいと思っていて、感じることが誠実さだと思っているのだ。それが、今だけよければいいという、相手だけを大切にして、相手との関係を使い捨てるような態度だということをわかっていて、その間違った正しさに、自己嫌悪と自己陶酔を区別しきれないまま浸っているのだ。
 気持ちよすぎるのがいけないのだろう。気持ちよくなれさえすれば、気持ちいいことが正しいことに思えてしまって、もっと気持ちよくなればいいんだとしか思えなくなる。
 どうしたらいいんだろうなと思う。いろいろ思うのだ。諦めるしかないのはわかっていても、どうしてもいろいろと思ってしまう。いろいろと思うことは当たり前で、そのいろいろな思いのすべてを抱えていようとしていたら、誰とも一緒にいられない。だから諦めるしかないというのはわかっている。みんな諦めたのだろう。けれどみんな諦める前にはどうしようもなくいろいろ思ってしまったのだろう。みんな、諦める前の姿と、諦めたあとの姿しか見せてくれない。そして、諦めたあとはいろんなことを黙ってしまう。みんな諦めるときには、このいろいろ思ってしまうどうしようもなさを諦めているのだろう。このいろいろ思ってしまうどうしようもなさが、俺にとっての自分のそのものなのに、諦めた人たちはそのどうしようもなさを諦めたのだ。
 理不尽だなと思う。好きになった人と一緒にいるために、自分を諦めないといけない。だったら、この人が好きになってくれた俺というのは、俺じゃないんじゃないかと思う。いろいろがない俺が求められていて、俺はこの人のために、自分の中のいろいろなものを捨てなくてはいけない。この人は俺が俺にとって俺じゃなくなるのを待っているのだ。この人は俺が俺にとって俺じゃなくなったらとても喜ぶのだろう。そこまでして、俺はどうしたいというのだろう。お互いをペットと飼い主のように扱い合って、いろいろあることに邪魔されない安らかな時間をできるだけ長続きさせるプロジェクトに俺は参加したいのだろうか。それが嫌なわけでもないし、わかってもいるのだ。どんな退屈にも退屈できるし、たいした苦労もなく慣れていける。そして、今はくっついているのが気持ちがいい。他のことはどうでもいいと思っている自分を自分で許してしまっている。
 理不尽だなと思う。セックスにしかたいして興味が持てないのに、それでもセックスのために何もかもを諦められない。きっと、俺はもっとセックスを嫌いになるべきなのだろう。そうすれば、俺の心の中はもっとすっきりと晴れ晴れするのだろう。けれど、聡美とくっついているのが気持ちよすぎて、聡美がかわいいことが心の中をあまりにも温かい感情で満たしてしまう。こんなふうに満たされた気分で毎日を過ごしていたいのに、今の俺には、聡美とこうしている以外に、こんな時間を手に入れることができない。無力だなと思う。そして、自分の無力さを踏まえたうえで何かを望むこともできないくらい頭が悪いままでも生きていけてしまうことが理不尽だなと思う。
 相手からも、自分の身体からも、いろいろなんていらないんだよと教えられているようだなと思う。たしかに、いろいろ思ってきてよかったことなんてほとんどなかったのだ。こんな自分でよかったなと思えないのに、それでも意地になっていろんなことを思おうとして、その結果、自分でも持て余しているいろいろを相手が受け止めきれないからと、相手との未来から逃げ出して、相手を深く傷付けてきたのだ。自分の今までがまるっきり無駄だったんだなと思う。そんなもの捨てて、聡美を幸せにしてあげることは俺には簡単なのだから、そうしてあげればいいのにと思う。諦めさえすればいいのだ。そのあとは、俺には簡単すぎる。気楽なお喋りでも、真面目な話でも、悲しいときにそばにいるのも、ご飯を食べるのも、酒を飲むのも、セックスも、何をしていても簡単に満足してもらえる。相手が聡美だったら、あまりにも簡単すぎるのだろう。退屈なんだろうなと思う。けれど、退屈には慣れていける。聡美はセックスでぼんやりし始めるかもしれないし、そうしたらつまらない気持ちにはなるのだろう。けれど諦めたあとなら、ちゃんとセックスしないと別れると脅し続ければいいのだろう。うまくできなくてヒステリックにしがみついてくるところ止まりだったとしても、多少は気持ちのやり取りにはなるだろう。セックス以外は大丈夫なのだ。聡美は充分すぎるほど良心的で建設的な人だし、面倒くささよりも楽しいことを選びたがる人なのだ。諦めたあとなら、聡美とはずっと一緒にいられるのかもしれない。
 そして「寂しくはなくなったけれど孤独なままだ」と思ったりするのだろうか。その友達からのメッセージに対して俺は「俺は寂しくなることはあるけれど、あんまり孤独は感じないかな。役割を果たしたってだけではなかった他人との関りの感触が自分の中に残ってるから、孤独って感じはあんまりない」というようなことを返した。諦めたあとには、そんなふうには思えなくなるのかもしれない。
 ただ、俺はそんなふうにメッセージを返したとき、寂しいと孤独とは別のものなんだろうかとも思っていた。寂しさは、しばらく寂しくない時間を過ごしたからといって、お腹が空くようにしてそのうちにまたやってくる。お腹が空かなくなるということがありえないように、寂しくならないなんていうことはありえないだろうと思った。けれど、友達は寂しくなくなったというふうに言葉を選んでいた。たしかに、食べ続けていればお腹は空かない。寂しさも、寂しくない時間を延々と過ごしていれば、寂しくならないのかもしれない。お腹は空かなくなったけれど飢えたままだというような意味で、寂しくはなくなったけれど孤独なままだということだったのかもしれない。それはたとえば、点滴を打って何も食べられないままになっていたら、何かを噛みしめて味わって飲みこむあの感覚をまた感じてみたいと思うようなことなのだろう。
 いろんな用事と役割を分担して、それをこなすことをいたわり合っているばかりで時間が過ぎていって、自分の中に気持ちが閉じ込められて、誰もその気持ちに触れることがないのなら、気持ちはひとりぼっちなのだろう。その友達はまだ自分の気持ちを抱えたままでいて、けれど、仕事も忙しいし、奥さんも子供にかかりっきりだったりするのだろうし、自分の気持ちが自分の生活から遠ざけられて、自分の中で、気持ちだけが寂しがっている状態だったのだと思う。
 そして、その友達だって、諦めた結果そうなったのだ。諦めた結果の孤独に、まだ何か思いたがっているだけで、そのうち諦めたあとの自分についても諦めるのだろう。たまに心の片隅で孤独を感じたとときにも、目の前に寂しさが見当たらなければ、自分のことを孤独だと思っていても何もいいことがなかったなと疲れていく。自分の気持ちが自分だなんて思わなければ、寂しくなければ孤独じゃないと思えるようになれる。諦めればそうなれるのだ。ちょうど別の友達の結婚式で明日会うけれど、もうそこまで諦めたあとのあいつと俺は言葉を交わすのかもしれない。
 きっと、諦めたからって何も困らないのだろう。みんなそんなものなのだし、俺にしたって、遅かれ早かれいつかは諦めるのだろう。いい歳になってくれば、ほとんどの人は自分の気持ちを自分だとは思っていないのだ。自分の影を自分だと思わないのと同じなのだろう。気持ちは気にしても仕方がないものとして放置されていく。何かしらを感じても、感じたことにいろいろ思ったりなんかしなくなる。自分の中の孤独の気配を、単なる寂しさとして暇つぶしで気を逸らしてやり過ごしていける。会社にいても、浅い関りの友達や知り合いと話していても、ほとんどの人からは感情なんてほとんど感じ取れない。もの欲しさとストレスと快不快に対しての反応が浮き沈みしている気配しか感じない。そういう人たちも、たまには気持ちの逃げ場のない状況で、思っても仕方のないことがあふれ出て、自分は寂しくなかったとしても孤独だと自己憐憫に浸ったりするのかもしれない。それが許される相手がいる幸運な人なら、たまに近しい相手に向けて気持ちをあふれさせて、うまく振る舞えないし、うまく言葉にもできなくて、相手には寂しさとか不安があるという以上にはたいして何もはっきり伝わらなくて、けれど好きなのだという気持ちで充実したセックスをして、その相手がいてくれることに感謝することで自分の気持ちをうやむやにしたりするのかもしれない。何にせよ、それくらいの孤独なら、自分の気持ちは諦めていられるのだろう。
 どうしたところで、自分の気持ちを誰かの気持ちと触れ合わせながら顔を向け合って、そこで流れる時間の中で、それまでに感じてきたことの続きとして何かを新しく感じられたりでもしないかぎり、自分は自分の気持ちを生きているなんて思えるわけがないのだ。そして、相手の気持ちを感じていることに目の奥がうれしそうにしている顔でお互いの気持ちを受け止め合えなければ、誰かが自分のことを認めてくれているなんて思えるわけがない。それは、ヒステリーと見分けがつかないように気持ちをあふれさせて、それを相手が逃げずに受け止めてくれただけのこととはまったく違ったことなのだ。誠意の問題ではなく、興味の問題なのだろう。役割を果たすだとか、巡り会えたことや今まで過ごしてきた時間の重みだとか、そういうことではないのだ。みんないろいろある中で、いろいろ感じて、何かしらかを思っている。けれど、いろいろを含めて関わって、いろいろがあるままで何かがどうにかならなければ、自分なんて誰にも感じてもらえないのだ。
 俺にしたって、そういういろいろ思ったことの続きを自分の中に感じた瞬間にしか、自分のことをまともに感じられたことはなかったのだと思う。いろいろ思っていなければ、よかったなと思えることも、よくなかったなと思えることもあとには残らなかった。いろいろ思わないまま起こったことは、そういうこともあったなとしか思い返せない。いろいろ思ってしまってくよくよしていたことの周辺にしか、あとになって振り返ったときに自分はあのときそうだったなと思えるような実感は残らないのだ。だからこそ、いろいろ思ったまま関われる誰かと、いろいろ思いながら時間を過ごしたいなと思っていて、聡美はそういう相手なんだろうかと、いろいろ思ってしまうのだ。
 何がしたいというわけでもないのだ。誰かといい時間を過ごせているときに、自分はそうなんだなとか、この人はそうなんだなと思って、大切なものに触れたように感じることがある。役割ではなく、お互いのいろいろを持ち寄って、お互いのいろいろがたしかにどうしようもなくいろいろ思ってしまうものだということを認め合って確かめ合ったような、そんな瞬間がたまにあって、それがもっと欲しいなと思っているだけなのだ。
 そして、そんなふうに自分を確かめられたって、お腹が空くようにして、時間が経つだけでまた寂しさはやってくる。寂しくなくなりたくないのなら、誰かとずっと一緒にいるしかないのだろう。けれど、誰かとずっと一緒にいることは、積み重ねられていく習慣に先回りされ続けて、自分の気持ちをいつまでも黙らせていくことだったりする。けれど、犬だって、毎日代わり映えしない黙ったままの散歩で満足しているのだ。人間だからって、動物なのだからそれで満足しておけばいいのだろう。野良犬のような目をして生きていたくないのなら、飼い犬のように生活するしかないのだ。
 そういうことも含め、どうしてもいろいろ思うのだ。そして、それはただ、俺が何を選ぶつもりもないからというだけなのかもしれない。何かを選んで、その役割を自分そのものだと思うことができれば、いろいろはいろいろではなく、その役割を支えるものとそれを邪魔する気の迷いに整理される。いろいろ思ったからって、いろいろがいろいろなままで抱えきれなくなったりなんてしなくなる。
 けれど、仕方がないだろう。今だって、ただ気持ちがいいだけで、聡美が欲しいなんて思っていないのだ。気持ちよくなりたいと思っていたわけでもなくて、ただこういう流れがあって、気持ちいい時間が流れ始めて、それをありがたいことだなと思っているだけなのだ。何が欲しいわけでもないのに、何を選べるのだろう。そして、どうしたら何かを欲しがれるのか、ずっとわからないまま過ごしてきたのだ。
 こんなふうにいろいろ思うことのすべてが、あとから振り返ってみれば、そんなこと考えても仕方なかったのになと思うようなことなのだろう。けれど、自分が何を欲しいわけでもないかぎり、あとから思えばなんていう思い方は、ちっとも意味がないことなのだ。もちろん、そういうふうに思うことも含めて、いつかそんなふうに思っても仕方のないことだったと思えるのだろう。それはわかっているのだ。いろいろ考えても何にもならなくて、せいぜい嫌な気持ちになることが少なくやっていけるようにすることしかできないのだ。そんなものだと諦めるしかないのだし、今は嫌なだけじゃなくて、どうしようもなく気持ちがいいのだから、とんでもなく上出来なくらいなのだ。
 聡美が小さく身体をよじって、声の混じった息を吐いた。まただんだんと自分の中に溜まってきた気持ちよさに、顔をゆるく歪ませながら息を詰まらせてくる。
 聡美は、早くいけというわけでもなく、自分の中にまた快感が高まってきていることがうれしいというわけでもないような、ただ自分の身体を感じている顔で俺を見詰めている。
 お互いに好きとか好きだよと言ってから、ずっと黙ったままな気がする。聡美がいやと言って俺に動くのをやめさせて、聡美が好きなのと何度も言って、俺も好きだよと言ったけれど、聡美は好きなのと繰り返しているときの顔のままで、ずっと俺を見詰めている。好きなのという顔のまま息を大きくしていきながら、俺のペニスを通して自分の身体感じ続けている。一緒にいけるところまでは持たないだろうけれど、じりじりと高まっていく聡美をまだ確かめていたいと思う。
 ずいぶん時間が流れているのだろうけれど、どれくらい時間が過ぎたのかは、終わってみないとわからない。ペニスも腰も快感を溜め込みすぎて、うんざりするほどにだるくなっているけれど、それにしたって、もうどれくらいの時間うんざりしているのかわからない。
 聡美を気持ちよくしているということの気持ちよさに浸って、けれどそれに浸りすぎて、自分の気持ちよさがふやけてうんざりしてくるような、そういう感じになっていくために、眠るまで赤ん坊をゆすり続ける寝不足の母親になったみたいに、聡美の気持ちいいことを続けることだけ意識して、ずっと自分の気持ちよさを放棄している。それなのに、放棄しているはずの俺もこんなに気持ちよくて、ペニスは自分の中に溜まりすぎた気持ちよさを聡美の中に吐き出したくてたまらなくなっている。
 まだもう少しは持つのだろう。終わろうと思えば、大きく腰を動かし始めるだけで十秒もかからずに終わってしまえるところまできている。けれど、まだ終わりたいというわけでもない。お互いを感じ合いながら、お互いの中で終わっていきそうになっていくものを感じ合って、その終わりの気配をきっかけにして、終わらなくてもいいのにと思いながら終わってしまうのだ。もう充分に疲れた身体になし崩しに終わらされていくことを残念に思いながら、終わることでゆるむことができることにほっとしたくもありながら、終わっていく瞬間にこわばって、終わっていく感触に呆けたようにどっぷりと浸って、終わりきってから深く息をつくのだ。
 そんなふうに終わるのだろう。それでいいのだ。ただ、何も思わなくなっていけば、頭の中は聡美の感触だけになっていく。そうすれば、そのうちにそんなふうに終わっていく。そして、終わったあとは、身体の中の熱が引いていくのを感じながらキスをして、ふたりでどろんとした目を覗き合う。何を思うというわけでもないまま、なんとなくのタイミングで起き上がる。あとはシャワーで身体を流したら、十分もしないで眠ってしまうのだ。
 正常位のままだった。聡美とくっついて身体を触りあって、入れよと言われて正面から入ったあと、お互いに見詰め合いながら、聡美を感じることしかできなくなっていた。何をしているわけでもないのに、聡美を感じているだけで時間が過ぎていく。あとで思い出せるようなことを何もしないまま、ただ聡美の感触に浸っていただけのセックスになってしまった。好きだという以外にもいろんな気持ちがあるのに、感じ合っていることの気持ちよさに浸りながら、好きだという気持ちだけで見詰め合って時間が過ぎていく。これが俺のしたいことで、こんなことをしているから俺はダメで、けれど、どうしようもなく、何も考える隙間もなく、いきそうになっている俺を見詰める聡美の感触で、頭の中は埋め尽くされていく。


(終)


(全話リンク)


この作品よりあとに書いたものなので、こちらのほうが面白いです

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